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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
最終話 神龍学園よ永遠なれ!
47/48

-3-

「みんな、来てくれてありがとう……。だが、守ってやれなかった無力な私を許してくれ……」


 会長の悲痛な声が響く。

 スタンガンのせいでまだ口が上手く回っていないにもかかわらず、必死に紡ぎ出されたその言葉によって、SPに押さえ込まれている生徒たちはみんな、胸を熱くしているようだった。


「会長のせいじゃありません!」

「俺たちは自分の意思で来たんです!」

「悔いはありません!」


 そんな思いを口に出すたびに、SPから静かにしろと怒鳴られ、強く地面に押しつけられる。


「ふっふっふ、いい話じゃないか」


 都知事の笑い声が、生徒たちのうめき声にまじって響く。

 口調も若干穏やかになった印象を受けた。

 とはいえ、絶体絶命の状況には違いない。


 果たして僕たちはどうなってしまうのか。

 あまり考えたくはないけど、いい結末が待っているはずはないだろう。

 僕の考えを肯定するかのように、都知事は力強く、どす黒いオーラをにじませた声を吐き出す。


「だが、これで終わりだ。お前ら全員、監禁施設送りにしてやろう」


 続いて、僕たちの中で唯一立ち上がったままの菱餅先輩へと顔を向ける。


「菱餅くん、とりあえず桜蘭くんたち四人を、スタンガンで気絶させてしまいなさい」

「……はい」


 菱餅先輩は、小さく頷くと、会長のそばまで歩み寄っていく。

 本音では都知事なんかには従いたくないに違いない。それでも、どうすることもできない。

 最悪の事態を――全員皆殺しという結果を回避するには、言いなりになるしかない。

 そんな悔しさが、菱餅先輩の苦々しい表情からは読み取れた。


 だけど、無情にもスタンガンは会長に押し当てられてしまう。

 一瞬の躊躇はあっただろうか。

 でもすぐに、


 バチッ!


 大きな音が響き、会長は声もなく床にぐったりと横たわった。


「会長……!」


 気を失っただけのはずだ。

 だからきっと、大丈夫……。

 そう思い込もうとしても、ぴくりとも動かない会長の背中は、不安ばかりを募らせる。


 それに、これで終わりではない。

 都知事の命令は、四人を気絶させること。

 会長、ちまき、心見先輩、そして僕だ。


 菱餅先輩は、一度会長を気絶させたことで慣れが生じたのか、ちまき、心見先輩と、続けざまにスタンガンを繰り出し、会長と同じようにあっけなく気絶させていった。

 残るは、僕ひとり。


 感情のこもっていないような顔をした菱餅先輩が、ゆっくりと僕に近づいてくる。

 僕のすぐそばにひざまずき、スタンガンを背中に押し当てた、その刹那。


「気を失うフリをして」


 ぼそっと。

 早口でとても小さな声だった。聞き逃してしまいそうなほどの、微かな指示の声。

 さりとて、それはしっかりと僕の耳に届いていた。


 次の瞬間、


 バチッ!


 他の三人のときと同様、大きな音が響いたかと思うと、背中に痛みが走る。

 ただ、僕は意識を失うことはなかった。

 スタンガンの出力を、さっきよりもさらに下げてあったのだろう。痛みによって逆に意識が覚醒したような感覚すら受ける。


 ともあれ、今動くわけにはいかない。

 菱餅先輩の指示どおり、僕は目を閉じ、床に倒れ伏す。

 耳に神経を集中して状況を見守る。それが今の僕に与えられた使命だ。


 おそらく、会長もちまきも心見先輩も、僕と同じように気を失ったフリをしているだけなのだろう。

 ならば今は、逆転の機会が訪れるのを待つのみ。

 緊張で汗が勝手に噴き出してくる。

 これで気づかれたら、せっかくの菱餅先輩の機転が水の泡だ。懸命に心を落ち着かせるよう努める。


 そんな僕の耳に、菱餅先輩の声が聞こえてきた。


「……終了しました」


 それは、都知事に向けた報告だった。


「うむ、よくやった」


 都知事は満足そうに労いの言葉を返す。


「それでは、これはお返しします」

「ふむ、そうだな。もう必要もあるまい。返してもらっておこう」


 ……あのスタンガンは、もともと都知事から渡されたものだったのか。

 それはともかく、僕はその言葉で、菱餅先輩の考えている作戦の内容がわかった。

 都知事に歩み寄っていく菱餅先輩。スタンガンを受け取ろうと手を伸ばす都知事。


「最大出力……」


 菱餅先輩がぼそっとつぶやいた。


「む……?」


 聞き取れなかった都知事は、一瞬とはいえ無意識に思考に入る。

 その隙を突いて、一歩踏み出した菱餅先輩は、


「食らえっ!」


 気合いのかけ声とともにスタンガンを都知事の体に押し当て、スイッチを入れた!


