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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第三話 デュエルは補佐の大仕事?
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-1-

 朝。

 ちらほらと同じ制服を着た生徒たちの背中が見える通学路を、僕とちまきは肩を並べて歩いていた。


 幼馴染みで家が隣同士の僕たちは、小学生の頃からずっと、朝はこうして一緒に登校している。

 幼稚園はバスだったから歩いて登園する必要はなかったけど、もちろん一緒の幼稚園だったから同じバスに乗って通っていた。


 普通は中学生ともなると、男女で一緒にいることを恥ずかしく思ったり、周りから冷やかされたりとかして、若干距離を置くものかもしれない。

 でもちまきは、周りから囃し立てられるのなんてお構いなしに、僕と一緒にいることが多かった。


 高校生となった初日、神龍学園の入学式だった昨日は、僕が寝坊して遅刻したせいで、一緒に登校しなかったわけだけど。

 僕の部屋にまで勝手に(きっとお母さんの承諾は得ていたと思うけど)上がってきて、ちまきが起こしてくれたのは覚えている。

 だけど僕は、すぐに追いつくから先に行って、と寝ぼけながらも伝え、そのまま二度寝してしまったのだ。

 結果、ひとりで遅刻して登校、生徒会長と運命の出会いをすることになった。


 昨日は生徒会室に連れ込まれ、遅くまで会長の話し相手なんてしていたため、家に帰ったのも暗くなったあとで、ちまきと一緒に下校することもできなかった。

 どうやらずっと校門の前で待っていてくれたみたいなのだけど。


 エアコムには電話やメールの機能もあるけど、会長に言われてマナーモードにしていたのをすっかり忘れていた僕は、ちまきからの電話にもメールにも、まったく気がつかなかった。

 そして、朝になって着信があることに気づき、メールの返信をしようとしたところで、僕の部屋にちまきが飛び込んできた。


「今日は起きてたのね」(ちっ)


 おはようの前に、そんな言葉がちまきの口からこぼれた。

 その舌打ちは、いったい……。

 そうは思ったけど、追求しないことにした。


 まだパジャマ姿だった僕は、ちまきに玄関で待ってもらい、すぐに支度をして、今日はこうして余裕のある時間に通学路を歩いているところだった。


「それで除夜ちゃん、本当に生徒会長の補佐として、ずっと生徒会室で授業を受けるわけ?」

「うん、そうなるみたい」

「強制だったんでしょ? そんなの、断っちゃえばいいんじゃない?」

「だけどさ、神龍学園では、生徒会長ってのは絶対的な存在なんでしょ?」

「それはそうだけど……でも、一個人の人権を無視したような身勝手は許されないんじゃない? っていうか、あたしが許さないし」

「ちまきが許さないのは、あまり関係ないんじゃ……。それに、人権って、そこまでの話じゃないでしょ」

「そこまでの話よ! なんでせっかく一緒のクラスになったのに、一緒に勉強できないの!? あたしのハッピースクールライフ計画が台無しよ!」

「なにさ、それ」


 思わず苦笑が浮かぶ。

 ちまきが本当に怒ってくれているのは伝わってきたけど、僕自身は、さほど嫌だとも思っていないのだから。


「補佐っていっても、会長の話し相手になればいいみたいな感じだし、結構気楽なもんだよ? だから心配しなくていいよ」

「心配じゃなくて!」


 僕としては、安心してもらおうと思って本心を語ってみたのだけど。

 ちまきは心配しているというわけではないらしい。

 はて? だとすると、どういうことだろう?


「心配じゃなくて、なに……?」

「えっと、だから、それは、その……」


 どういうわけだか、ちまきは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

 左右に分けている前髪から、なぜかひと房だけアゴの辺りに届くくらいまで伸ばしている前髪の先端を、無意識のうちにくわえながら、もごもごと言葉にもなっていないつぶやきをこぼす。


