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リストラヒーロー優しくなる

久し振りの更新です

 蝉時雨が降り注ぐ真夏の小路を一人の男が気怠そうに歩いていた。

 吾郎である。

 吾郎はこれからある意味、炎天下の往来よりもあつい場所に行かなければならないのだ。

 正確には独り者の悟郎には居づらいお熱い場所、タイネンの家である。 

 吾郎は辺りを一瞥した後、家の中へ声を掛けた。


「オオトリです。来ました」

 

「熱い中、ご苦労様です。タイネン、オオトリさんがいらっしゃいましたよ」

 部屋から溢れ出る幸せオーラーが吾郎を直撃する。


「ゴロー、例の男に何をしたんだ?雀を見ただけで泣き出すなんて異常だぞ」

 タイネンがギルドで聞いた話では、オーガを操っていた男は極度の鳥恐怖症になったらしい。


「ちょっとファントムブレスを吹き掛けだけだよ…毎日、鳥についばまれていたら雀でも恐くなるよな」

 吾郎が見せたのは体中を鳥に啄まれる幻。

 皮膚は破かれ、目をほじくられる。

 それを毎日決まった時間に見せていたのだ。


「お主、鬼だな…新しい依頼だ。猫人の護衛、期間は二週間。報酬は一人十四万ブレになる。無事に護衛を終えたら六万ブレが出るそうだ」

 単純計算すると一日一万ブレ、しかも宿代や食事代も出してくれるとの事。


「随分と条件が良いんだな…なんか裏があるんじゃねえか?」

 クリプティドファイブ時代に契約担当をしていた吾郎としては好条件の依頼を怪しむ癖が着いていた。

 

「今回は猫人の秘宝ケルベロスの爪を運ぶんんだよ。猫人も大事を取るさ」

 マジックアイテムの盗難があいつでいるので、猫人も過敏になっているらしい。

 

「ケルベロスだぁ!!断る」

 ケルベロスと聞いて吾郎は一人の男を思い出していた。


「悟郎、ケルベロスと何かあったのか?」


「ケルベロスブルーって奴に彼女を盗られたんだよ。まさか、護衛してる間に浮気をされるなんて」

 タレコミをしたのはファータの富山兄妹である。

 悟郎の元彼もとかのホワイトアルミラージを調べていた風香が浮気に気づいたのだ。

 ちなみにケルベロスブルーとホワイトアルミラージは守と風香によって追い込まれて依願退職している。


「清々しいまでの逆怨みだか。奴隷になるのは防げたとは言え、金は必要だろ?」


「そうですよ。オオトリさんも良い年なんですし」

 タイネンとマイが息のあった連携説得を見せてくる。


「依頼を受ける前に契約内容を確認させて貰えるか?特に失敗した時の罰則とかを教えて欲しい」


「猫人からも護衛が出るから罰則はないそうだ。猫人の町で大きな祭りがあるらしく人手が足りないらしい」

 悟郎はタイネンから依頼状を受け取ると丹念にチェックしだした。


「目的地のジュングラ市ってのは、どんな所なんだ?」


「猫人の町ですよ。確か森に囲まれた旧い町だと聞いてます」

 マイの話だとジュングラは離れた場所にあり、自動箱を使っても二週間はかかるらしい。

 ジュングラにある寺院にケルベロスの爪を奉納すれば依頼は完了となる。


「他にはどんな奴等が参加するんだ?」


「猿人は少ないぞ。他には馬人、牛人、蜥蜴人が来るらしい」


――――――――――――


 タイネンの家を出た吾郎は宿屋と反対の方向に歩き出した。

 吾郎が向かったのはタイネンの家を見下ろせる森。


「狼の坊主いるんだろ?気配がバレバレだぜ…素人が悪趣味な真似をするってんなら泣くだけじゃ済まねえぞ。」

 濃密な殺気が森を包んでいく。

 瞬間的に第二形態へと変身した吾郎が森に向かって飛翔した。

 いくら身体能力に優れた獣人とは言え所詮は素人。

 何十年も修羅場を生き抜いてきた玄人の吾郎に敵うわけがない。


「なんで分かったんだ?」


「気配が漏れ過ぎなんだよ。しかも、身を隠す場所もねえ逃げ場もねえ木から見張るなんざ素人仕事さ」

 事実、狼人の青年は首にナイフを突き立てられ身動き一つ取れなくなっていた。


「あの坊主は俺からマイを奪ったんだ。彼奴の味方をするんなら狼人族を敵に回すぞ。あんな坊主のどこが良いってんだ!!」


「餓鬼、言葉は正確に使え。お前はマイさんが奴隷として売られるのを黙認し、買い戻そうともしなかった…一族に睨まれるのを恐れてな。違うか?」

 狼人の体がビクリて震える。


「俺にも立場があるんだ。一族の決定に逆らったら生活していけなくる」


「タイネンは手前の出世と生活を捨ててマイさんを買ったんだ。しかも、奴隷から解放するまで指一本触れてない…女には千の甘言より一つの行動の方が効くんだぜ」

 吾郎がその気になれば容易く狼人の青年を殺せる。

 しかし、吾郎にはその気はなかった。


「でも、一族の決定が…」


「男は生活の為に仕事に重きを置くけど、女は自分が幸せになれる生活を選ぶのさ。お前はタイネンの馬鹿さに負けたんだよ…馬鹿な位の一途さに負けたのさ。さて、こんな所で騒いでいるより飲みに行かねえか?奢ってやるから飲んで忘れろ」

 吾郎の言葉はどこまでも優しく暖かった。


「なんで俺に優しくしてくれるんですか?」


「お前はあの二人の生活を壊さなかったからだよ…俺も仕事を優先し過ぎて振られた男だしな…酒では傷は癒えねえけど、手前の弱い心を見つめ直せるぜ」

 青年を酒場に連れて行った吾郎はとりとめもない愚痴を黙って聞いていた。

 そして、青年が酔い潰れた頃に現れた狼人にこう告げた。


「俺達は猫人の護衛をする。その集団に着いて来くれば面白い奴に会える。オーブネンが配下を寄越すと思うぜ」

 迎えに来た狼人は吾郎に恭しく頭を下げると、青年を背負って姿を消した。

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