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リストラヒーロー、久しぶりに友人と話す

 大酉吾郎が行方不明になって二カ月が経とうしていた。

 コカトリスイエローは外国への出張と発表された為、彼を探す物は少ない。

 リストラの真相を知っているクリプティッドファイブの上層部も立場上、表立っての捜索は出来ずにいた。

 彼を探しているのは敵対組織ファータに属しているデススプリガンこと富山守と、その妹ブラックシルフこと富山風香位である。 

 そんな二人がやって来たのは山間にある小さな村。

 名前を葉世(はせ)村と言い、世間からから隔絶され、まるで時が停まってしまった様な村である。

 この葉世村には、ファータの本部があるのだ。

 

「パッグの婆さん、協力してくれると思うか?」

 ノーブルパッグこと四条院梅はファータ設立に携わった人物であり、あるマジックアイテムを持っている。


「でも、お梅様しか時空の鏡を操れないから何とかお願いするしかないでしょ」

 二人の知人とは言え、吾郎は敵対組織の一員であり、ファータに所属している者は何度も煮え湯を飲まされている。

 

「ったく、あの馬鹿どこをほっつき歩きいてんだか…婆さん、いるか?」

 守が声を掛けたのは村の一角にあるお社。


「うん?守と風香じゃないか?二人揃って墓参りにでも来たのかい?」

 現れたのは品の良さそうな初老の女性。

  

「親父達の墓には後から行くよ。婆さんにある人間を探して欲しいんだ。頼めるか?」


「やれやれ、またペケニョが行方不明になったのかい?人型になれない子を探すのは骨が折れるんだよね」

 守は一瞬躊躇ったが、梅に向かって土下座をした。


「探して欲しいのは俺のダチだ。名前は大酉吾郎…クリプティッドファイブのイエローコカトリスだ」


「お梅様、お願い。ゴロちゃんは大事な友達なの」

 風香もまた兄の隣で土下座をする。


「良い大人が二人並んで土下座なんてするんじゃないよ。とりあえず話を聞くから中にお入り」

 梅もファータの一員であるから、コカトリスイエローの名前は良く知っていた。

 だが、それ以上にこの兄妹の事を知っている。

 二人が組織の為に尽力している事も、仲間を大切にしている事も良く知っていた。

 その二人が組織から罰せられる覚悟で土下座をしているのである。


――――――――――――――


「最近、話を聞かなくなったと思ったら、コカトリスイエローはリストラされてたのかい…敵とは言え世知辛い話だね」


「彼奴は何回かスピリットを確保する時に見逃してもらった事もあるんだ」


「私も他のクリプティッドファイブに追われている時に匿ってもらった事があるの」

 尤も、お互いの立場上内密にしている。


「ちょっと待って…ふむ?」

 梅は大きい鏡に向かって神経を集中させるも、顔を曇らせた。


「婆さん、吾郎は?」

「ちょっと待ってな…日本にはいないね…いや、この世界にコカトリスイエローはいない様だよ」

 その言葉を聞いて守と風香はお互いの顔を見合わせる。


「まさか、吾郎の奴は異世界に行ったのか?」


「兄貴、私達の世界とこっち以外にも世界はあるの?」

 

「少し待ってな…見つかったよ。大酉吾郎は異世界にいるよ。今、繋げてやる」

 梅が鏡に向かって手を二回叩くと、鏡の中が歪み始めた。

 やがて、現れたのは狭い木造の部屋。


―――――――――――――――


 一方の吾郎はベッドに横になっていた。

 正確には、横になるしかやる事がないのだ。

 

(とりあえず、借金を返したから奴隷にならないで済む…ヒッ!!)

 吾郎は並の人間より肝が座っている。

 その吾郎が恐怖の余り、体を強張らせていた。

 何しろ、突然目の前に老婆の顔が現れたのである。


「な、南妙法蓮華経…エロイムエッサイム…祓い給え、浄め給え…ラーメン、ソーメン、僕イケ…」

「吾郎、それで成仏する霊がいると思うか?」

 次に現れたのは友人の富山守。


「なっ、守…そうか、惜しい奴を亡くしたな」


「おいっ、人を勝手に殺すんじゃねえ!!ははーん、お前ビビったな。流石はチキンイエロー」

 守はそう言うとニヤリ笑った。

 

「うるせー、寝てる時に顔面どアップで現れたらビビって当たり前だろ。それと俺はコカトリスだ!!鶏扱いすんなっ」

 

「兄貴、真面目に話をして。ゴロちゃん、なにがあったの?」


………


「バングルを納めたら異世界に転移したのか?」


「おう、危うく奴隷になる所だったんだぞ。こんな話を信じるのか?」

 吾郎は、いまだに自分が異世界にいるのが信じられないのだ。


「だって、私達も異世界から来た人間なんだもん。妖精が住む世界フェアリーランドから来たんだよ」


「妖精?風ちゃんは分かるけど、守は妖精分がないだろ?」

 吾郎の中で、居酒屋の厳つい店長をしている友人と妖精はどうしても結びつかなった。


「スプリガンも妖精の一種なんだよ。俺達はある理由で異世界から来たんだ。俺や風香みたいに人型になれる妖精は良いけど、力の弱い仲間はこっちで自我が保てなくる。自我を保つには人から精神エネルギースピリットを集めなきゃいけない。それで組織されたのがファータなんだよ」


「説明、乙…わざわざ探してくれたんだろ?ありがとな。店に飲みに行きたいんだけど、帰り方が分からないんでな」

 今までの不安と友人が探してくれていた嬉しさで吾郎の涙腺が緩む。


「そうだよな…俺や風香も餓鬼の頃にこっちに来たから転移の仕方は分からないんだよ。そういや、クリプティッドファイブにブラックヴァンパイアとホワイトリッチってのが加わるらしいが、どんな奴なんだ?」


「ヴァンパイアとリッチ?クリプティッドファイブになれるのは幻獣だけだぞ」

 ヴァンパイアもリッチも幻獣として扱われていない。 


「そうか、吾郎。アンデッドには気を付けろ。俺達はアンデッドに自分の世界を追われたんだ。とりあえず身体に気を付けろ。暇になったらまた連絡してやるから涙を溜めとけよ」


「ゴロちゃん、絶対に帰って来てね。唐揚げサービスしてあげるから」

 風香がそうったと同時に連絡が途絶える。

 帰りたい、吾郎は心の底からそう思った。


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