 髪の毛の先端をくわえるのは、ちまきの昔からの癖だ。

 幼い頃、ちまきのお母さんが「汚いからやめなさい!」と叱っているのをよく見かけたけど、高校生になった今でも、この癖は直っていないようだ。


 不意に、うつむきながら歩いていたちまきが、なんだか必要以上に僕のほうへと近寄ってきた。

 もともとすぐ隣に並んで歩いていたのは確かだけど、今はもうぴったりと寄り添うほどの距離。

 春のうららかな日差しの中では、暑苦しく感じてしまうくらいだった。

 そんな文句を言ったら、問答無用で殴られそうだけど。


「おい、お前! 除夜から離れろ!」


 不意に凛とした声が響く。

 声の主は、生徒会長である華神桜蘭先輩だった。


「あっ、会長、おはようございます」

「ちょっと、除夜ちゃん! なに普通に挨拶してんのよ! 会長さん、離れろって、どういうことですか!?」


 なぜか敵意むき出しのちまきが会長を睨みつけ、僕に腕を絡めながら怒鳴り散らす。


「どういうことって……言葉どおりの意味だが。除夜は私の補佐だ。ゆえに除夜は私のものだ。昨日も言ったはずだぞ?」


 対する会長のほうは、慌てた様子もなく冷静に言葉を返してきた。


「ふざけないでください! 除夜ちゃんは、あたしのものです! 幼馴染みの特権なんですから!」


 ……いやいや、ちまきのほうにこそ、ふざけないでと言いたい。

 いつ僕がちまきのものになったというのやら。

 そんな思いを僕が口にする隙もないほど、ふたりの言い争いは矢継ぎ早に続いていた。


「ふざけてなどいない。これは生徒会長の特権だ。むしろ学園の規則だと言ってもいい。生徒であるお前には、従う義務がある!」

「そんなの横暴です! 除夜ちゃんの人権を無視するなんて、許されるはずないです!」


 ……だったらちまきにも、僕の人権を尊重してほしい。


「除夜も補佐の役目を喜んで引き受けてくれたのだぞ? 横暴などと言われる筋合いはないと思うが」


 ……べつに僕は喜んで引き受けた覚えなんてないですが。


「会長さんがマインドコントロールでもしたんでしょう!? あっ、それとも、色仕掛けですか!? 卑怯ですよ!?」


 ……なにやら、話があらぬ方向へ進んでいるような気も。


「色仕掛けなどしていないが。しかし、そうだな……。お前のその残念な胸では、色仕掛けもできなさそうだ……。すまない……」

「な……っ!? 気にしてるのに……! それに、そんなことで謝らないでください! こっちが惨めです!」

「それならば、勝ち誇ってやろう。ほ~ら、でかいだろう? 羨ましかろう? ほっほっほ、悔しかったらお前もこれくらいになってみろ!」

「うがぁ~~~! それはもっとムカツク~! ウキ~~~~ッ!」

「猿かお前は。まったく、うるさいヤツだな。近所迷惑だぞ?」

「誰のせいですか! あなたにだけは、言われたくないです! この職権乱用女!」

「ふむ。だったら存分に乱用させてもらおう。お前、ここで脱げ!」

「は……はぁ!? なにバカなこと言ってんですか!? だいたいそんな特権、生徒会長にあるんですか!?」

「いや、ないな。もしあったら、男子が生徒会長になった場合、大変なことになる」

「そ……それはそうですよね」


 安堵の息を吐く、ちまき。

 どうでもいいけど、もし会長にそんな特権があったとしたら、本当に脱ぐつもりだったのだろうか?


「ともかく、除夜は私の補佐だ。今日も生徒会の仕事がある。だから連れていくぞ」


 ぐいっ。僕の右腕を引っ張る会長。


「だ……ダメです!」


 ぐいっ。僕の左腕を引っ張るちまき。


「しかし、除夜には生徒会室に行く義務がある」


 ぐいいっ。


「あたしの除夜ちゃんなんですから! 一緒に教室に行って一緒に勉強するんです!」


 ぐいいいっ。


「いや、私とともに来てもらう!」


 ぐいいいいっ。


「あたしと一緒に行くんです!」


 ぐいいいいいっ。

 …………。


「痛いってばっ!」


 バッ! ふたりの腕を振り解く。

 突然の爆発に、会長もちまきも目を丸くしていたけど。


「とりあえず、会長の補佐になったのは確かだから、僕は生徒会室に行くよ。ごめんね、ちまき」


 僕の言葉に、会長が勝ち誇ったような笑顔を見せる。


「そうだろうそうだろう! さあ、行くぞ!」

「……でも、僕は会長のものではないですからね」


 念のため釘は刺しておく。ここで調子に乗られたらたまらない。

 と、ちまきが大声で追いすがってくる。


「だ……だったら! あたしも、会長の補佐になります!」

「それはダメだ」


 会長はピシャリと言い放つ。


「私が認めないし、だいたい、除夜ひとりだけでも特例なのだからな。これ以上は無理というものだ」

「あの……だったら僕も、べつになりたくてなったわけでもないし、可能なら補佐を辞めたいんですけど……」


 控えめに申し出る僕を、会長は鋭い目で睨みつける。


「それはダメだ。私が許さないと言っているだろう? 逆らったら、そうだな……知り合いの死神にでも頼んで消してもらうからな」


 そんなバカこと、あるわけないじゃないですか!

 とは思ったものの、ふと会長の背後になにか得体の知れない気配を感じて、僕は反射的に視線を向けていた。


 少し離れた辺り――あの曲がり角か電信柱の辺りだろうか、ほんの一瞬ではあったけど、黒い影らしきものがチラリと見えたような……。

 も……もしかしたら、知り合いの死神ってのが、本当にいるのかも……?


 怖くなった僕は、それ以上なにも言えなくなってしまった。

 それはちまきにしても同じだったらしく、会長に黙って引きずられていく僕の姿を、名残惜しそうな視線は残しながらも、黙ったまま見送ることしかできないようだった。


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