「ぐあっ!?」


 都知事が苦悶の声を上げる。

 やったか!?

 地面に横たわりながらも、期待を込めた視線を向ける僕だったのだけど。


「こ……この小娘……!」


 どうやら、都知事はとっさに体を反らし、難を逃れていたらしい。

 菱餅先輩の作戦は、失敗してしまったのだ!


 これで万時休す……ということには、しかし、ならなかった。

 なぜなら、僕と会長、ちまき、心見先輩の四人がすかさず立ち上がり、都知事を取り囲んで、押さえつけにかかっていたからだ!


「な……っ!? お前ら……! くっ、そういうことか……!」


 ようやく菱餅先輩の反逆に思い至った都知事だけど、時すでに遅し。

 神は我らに味方せり!

 事態に気づいたSPたちが都知事を守ろうと押し寄せるものの、都知事の首筋には菱餅先輩がスタンガンを押しつけている。


「リミッターを解除した最大出力だじょ! 下手をしたら、命の危険もあるかもしれないにょん!」


 いつもどおりの菱餅先輩の甲高いお子様風味の声に戻ってはいたけど、それでもスタンガンの威力は、SPたちにもわかっているのだろう。

 動きがピタリと止まる。

 あれってもしかしたら、都知事専用に準備された特別製のスタンガンなのかもしれない。


 ともかくこれで、流れは完全に僕たちほうへと傾いた。

 僕、ちまき、心見先輩の三人がかりで都知事を押さえ込み、菱餅先輩が首筋にスタンガンを押し当てる。

 その目の前に、会長が立つ。


 今までに見たこともないほどの怒りを全面にたたえた、まるで仁王のような形相で、会長は都知事に思いの丈を乗せた怒鳴り声をぶつけた。


「さっきも言ったとおり、自分勝手でひとりよがりな考えしか持っていないお前に、トップに立つ資格などない!」

「お前など、ワシの作った学園で生徒会長をやっているだけの小娘だろうが。国王となる身のワシに、手を上げるつもりか!?」


 劣勢に立たされている状況だと、気づいているのかいないのか……いや、気づいてはいるのだろう。

 されど受け入れたくない、というよりも、受け入れるわけにはいかない、そんな悪あがきとしか思えない感情で、都知事はこの期に及んで噛みついてくる。


「そんなヤツが生徒会長で、しかもそれを認めるような生徒しかいないなど、せっかくワシが高尚な意図で創設してやったというのに、神龍学園も失墜したものだな!」


 往生際の悪さに呆れながらも、声の力強さについ耳を貸してしまい、意識は完全に都知事の話のほうへと向いてしまっていた。

 それが悪かったと言えるだろう。


 一瞬の隙を突き、SPのうちのひとりが会長へと飛びかかった!

 僕もちまきも菱餅先輩も、都知事の言葉だけに意識が向いていて対応が遅れてしまい、会長を守ろうにも間に合わない。


 ドガッ!

 勢いよく飛びかかられ、大きな音を伴って吹き飛ばされたのは、しかし、会長ではなくSPのほうだった。

 心見先輩がタックルを仕掛けた自らの体もろとも、SPを突き飛ばしたのだ!


「ナイスだ、浄太郎!」


 会長の言葉に、ビッ! と親指を立てる。

 初めて心見先輩がカッコよく見えた瞬間だった。

 そして――。


「生徒会長鉄拳制裁パーンチ!」


 問答無用で会長の右ストレートが、都知事のみぞおちをえぐる。


「が……っ!」


 ひざから崩れ落ちる都知事。

 会長はその都知事の前で両手を腰に当て、ボリューム満点の胸をこれでもかというほど張り、ひときわ大きな声で叫んだ。


「私は神龍学園生徒会長、華神桜蘭だ! なんぴとたりとも私を、そして私たちの学園を侮辱することは許さない!」


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