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リストラヒーロー、お節介を焼く

 タイネンの家はプレーリーの住宅街にあった。

 警察署やギルドがあった官庁街は鉄筋コンクリートの建物が殆んどであったが、住宅街は木造家屋の方が多く見られる。

 タイネンが足を止めたのは長屋の様な集合住宅の一角。

 木造で壁には所々に錆があがっているトタン板が貼られていた。


「ここが俺の家さ…タイネンです、今帰りました」

 タイネンは自分の家だと言うのに、遠慮がちに声を掛ける。 


「ご主人様、お帰りなさいませ。あら?そちらはお客様ですか?」

 家から出てきたのは二十代前半と思われる女性。

 灰色の髪からは犬の様な耳が見えている。

 主人であるタイネンが着古されたローブを使っているのに対して、女性は真新しい絹の服を着ていた。


(この人がタイネンの想い人っていう狼人か。確かに良い女だ…良い女だけど)

 狼人の女性は主のタイネンが帰って来たと言うのに、一切表情を変えていない。

 むしろ感情そのものが欠落している様にも見える。


「マイ殿のご主人様は止めて欲しいとお願いしたではありませんか…こちらはゴロー・オオトリさんです。今度から私はオオトリさんとパーティーを組みます」


「タイネン様は私のご主人様ですので。オオトリ様、主の事を宜しくお願いします」

 それは奇妙な光景であった。

 少年の様なで初心(うぶ)さでマイに話し掛けるタイネンと 、タイネンに一切の感情をみせないマイ。


「こちらこそよろしくお願いします。さて、タイネン殿ギルドに依頼を探しに行きませんか?」


「今、帰って来たばかりではないか。もう少しゆっくりしていかぬか?」


「長旅に出る為には準備が必要になりますからね。下手すりゃ半年は旅に出るんですよ、金を稼ぎましょう」

 旅に出るとしたら、それ相応の支度が必要になる。


「ゴ、ゴロー何を言ってるんだ?それはまだ決まった話ではないだろ」

 半年も旅に出ると言った瞬間、マイの目にどうしょうもない焦りの色を浮かんだのを吾郎は見逃さなかった。


 ―――――――――――――――


 結局、タイネンの方が折れ吾郎とタイネンは二人でギルドに向かう事になった。

 ちなみにマイは夕食を作る為に家に残っている。

 吾郎は軽く溜め息を着くと、未だに未練たらしく家の方を見ているタイネンに話し掛けた。


「タイネンさん、今度からパーティーを組むからタイネンと呼ばせてもらう。女は純情可憐な天使ちゃんじゃねえんだぜ?お前のイメージを押し付けるのは関心しねえな。…きちんと人として本音で話さなきゃ何も変わらないよ」


「言いたい事は分かる、分かるが…俺は修行ばかりで女性とまともに話した事がないんだ」

 吾郎の指摘にタイネンは、どこか不貞腐れた様な態度で答える。


「まっ、恋の達人とか言って女を食い漁るよりはましだけどな。お前はマイさんに負い目を感じ過ぎなんだよ。だから奴隷から解放して対当になって話をすれば大丈夫ださ」


「やはり解放した方がマイ殿も喜ぶのか…下手したら会えなくなるな」

 そう言うとタイネンは深い溜め息を漏らした。


「出て行かれるにしても手切れ金を渡さなきゃいけないだろ?身一つで追い出す訳にもいかないし」


「あ、当たり前だ。大きな依頼で金を稼いでやる」

 タイネンはそう言うとギルドに向かってズカズカと大股で歩き出す。


(やれやれ、世話が焼ける坊さんだ。俺の予想だと狼娘もタイネンを嫌ってないと思うんだけどな)

 意地になって大股で歩いているタイネンの背中を見て、吾郎は軽く笑った。


 ―――――――――――――――


「ゴロー、この依頼はどうだ?オーガの退治依頼だ。依頼料は七十万ブレ、乙四限定だけど俺がリーダーになれば受けれる」


「オーガか、随分と依頼料が高いんだな。なんかの素材に使えるのか?」

 吾郎の知識で言えば屍肉を食べるオーガは食用には向かないし、武器に使えそうな角や爪も持っていない。


「オーガが出没しているのが金持ちの墓が多く眠る墓地なのさ。それとオーガの髪の毛は副葬品に使われるんだよ」

 タイネンの話ではオーガは臭いで死体を探し当てるとの事。

 その時、僅でも仲間の臭いがすれば、既に死体が食い荒らされていると思い墓を荒らさないらしい。


「ああ、任せたよ。それじゃ受付は頼んだぜ。俺は野暮用があるんで先に失礼する」

 吾郎は苦笑いするタイネンに手を振ると、そのままギルドから出ていった。 


 ―――――――――――――――


 吾郎はギルドの物陰でコカトリスイエロー第二形態に変身して、一目散にタイネンの家に向かった。

 何しろ、吾郎はこれからマイとタイネンには聞かせたくない話をするのだから。


「すいません、ゴローです。ちょっと話があって来ました。お時間は大丈夫ですか?」


「ご主人様の留守中に家に他人を入れる訳にはいきません。玄関でもよろしいでしょうか?」

 言葉使いこそ丁寧であるが、マイの目には吾郎に対する敵対心がありありと浮かんでいる。


「構いません。率直に言います、あんたタイネンの事をどう思ってるんだ?ご主人様や恩人じゃなく女としてタイネンをどう見ている?」


「あ、貴方に答える必要はありません。私はご主人様の奴隷です。異性としての感情を持ってはいけないんです…それに、ご主人様は未だに手すら触れてくれません」

 さっきまでとは違いマイのは怒りと悲しみの感情を露にしていた。


「うん、充分な答えを聞けたよ。それと手を触れないって言ったけどタイネンは元坊主だぜ。彼奴は男と女の事に関してはまだ餓鬼なんだよ。彼奴は近いうちにあんたを奴隷から解放する。そん時に恩義とか同情なんかじゃなく女としてタイネンに着いていってもらえないか?」

 吾郎はそう言うとマイに頭を下げた。


「…違いますよ、タイネン様は今でも立派な神官です。人としても男性としても私はタイネン様を大切に思っています」

 マイはそう言うと嬉しそうに微笑んだ。

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