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リストラヒーロー、猫に絡まれる

 広い草原を爽やかな風が駆け抜けていく。

 吾郎は髪を優しく撫でていく風を感じながら、草原にゆっくり腰を下ろした。

 普段なら何とも思われないだろうが、今はケルベロスの爪の護衛の最中である。

 ケルベロスの爪は貴重なマジックアイテムであり、いつ襲撃があってもおかしくはない。

 その為、他の護衛は休憩中でも周りへの警戒を怠っていないし、いつでも武器を手に取れる様にしていた。

 しかし、吾郎は辺りを全く警戒せずに、じっと地図を見ているだけなのでかなり浮いている。


「お前、やる気あるのか?名前と階級を述べろ」

 そんな吾郎を見かねたらしく、でっぷりと肥えた虎柄の猫人が嫌味たっぷりに声を掛けて来た。 


(タバコ屋のトラに似てるな。太々しい所なんてそっくりだ)

 吾郎の実家の近くにあるタバコ屋で飼われている虎猫の事を思い出していた。

 客に餌をねだりまくりでっぷりと肥えた虎猫である。

 餌をくれる客には愛想よく懐くが、餌をくれない客には見向きもしない現金な猫であった。


「丙種のゴロー・オオトリです。それと、あるから地図を見てるんですよ。それに、こんな所から気を張っていたらバテちゃいますよ…襲撃があるとしたら七日目か最終日ですね」


「なんで襲撃がないと分かるんだ。さぼる口実じゃないだろうな」

 虎柄の猫人は、ネズミを甚振いたぶる時の様に加虐的な笑みを浮かべている。

 経験が浅く無知な丙種の猿人をからかうのが楽しいのだ。

 しかし、吾郎は冒険者としての経験は浅いが事戦いに関してはスペシャリストである。


「周りを見て下さい。何が見えますか?」


「何がって草原だろ。まさか身を隠す場所がないからって言うんじゃないだろうな。木にも身を隠せるし、この先には小屋もあるんだよ」


「その答えなら五十点ですね。まず、この草原に潜める人数には限界があります。それに直ぐに囲まれてボコボコにされるだけですよ」

 小屋に潜めるのは精々十人程度、総勢百人を越す集団に敵うわけがない。


「し、少数精鋭で攻められたどうするのだ」


「これだけ見晴らしが良けりゃ自動箱を隠せません。これだけの自動箱から走って逃げられると思いますか?」

 吾郎は思惑があり、雇い主てある猫人に挑戦的な態度をとっていた。


「丙種の冒険者風情がベラベラと。私はケルベ教の神官トーナリー・ノ・ターマーだぞ」

 トーナリーは毛を逆立てながら吾郎に詰め寄って行く。

 

「トーナリーの止めなさい。オオトリ様、なぜ七日目と最終日に襲撃があると思うんです」

 吾郎とトーナリーの間に割って入って来たのは猫人の女性。

 ペルシャ猫の様に純白の長い体毛を持ち、高貴な身形をしている。


「最終日ってのは、どうしても気が緩むから狙われやすいんですよ。そして七日目には峠を通るから一列にならなきゃいけません。横から突かれたお仕舞いですよ」

 確かに、七日目に通る峠で襲撃を受ければ谷底にまっ逆さまである。


「知らないのか?あそこの峠にはレグールの寺院があって、もう話をつけてある」


「だからですよ。噂を聞いてるからこれだけの人数を集めたんですよね…マジックアイテムを集めているレグールのオーブネンの事を。木を隠すなら森に、坊主を隠すなら寺にって所ですかね」

 あれだけマジックアイテムに執心しているオーブネンが、ケルベロスの爪を狙わない訳がない。


「随分とお詳しいのですね。トーナリーの私の自動箱にオオトリ様達を案内して下さい…申し遅れました、私は今回の代表をしているヤーノ・ペルシャと申します」

 そう言ってヤーノはにっこりと微笑んだ。

 

―――――――――――――――


 吾郎達が案内されたのはリムジン型の自動箱。

 ヤーノはジュングラ市の市長の娘であった。


「まず、オオトリ様はどこでオーブネンの事を聞いたのですか?」


「ちょっとオーブネンとは因縁がありましてね」

 吾郎はオーブネンの護衛をしてタイネンと知り合った事や、マイが奴隷になった経緯、墓場で人意的に操られたオーガと戦った事を伝える。


「そうですか。マイ様も大変でしたね」


「いえ、お陰で今は幸せですから。ヤーノ様、オオトリさんは戦いの経験が豊富な方です。どうかお耳をお貸し下さい」

 マイはそう言うと、ヤーノに頭を下げた。 

 

「むしろお願い致します。オオトリ様は私達の知らない知識を持っている様ですし」


「ここにいるタイネンはオーブネンと同じくレグールの坊主だった男です。七日目はタイネンとマイを先頭に加えてもらえますか?」

 護衛の先頭はある意味花形である。

 ましてや今回はケルベ教の宗教的な意味合いも大きい。


「ならぬ!!他教の神官を先頭に加える等了解出来る訳がない」

 トーナリーが尻尾の毛まで逆立てて拒否をする。


「訳を聞かせてもらえますか?」


「余計なトラブルを防ぐ為ですよ。下手すれば向こうに大義名分をあたえてしまいます」

 宗教的な決まり事は、その宗教で大きく違う。

 ましてや峠はレグール教の管理下にあるのだ。

 レグールの決まり事を守れないと、何をされるか分からない。


―――――――――――――――


 ヤーノの自動箱からの帰り道、サクラが吾郎に話し掛けてきた。 


「本当に峠でレグールの奴等が襲ってくるのかい?」


「さあな、あくまで可能性が高いってだけだよ。でも、防ぐ対策をとって損はないだろ」

 峠で虚を突かれたら後手後手に回ってしまう。


「それなら斥候を出せば良いんじゃないか」


「宗教的な紋様とかを道に書かれて踏んだりしたら、難癖を着けられてケルベロスの爪を取られるかも知れないだろ。タイネンがいればそれを防げる。それにタイネンを慕う若い神官は少なくんだよ。彼奴が先頭にいるのを見たら襲撃を躊躇うと思うぜ」

 吾郎は七日目の戦いで本気で戦う気がなかった。 

 彼の予想が正しければ、オーブネン以上の敵が潜んでいるのだから。

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