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クサリ  作者: キイ
2/3

1.優しい顔で

「痛っ」

「はい、我慢我慢ー。よし、終わりっ」

「なんかすいません」

「いいのよ。お茶入れてくるからゆっくりしててねー」

 僕は今、全く知らない人の家にいる。

 十分位前に、僕は車にぶつかられた。速度は遅く、ひくというまではいかなかったが、その衝撃で転び、膝を擦りむいた。

 車は、ひき逃げならぬ、ぶつかり逃げをした。


「痛い。最悪だ」


 なんだか気力を無くした僕は、その場に少し、座ったままでいた。そこへ、この家の住人が通りかかり、声を掛けてきた。

 ここへ来るのを僕は丁寧にお断りしたのだが、半ば強制的に連れてこられた。そして怪我の手当てまでされた。




「はい、緑茶でいいかなー?」

「あの、僕もう……」

「まだいなさいよー。どうせ学校さぼりでしょー?」

「……」

 図星だ。でも、僕はさぼりというより、登校拒否をしているから少し違うのだけれど。 ここへ連れてこられる前から思ってたけど、僕はこの人がすごく苦手だ。僕の意見なんかお構い無しに話を進められる。

 この人は嫌味なくそんなことをしてくるから、余計苦手だ。

 しばらく、テーブルを挟んで座っている人は何やら携帯電話をいじっている。そのせいで、すごく静かだ。

 部屋を見回す。そう言えば、この人が僕を見付けたとき、両手にスーパーの袋を持っていた。袋の中には、一人暮らしとは思えない量の食材などが入っていた。

 主婦なのかな。

 もう一度、部屋を見回す。子供の物が見当たらないかぎり、夫と二人暮らしだろうか。

 ここまで考えて、僕は、はっとした。なぜここまで他人のことを考えているのだろう。僕にしては、珍しい。


「おかしもどーぞっ」


 いつの間にか、携帯電話をいじるのをやめて、おかしまで用意していたみたいだ。 テーブルの上に、スナック菓子の入ったお皿が置かれた。

 僕はあまりスナック菓子を食べないのだけれど、ここは少し、食べておくべきかもしれない。


「あ!あいすもあいすもーっ」


 出しすぎだ。いくらなんでも食べきれない。

「ハーゲンダッツよ。今日は奮発しちゃう!」

「はあ……どうも」

 勢いに圧倒された僕には、それしか言えなかった。

「そのかわり!少しお話しましょ!」

 ああ、帰りたい。オハナシなんて、めんどくさい。僕が学校に行かないのも、話し掛けられるのが嫌だからという理由なのに、こんなところでオハナシなんて。

 でも、ハーゲンダッツのグリーンティーは僕の大好物だ。食べ終わるまでなら、オハナシも、いいかもしれない。


 前の人は、僕の了解を得ずとも話し出した。

「んー、そうね。じゃあ、なんでさぼってるのかしら?」

「……めんどくさいんです」

「その答えからすると、毎日行ってないのね?あ、じゃあ今話してるのも結構めんどうくさいでしょ?」

「はい。……あ」

 すらすらと話す、そのペースに乗せられてしまった。つい、本音が。

「あっはっは!いいのよ、素直っていうのは良いことよー」

 そっかあ、じゃあそうねー、と前の人は次の質問を考えているみたいだ。

 ふと、長めのスカートからのぞく、前の人の足が視界に入る。足首のあたりにはあざがあった。ぶつけたなんてもんじゃないくらいのあざだ。

 僕がまじまじと見たのがいけなかったのだろう、気付かれた。



 前の人は口を開く。

「これ?夫がやったのよー」

 微笑みながら、

「同窓会に行ったら怒られたのよ」

 足首を撫でる。

「でもね、」

 酷く、愛しむように。



 僕には、まるで解らない。前の人の、その、気持ちが。

 ただ、アイスが溶けてゆく。



恋は盲目。

ならば、愛は。




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