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タイネンの罪と罰

ますます好みが別れる話になります

 吾郎達冒険者は護衛の僧侶も入れて二十人、対する狼人族はざっと見ただけでも四十人はいる。


(狼形の改造人間や狼男よりも人間に近いな…警戒するのは素早さか)

 吾郎は何度も狼タイプの敵と戦った経験がある。

 そのどれもが全身毛むくじゃらで顔も狼そのものであったが、狼人族は耳と尻尾がある以外は人と大きい変わりはない。


(異世界に来て初めて見る獣人は美女か美少女が定番な筈なんだけどな…やっぱり、俺は戦いから逃れられないらしい)

 吾郎達クリプティドファイブが敵対していた組織はファータだけではない。

 中には改造人間を使う組織や黒魔術で人をモンスターに変える組織もあった。

 そんな吾郎の経験上、狼タイプの敵で警戒しなければいけないのは優れた身体能力特に素早さであった。


「ゴロー、この戦いをどう見る。お主、勝てると思うか?」

 吾郎は問い掛けてきたタイネンの方を一別もしないまま口を開く。


「冒険者は装備と戦闘技術で(まさ)り、狼人族は数と身体能力が(まさ)っていると思います。一見すると互角の条件ですが長引けば俺達が負けます」

 

「なんで、そう思うんだ?」

 タイネンも吾郎の方を見ずに返事をした。

 その所作は落ち着き払っていてタイネンが戦いの素人でない事が分かる。


「俺達の武器は金属製でないので決定打に欠けます。何より(オーブネン)が殺られたら俺達の敗けです」

 吾郎が敗けですと言ったと同時に狼人族が飛び掛かって来て戦いが始まった。


 戦況は一見すると一進一退であったがか、吾郎は焦っていた。


(不味いな…少しずつだが円陣が乱れ始めている)

 狼人族の動きは素早く追い討ちを掛ようとすると、どうしても列から外れてしまうので円陣に少しずつ隙間が出来始めていたのだ。


(このままじゃ隙を突かれてオーブネンが殺られちまう)

 

「タイネンさん、俺が合図をしたら教会の扉を開けてくれますか?王様には城に入ってもらいます」


「ああ、分かった。だがゴロー、無理をして怪我をするなよ」

 タイネンはそう言うとメイスを一振りして迫ってきた狼人を牽制すると素早く教会に向かって走り出した。

 吾郎はタイネンが教会の扉の前に着いたのを確認すると、棒高跳びの要領でオーブネンの近くに移動する。


「おい、何しに来たんだ?持ち場に戻れ」

 

「タイネンさん、お願いします」

 吾郎は喚き散らすオーブネンを無視してタイネンに合図を送る。


「任されたっ!!」

 吾郎はタイネンが扉を開けたのを確認すると、棒をオーブネンの襟首に差し込んだ。


「おい、何をするのだっ!?気でも狂ったのか?」


「俺が頼まれたのはあんたの命の安全です。でも、このままじゃ依頼料をもらえなくなるんで、ちょっとだけ教会に引っ込んでいてもらえますか?」

 吾郎はそう言うと、投げ釣りの要領でオーブネンを教会に向かって投げ飛ばす。

 オーブネンの巨体は教会の扉に吸い込まれる様に消えた。

 

「ゴロー、見事だ。教会の扉は閉めたぞ」


「オーブネン殿は教会に匿ってもらった。だが敵は殺すな、殺せば新たな遺恨が生まれる。怪我をさせて追い返せ。一気に攻めるぞ」

 吾郎の言葉を聞いて勢いづく冒険者達。

 一方の狼人族は肝心のオーブネンが消えた事で浮き足だっている。

 だが、タイネンを睨んでいた狼人族の青年だけは今も変わらずタイネンを睨み付けていた。


――――――――――――――――


 結局、吾郎達冒険者にも狼人族にも死者を出さずに戦いは終わった。

  

