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「ところで……」
最初にこの生徒会室へと連れ込まれてからずっと気になっていたことを、僕はここでようやく口にする。
「会長、この生徒会室、マジですか?」
「ん? ……ああ、そうか。確かにちょっと手狭だとは思うが……」
「いやいや、そういうことじゃなくて!」
大きく手を広げ、手狭な生徒会室全体を示す仕草をしながら叫ぶ。
「どうしてこんなに、汚いんですか、ここは!?」
生徒会の仕事に使うような資料でごちゃごちゃになっている、というのなら、まだマシだっただろう。
だけど、今僕の周りに広がる生徒会室の光景は、そういったものとはまったく異質なオーラを放っていた。
ちょっと狭い生徒会室のそこら中に、会長の私物と思われるバッグやらアクセサリーやらが転がっている。
そういったものを学園に持ち込むこと自体が、問題になりそうな気もするけど、僕が気にしているのはそこではない。
散乱している中には、会長の衣類なども紛れ込んでいたのだ。
しかも、体操着や靴下といったものだけではなく、下着までもが無造作に脱ぎ捨てられている状態で……。
「ふむ。そうだな。これまでは私ひとりの部屋だったから気にしていなかったが、今日からはお前も一緒に住むわけだから、気にしなければならないか」
「一緒になんて住みません! だいたい会長だって、ここに住んでるわけじゃないでしょう!?」
「まぁ、確かにそうだが。しかし、トイレもシャワーも完備されているからな、ここは。たまに泊まり込むことはあるぞ?」
「そう……なんですか……」
生徒会長という役職は、この学園の場合、すべてをひとりでこなす必要がある立場ということになる。
そうすると、雑多な仕事に追われ、忙しくて帰れない、なんてこともありえるのか……。
僕はそんなふうに考え、頭ごなしに怒鳴りつけてしまったのを少々反省し始めていたのだけど。
「ここでだらだら生活していると、帰るのも面倒になることが多いからな」
「あなたはダメ人間だ!」
どうしてこんな人が生徒会長をやっているのか……。
それもひとえに、この学園のシステムの成せる業ということか……。
「失敬な。これでも私には人望があるのだぞ?」
「人望のある人が生活する場とは思えませんけど……」
僕は視線を脱ぎ捨てられた衣類へと向ける。
あの黒いヒモみたいなのって……。
会長、神聖な学園内でいったいどんな下着を身につけてるんですか!
思考をまたしても読んだのか、僕の視線を追った会長がこんなことをのたまう。
「ふむ。興味があるか。欲しいなら持って帰っても……」
「そんなこと思ってませんし、持って帰ったりもしません!」
「ふっ、つまらない男だな」
「なんなんですか、それは!?」
どうやら会長は、僕をからかっているだけだったようで、おもむろに脱ぎ捨てられた自分の衣服を拾い集め始めた。
さすがに会長でも、脱いだあとのものとはいえ、男である僕に下着まで見られてしまうのは恥ずかしい、という思いがあったのだろう。
……そんな僕の考えは、どうやら完全に間違っていたようだ。
会長は、拾い集めた衣服の塊を持ったまま僕の目の前にまで歩み寄り、そして、
「では、よろしく頼む」
と言いながら、それらすべてを僕に押しつけてきた。
反射的に腕を伸ばし、下着をも含む会長の衣服を抱える僕。
「って、会長! よろしく頼むって、なんですか!?」
「洗濯を頼むと言っているのだ。隣の家庭科室に洗濯機があるから、使わせてもらうといい。家庭部の女子生徒がいるかもしれないが、生徒会長の命令だと言えば問題ないはずだ」
「…………これって補佐の仕事なんですか?」
「当然だ」
断言されてしまった。
僕はしぶしぶ隣の家庭科室へと赴き、家庭部の女子生徒に白い目とひそひそ声を向けられる中、会長の衣服(下着含む)の洗濯を黙々とこなす羽目になるのだった。