リストラヒーロー、墓場で吠える
墓場の静寂を激しい地響きが打ち破った。
もうもうと立ち上った土埃りが薄れていくと、巨大な穴が出来ている。
闇夜を透かしてみると、巨大な穴は墓場のあちこちに出来ていた。
「凄いな。オーガ一匹いれば随分道路工事が捗るんじゃねえか」
幸いな事に、オーガの攻撃は大振りな上に単純なので、吾郎達は容易く避ける事が出来る。
「ゴロー、そんな暢気な事を言ってる場合か?このままじゃ、じり貧だぞ」
タイネンの言う通り、このまま攻撃を避け続けるだけでは、やがて吾郎達の体力が尽きてしまうだろう。
「タイネン、オーガの攻撃は変じゃねえか?俺達を墓から遠ざけようとしているみたいだぜ」
「そう言われてみれば…お主の予想通りオーガは操られているのか?」
オーガは動物を狩る魔物だ。
本来なら吾郎達を壁際や木に追い詰めようとする筈である。
「多分な。野生動物は効率の良い狩りをするからな。でも、今はゲームのキャラみたいに、決まった動きしかしてこないだろ?」
吾郎の言う通り、オーガは愚直なまでに吾郎達を叩き潰そうとするだけだ。
「げーむのきゃら?なんだ、それは?」
「敵さんは、オーガに単純な命令しか出せないって事さ」
吾郎とタイネンは普段通りの会話を続けながらも、オーガの攻撃を避けていく。
「それなら納得だ。それで、これからどうするんだ?」
「タイネン、結界かなんかでオーガの攻撃を防ぐ事は出来るか?マイさん、こっちに合流出来ますか?」
さっきからタイネンの事を、心配そうに見ていたマイは吾郎の問いに答える前に合流してきた。
タイネンを危険に晒した為か、マイの目は吾郎に対する非難で満ち溢れている。
「さて、今回の作戦を説明する。まずタイネンは結界を張ってオーガを足止めしてくれ。その間に俺が変身するから、俺が変身したのん、確認したら結界を解いてくれ。そうしたらマイさんはタイネンを抱えて逃げて下さい」
そう言うと吾郎は、後ろに大きく飛び退いた。
吾郎はふっと息を吐いて、オーガを睨み付ける。
「数多の精霊に願います。どうか、私の声を聞いて下さい。そしてあらゆる災厄から私達をお守り下さい…ガルディアンディファンス」
次の瞬間、タイネンとマイを守る様に、透明な結界が張り巡らされていった。
その結界は頑強でオーガの攻撃を物ともしない。
「毒の煙よ、大地の守護者コカトリス の魂を呼べ……イエローコカトリス防誕!!」
言葉に呼応するかの様に黄色い煙が吾郎を包んでいく。
それは何十、何百と繰り返した変身。
煙が晴れて現れる黄色いバトルスーツに身を包んだ戦士。
「マイ、結界を解くぞ」
タイネンが合図を出したのは、
「分かりました、タイネン」
直後、コカトリスイエローに変身した吾郎とタイネンを抱き抱えたマイが交錯した。
「元正義の味方としては、餓鬼の墓を暴いてマジックアイテムなんてムカつく事は見逃せないんでな」
一度、人の味を覚えた獣は人を何度も襲うと言う。
操られているのからと言ってオーガを見逃せば、生きてる人間にも被害が出かねない。
「ゴローが飛んだっ!?」
タイネンの目には吾郎が飛翔したかの様に見えた。
「いえ、オオトリさんはジャンプしただけです。獣人でもあんなに高くは跳べませんけどね」
タイネンが見間違えるのは無理もない。
吾郎は一飛びで三メートルは優に越すオーガの頭にトビゲリを食らわせたのだ。
オーガの体重は、吾郎の三倍は確実にある。
普通なら、吾郎が吹き飛ばされてお仕舞いだろう。
しかし、吹き飛ばされたのはオーガでの方であった。
オーガはけたたましい音をたてながら、地面にもんどりを打って倒れたのである。
直ぐ様に立ち上がろうとしたオーガであったが、その足は大地を踏む事は二度と敵わなかった。
オーガの喉には吾郎の棒が深々と突き刺さっていたのだから。
「マイさん、オーガは猿人の臭いをする何かを持っている筈です。あったら臭いを辿って下さい」
吾郎の言葉を聞いたマイは軽く鼻をひくつかせた。
「有りました。臭いはあの木の上からします!!」
マイが見つけたのは、一枚の札。
次の瞬間には、夜目がきく吾郎の目は一人の男を捉えていた。
男はオーガを倒されたのが分かると、木から飛び降りて逃げようとしている。
「おっと、逃げるのも自殺するのもなしだからな…パラライズブレスッ」
吾郎の口から吐き出された麻痺の息が、男を取り囲んでいく。
受け身も取れずに地面に落ちた男を見て、マイが呟いた。
「タイネン、オオトリさんって本当に猿人なんですか?」
規格外過ぎる吾郎に恐れをなしたかのか、マイがタイネンに抱きつく。
「どうなんだろうな…はっきり言って自信はないよ」
そしてタイネンはマイを優しく抱き寄せた。
「そこのバッカプル!!俺は人間だよ。いちゃついてないで、その男の体を探るぞ。オーブネンとの繋がりを示す物を持っていると思うぞ」




