ヒーロー、リストラされる?
また新しい話です
その日、日本のとある採石場で五人の男女と黒尽くめの集団が相対していた。
五人の男女のうち、赤いライダースジャケットを着ている勝ち気そうな少年が右腕にはめられたバングルに左手を添えて叫ぶ。
「再生の炎により、宿れフェニックスの魂!!フェニックスレッド爆誕!!」
声に呼応するかの様に、少年の足元から炎があがり、その体を包み込む。
現れたのは真っ赤なバトルスーツに身を包んだ戦士。
「母なる海の水よ、人魚の魂を導いて!!マーメイドブルー生誕」
青いシャツを着たポニーテールの少女が元気に叫び、水に包まれる。
現れたのは青いバトルスーツに身を包んだ戦士。
「全て眠りに誘う闇よ、悪を永久の眠りつかせる為、俺に魂を宿せ!!ドラゴンブラック滅誕!!」
黒いジャケットを着た退廃的な雰囲気の長い髪の少年が闇に包まれる。
現れたのは黒いバトルスーツに身を包んだ戦士。
「白き清浄の光よ、大空を駆けるペガサスの魂を届けて!!ペガサスホワイト浄誕!!」
白いスーツを着た大人しそうな少女を、白い光が包み込む。
現れたのは白いバトルスーツに身を包んだ戦士。
四人はもう一人の仲間の変身を待つ。
それはガッシリとした体格に短く刈り込んだ髪の男。
男の名前は大酉吾郎。
他の四人が美少年美少女なのに比べて、これといって特徴がない男である。
強いて言えば、良く見ないと開いてるか開いていないのか分からない細い糸目。
今、吾郎は変身するのを躊躇していた。
何故なら彼の年齢は三十五才、少年達より一回りは歳上。
そして戦士としてもベテランの為、わざわざ声高に叫ばなくても変身を出来る事を知っていた。
何よりも、良い大人が変身ポーズをとって叫ぶ事に抵抗がある。
(全く、叫んでる暇があれば敵に攻撃しろよな)
無言のまま、バングルに腕をかざそうとする吾郎にフェニックスレッドが声を掛ける。
「イエロー、早く変身して下さい」
フェニックスレッドは、そう言って吾郎を庇いながら変身を急かす。
「ちっ!!わかったよ。毒の煙よ、大地の守護者コカトリスの魂を呼べ……イエローコカトリス」
半ば自棄になって叫んだ吾郎を黄色い煙が包み込む。
包み込んでいなかったら顔が真っ赤になっていたのがバレただろう。
「「「「ソウル召還完成!!我ら、幻獣戦隊クリプティッドファイブ」」」」
「ファーイブ」
他の四人にはやる気がなそうに聞こえた吾郎の声であるが、それは精神力をガッツリと削られたのが原因である。
「ファータ、悪事をクリプティッドファイブ許すと思うな!!」
ファータはクリプティッドファイブと敵対している組織、クリプティッドファイブが幻獣の力を使うのに対してファータは妖精の力を使う。
「ちっ、かかれっゴブリンども」
ファータの幹部ブラックオーガが戦闘員のゴブリンに号令を掛ける。
次々とクリプティッドファイブに倒されていくゴブリンの中から一人の男が飛び出して来た。
男は黒いジャケットを着て、黒のレザーパンツを履いている。
「デススプリガン!?」
デススプリガンはファータの中でも一、二を争う実力者でクリプティッドファイブも何度も煮え湯を飲まされている。
自然と及び腰になるレッド達を無視して、デススプリガンは吾郎に近づいていく。
「イエロー、大丈夫?」
「大丈夫だよ。それにこいつの相手を出来るのは俺しかいないだろ?」
ブルーが心配そうに声を掛けてくれたが、吾郎は面倒臭そうに手を振りながら答えた。
仲間を巻き込まない様に離れて行く、吾郎とそれを追い掛けるデススプリガン。
集団から距離が取れたのを見て二人は対峙する。
視線が重なり合った瞬間、デススプリガンが鋭い蹴りを放つ。
「ゴロー、俺を笑い死にさせる気か?良い年して大地の守護者って」
「この姿の時に本名を呼ぶんじゃねぇ!!…お前その手に持ってるのはまさか!?」
デススプリガンの蹴りをいなした吾郎の目に映ったのはスマホ。
「見ての通り、スマホだ。ダチの雄姿はしっかりYouTubeにアップしてやるぜ。題して”乙!!中年戦士”だ」
「守!!頼む、それだけは勘弁してくれ。ダチだろ?」
コカトリスイエローこと大酉吾郎とデススプリガンこと富山守は高校の同級生で友人であった。
仕事では敵対しているが、今でも月に一度は飲みに行く仲である。
「素顔は映してないし、中年戦士シリーズの再生数は凄いんだぞ」
「なっ、頼む。今度、ボトル入れるから」
ちなみに富山守はプライベートでは居酒屋を経営しており、吾郎もちょくちょく顔を出していた。
「一万円以上のボトルで手を打ってやる」
こんな会話をしながらも、二人の攻防は凄まじく誰も手出しが出来ないでいる。
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吾郎がデススプリガンこと富山守を足止めした事もあり、この日の戦闘はクリプティッドファイブ側の勝利に終わった。
そんな中、吾郎は指令室に呼び出されていた。
「大酉さん、今日もご苦労様でした」
先代のレッドで今はクリプティッドファイブの指令をしている赤井炎が吾郎を労う。
「赤井さん、どうしたんですか?指令室に呼んだ理由はそれだけですか?」
赤井は吾郎にとって上司であり、戦隊のイロハを教えてくれた先輩でもある。
「大酉さんは疲れていると思いますから、少しの間休んで下さい」
他人行儀な口調で、申し訳なさそうしている上司。
「…それはリストラですか?」
吾郎の問い掛けに、かつての先輩が申し訳なさそう頷いた。
二時間後にもう一話載せます