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リストラヒーロー、奇妙な僧侶と出会う

ますますおじさん向けになっていきます

 タイネンと名乗った男は不思議な男であった。

 容姿は怪しげであったが、青い瞳は秋空の如く静かに澄んでいる。

 服装も茶色のローブを荒縄で縛っているだけの簡素な物であったが、染みや汚れが一つもなく不潔な印象は感じさせない。

 手には磨き抜かれ飴色になった木製のメイスを持っていた。

 加えていば、見た目だけでは年齢が分かり辛い事もある。

 痩せこけた老爺の様にも見えるし、初々しい少年の様にも見えた。

 ただ悟郎はタイネンを見て荒野に一本だけ凛と立っている梅の木を連想していた。

 華やかな桜ではなく、どこか人に安らぎを与える梅の花を思わせるタイネンとはそんな男に思えた。


「タイネンさんは(なに)(しゅう)のお坊様なんですか?」

 

「ふん、そんな男が僧侶な訳なかろう。尊き僧侶と薄汚い冒険者風情を一緒にされては困る」

 話に割って入ってきたのは肥えた坊主頭の男である。

 目尻と頬はだらしなく垂れ下がり、目は汚水の様にドロリと(にご)(よど)んでいた。

 顔に厭らしさが張り付いて取れなくなっている、そんな顔だ。

 着ている服はタイネンと同じローブであるが、金糸や銀糸がふんだんに使われており豪奢な物である。


「あんたは誰だい?」

 この手の人間を嫌と言う程、知っている悟郎は自然と身構えてしまう。

 

「無礼者っ!!このお方は第四司祭オーブネン様である。冒険者は黙って護衛をしていろっ」

 いつの間にか、数人の男がオーブネンと言う司祭を守る様に取り囲んでいる。


「良い良い、無知な冒険者と愚かな破戒僧に怒るのは酷という物。このオーブネンの慈悲に免じて許してやれ」

 オーブネンはニヤニヤと笑いながら黒塗りのリムジンタイプの自動箱の中に姿を消した。

 人を尊大な態度で見下す嫌な奴、それが悟郎がオーブネンと接した感想である。


「さてと、それじゃグソウ達も行くとするか。お前に聞きたい事も出来たしな」

 タイネンは肩にメイスをヒョイッと担ぐと剽げた仕草で歩き出した。


――――――――――――――


 案内された自動箱の前に着くと、年若い僧侶は涙ぐみながらタイネンに深々と頭を下げた。

 その顔に浮かんでいるのは憧憬。

 緊張しているのか年若い僧侶は小刻みに小さく震えていた。


「タイネン司祭、私は司祭の説法を聞き僧になる決意をしました。よろしかったらまた教えをお聞かせ下さい」


「おいおい、俺は教義を破った破戒僧なんだぜ。そんな事をしたらどやされちまうよ」

 タイネンは若い僧侶にそう言って優しく笑い掛けながら自動箱の中に入っていった。

 悟郎もタイネンに続き自動箱に入ると、中には六つの席があった。

 前にはタイネンを見て涙ぐんだ若い僧侶と運転を担当する僧侶。

 次の席にはは二人組の戦士が既にすわっており、自然と悟郎とタイネンは後部座席に並んで座った。


「オオトリ、お前は何で俺が僧侶だと思ったんだ?まさか、この坊主頭を見たからじゃねえよな」 

 タイネンはそう言ってクスリと笑うと、ツルリと頭を撫でてみせる。


「それは貴方が愚僧(ぐそう)と言ったからですよ。俺の国では僧侶が自分の事を、そう名乗ったりしますから」

 次の瞬間、タイネンはガバリと身を乗り出し悟郎の両手をしっかりと握り締めた。


「それは真か?グソウにはどんな意味があるんだ?それとなぜ僧にネンを着けるのだ!?教えてくれ」

 タイネンの話によると、千年程前に来た異界の僧侶が伝えた教えがサクレ教に大きな影響を与えたと言う。

 特にレーグル宗には、その教えが色濃く残っているそうだ。

 しかし、長い年月で形骸化してしまい慣習的に使っている物も多いと言う。

 グソウもその一つでレーグルの僧侶は意味も分からずに一人称として用いているそうだ。


「あくまで俺の知っている知識ですがグソウは愚かな僧と書くんですよ。仏の尊い教えをきちんと理解出来ない愚かな僧と聞きました」

 

「ホトケ?神とは違うのか?」

 タイネンは少年の様な真摯な目でに悟郎を見つめている。


「違いますが、うまく説明が出来ないんでそこは勘弁して下さい。確か、人はいくら修行をしても仏や神の尊い考えを全て理解は出来ない。そんな戒めもあると聞きました」

 悟郎とすれば自分が異界人とばれる危険性がある答えであったが、タイネンの愚直なまでの真摯な態度の前では嘘をつけなかったのだ。


「ああ、そうか…確かにどんな僧と言えども神の教えは理解仕切れない。それに気付かなかった俺は正にグソウだ」


「あくまで俺の国の話ですよ。話は変わりますが襲撃がある可能性は高いんですか?」

 

「高いな。あのオーブネンって奴は僧の癖に酒色と金に目がない奴でな。色んな奴から恨まれてんのさ。それに、あの格好を見たろ?彼奴が持ってる道具を奪っただけで一財産築けるんだぜ」

 タイネンはさっきまでの真摯な態度を消し、 皮肉めいた口調で話をしている。


「酒色…女絡みですか?」

 あれに乗られた女は大変だろうなと、悟郎が考えているとタイネンがニヤリと笑った。


「違う、違う。彼奴が好きなのは男さ。何しろ教会の奥は女人禁制だからな。自分好みの僧を強引に集めているらしいぜ…知ってるか?男同士の嫉妬は男女の嫉妬より何倍も怖いんだぜ」


「まさかタイネン殿も?」


「馬鹿言うなよ。俺はそんな趣味はねえよ。何しろ女絡みで落とされたんだからな」

 そう言うと、タイネンは小指を立てながらニヤリと笑ってみせた。

感想お待ちしています

若い子に受けそうもない小説です

特に女の子には…作者の小説はたいていそうですけど

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