「ゴロー、なんで狼人族を殺させなかったんだ?お主の優しさか?」


「まさか?仲間の死は組織に怒りを生み結束が強まります。逆に失敗した作戦で怪我をした奴は組織に不振を抱きます。まあ、狼人族が依頼期間中にオーブネンを狙う確率を下げたかったんですよ」

 正義の味方であるクリプティドファイブに失敗は許されない。

 護衛対象や民間人に被害が出れば直ぐ様バッシングの嵐になるからだ。

 それ故に吾郎は徹底的にプロの正義の味方であった。

 吾郎は長い戦いで、下手な悪の組織よりも冷徹な現実主義者になっていたのだ。


「お主は本当に不思議な男だな。ふむ、また組みたいから家を教えてもらえるか?」


「俺はまだ宿屋暮らしなんですよ。ちょっと入り用がありまして」

 オーブネンが腹立たし気に依頼料を渡してきたが、もう十万ブレを稼がねば吾郎は奴隷になってしまう。

 

「お主も冒険者なら早く家を持つ事だ。宿屋に金や物を置いておいて盗まれでもしたらどうする?安宿は保証をしてくれないし、保証をしてくれる様な高い宿に何泊もする金があれば安い家が借りれるぞ」

 

「留守を守ってくれる家族や知人なんていませんよ」


「…グソウの悩みを解決してくれた次いでにもう一つグソウの悩みを聞いてくれないか?…俺は僧侶が犯してはならない罪を犯したのだ」

 さっきまで大輪の花を咲かせていた梅は散り、寂しげな枯れ木に変わっていた。


―――――――――――――――


 枯れ木となったタイネンは木枯らしの様な寂しげな口調で罪を語りだした。


「俺はこれでも高位の僧侶だったんだぜ…あのオーブネンと並ぶぐらいのな。色んな地域、色んな部族の所を回って癒しを与えた…得意の絶頂だったさ。癒しの僧侶様と持て囃され鼻持ちならぬ増上慢だったかもな」

 (タイネン)の枯れ木は溜め息を一つ漏らすと、木枯らしに吹かれた様に身震いをする。


「そんな時一人の女性と出会った。優しい笑顔を浮かべる人さ。綺麗だった、今まで会った誰よりも、今まで見た何よりも美しかった。一目惚れだったよ、女人禁制の僧侶が一目惚れしたのさ」

 吾郎はその瞬間、枯れ木に一輪の梅の花が咲いた様に思えた。


「その女性には恋人がいたし、俺は僧侶だ。実らぬ恋と諦めて遠くから見るだけにした…そんな時、彼女が奴隷として売られてしまったのだ。あの笑顔が金で買われてしまう。そう思うと居ても立ってもいられなくなり、俺は錫杖も僧衣も売り払って彼女を買ったんだ…でも、あの笑顔は消えてしまったよ」

 ボツリと呟いた(タイネン)の木はそよ風でも倒れそうな位に弱々しげに見える。 


「その人は今どうしているんですか?」


「俺の家で留守を守ってくれている…笑ってくれ!!蔑んでくれ!!俺は彼女を解放出来ないんだ!!解放して恋人の所に行ってしまうと思うと胸苦しくて堪らないんだ」

 タイネンは泣いていた、見栄も外聞もなくボロボロと泣いていた。


「奴隷ですか…彼女には何をさせているんです?」


「留守と家事だけさ、手も繋いでないよ。何かをした途端、恋が薄汚れる感じがするんだ。彼女は奴隷だから俺に逆らえない…俺は彼女の人生を金で買ったんだ」

 

「だったら俺と旅に出ませんか?解放して彼女に道を選ばせるんです。着いてくるなら良し、駄目なら二人で稼ぎましょう。それで彼女はどんな人なんですか?」

 彼女が居なくなった家にいたらタイネンはますます自分を責めるだろう。

 吾郎も地球に戻る方法を探したいから丁度良い。


「狼人族の娘さ…旅か、それも良いな」

 タイネンは吾郎を見て寂しそうに微笑んだ。 


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