リストラヒーロー、異世界?へ
読めないって話が来たんですが、なぜだろう?
暗闇をソンビの様なフラフラした足取りで歩くスーツ姿の男がいた。
ついさっき、リストラを宣言された吾郎である。
リストラ、その四文字が吾郎の頭を占領していた。
吾郎は中二でコカトリスイエローになり、二十年近くクリプティッドファイブの二代目イエローとして頑張ってきた。
その為、部活も出来なかったしデートの最中に呼び出されて彼女に振られた事もあった。
吾郎は人生の全てをクリプティッドファイブに捧げてきたと言って過言ではない。
知らず知らずのうちにやって来たのは
、居酒屋マモさん。
名前の通り、吾郎の友人でデススプリガンこと富山守が経営する店である。
「いらっしゃいー…ゴロちゃん今日は流石に不味いでしょ」
吾郎を出迎えたのは、守の妹の富山風香。
彼女もまた居酒屋マモさんの看板娘とファータの幹部ブラックシルフを兼任している。
開店間もない事もあり、店には吾郎以外の客はいない。
「ゴロー、うちは客は断らないが主義だが流石に今日は止めておけ。自棄酒をしてにきた組織の連中と鉢合わせをしたらどうするんだ?」
「大丈夫だよ、大丈夫」
守の問い掛けに吾郎は、蚊のなく様な声で答える。
「大丈夫って…ゴロー、何があった?お前が大丈夫に見えないぞ」
付き合いが長いだけあって、守は吾郎の異変に気付く。
「だって、俺をクリプティッドファイブをリストラされたから…今はただの無職のおっさんだよ」
胃の腑から絞り出す様な声を出した吾郎を見て、守は風香に指示をだす。
「風香、ノレンを下ろせ。今日は休みだ」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お通しを出されたが、吾郎は全く手をつけずにカウンターの木目をじっと見つめている。
「で、何をやらかしたんだ?セクハラか?」
守は女性に対して奥手な吾郎がセクハラをする訳がないと思うが、勤務態度も真面目でクリプティッドファイブ中で一番強い吾郎をリストラする必要性を見つけれなかった。
「してねーよ。上からの指示で若い女性職員は見ない様にしてるし、仕事以外の用事で話し掛けない。ついでに若い連中の飲み会には金だけ出して顔は出さないし、ラインのグループにも参加をしていない。その所為で、ますます女と縁遠くなったけどな」
「その言い付けを真面目に守るんだな。それなら何でリストラされたんだ?」
この馬鹿正直さがなかったら、吾郎はもう少し人生を楽しんでるだろうと守は思った。
「俺達の組織って営利目的じゃないからスポンサーから金をもらって運営してるだろ?最近、新しくスポンサーになった宝石商が金を沢山出してくれるけど口も沢山出してくるんだよ。そいつからクリプティッドファイブをてこ入れする様に申し入れがあったらしい」
「てこ入れって…番組みたいだな」
「正にその通りだよ。人気の落ちたテレビ番組のキャストを入れ替えるてこ入れと一緒さ。なんでもスポンサーの宝石商や服屋とクリプティッドファイブがコラボさせるらしい。正義の味方も金には敵わずだよ」
どのスポンサーの客層も若い女性らしく、女性人気のない吾郎に白羽の矢がたったそうだ。
「それで、お前はこれからどうするんだ?」
「落ち着いたら職安に行くよ。行くけど…」
何かを思ったらしく吾郎は深い溜め息をつく。
「ゴロちゃん、やる前から諦めた駄目だよ。不景気だけど選ばなきゃ仕事はすぐに見つかるって」
「風ちゃんありがとう…でも、仕事は選ばなきゃ駄目なんだよ。うちの組織は辞めた人間に対して秘密保持やイメージ厳守の為に再就職先を制限してるんだ。それに前職が正義の味方って履歴書に書けないだろ?」
ちなみに制限は悪の組織に秘密が漏れたら不味いからである。
「確かに、そんな事を書いたら書類選考で落とされるな」
「とりあえず、明日山に行くよ」
吾郎は、遠い目をしながらそう呟いた。
「ちょ…ゴロちゃん早まっちゃ駄目だよ。生きてたら良い事があるって」
「風ちゃん、違うよ。変身用のバングルを返しに行くんだ。俺の場合は山奥にある杉の大樹」
クリプティッドファイブのメンバーに選ばれた人間は様々な所に導かれ、バングルを授けられる。
そして辞める時には、そこにバングルを戻すと次代のメンバーが選ばれる。
ファータは、今のレッドが選ばれた時に襲撃を掛けているので公然の秘密と言っていいだろう。
「迷うなよ、変身が出来なきゃお前は力が強いだけのおっさんなんだからな」
「ああ、数日の食糧と水を持って行くよ。今、行方不明になったら余計な詮索をされるからな」
「帰って来たら、お店に顔を出してね。でもその前にゴロちゃんの送別会があるか」
「いや、今のメンバーを動揺させない為に俺は海外組織への転勤扱いになるらしい。別れの花束も貰ってない。だから、帰って来たら、この店に来るよ」
しかし、この約束は叶わない物となる事を、三人はまだ知らない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
次の日、吾郎は山の中にいた。
道すらない登山であったが、あの時と同じ様に導かれているのが分かる。
吾郎は帰りの事を考えて、木に目印となる紐を括りつけて行く。
三時間程、登ると吾郎は開けた場所に着いた。
そこには巨大な一本杉が、あの日と同じく立っていた。
「これで、俺もただのおっさんか。あの時から、やり直せたら良いんだけどな」
吾郎は感慨深げにバングルを木の洞に置く。
それは二十年前にバングルを見つけた場合である。
次の瞬間、辺り一帯をを黄色い光が包み込み、吾郎は意識を手放した。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
吾郎が目を覚ますと、さっきと同じ杉の木の前にいた。
そしてバングルも消えずに洞の中にあった。
「やれやれ、まだ普通のおっさんには戻れないか」
バングルが消えなかったという事は、吾郎がまだクリプティッドファイブのメンバーだと言う証。
どれ位気を失っていたか分からないので、吾郎は変身をして山を降りる事にしたのだが
(マジ?目印の紐がない。なら第二形体に変身して)
吾郎は第二形体に変身すると、頭に鶏冠が生えて、手には飛膜の様な羽が出来て空を飛べる様になる。
ちなみに第三形体になると、コカトリスそのものに姿が変わる。
「ここはどこだよ?」
山を降りた吾郎の目に飛び込んできたのは、田んぼには案山子、道は砂利道というのどかな風景。
遠くには茅葺き屋根の家と井戸が見えている。
それは子供の頃に見た父の田舎に似ていた。
「俺、タイムスリップでもしたのか?もしかして、やり直したいって願いが叶った?」
しかし、田んぼの水に映ったのは、見慣れたおっさんであった。
感想お待ちしています