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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
最終話 神龍学園よ永遠なれ!
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-2-

 僕の悪い予感は、すぐに的中することとなった。

 ただしそれは、思ってもいない方向からもたらされた運命だったわけだけど。


「仕方がないな……」


 都知事のサングラス越しの瞳が、一瞬ギラリと光った……ように感じた。その感覚は、あながち間違いではなかったのかもしれない。

 それが合図となったかのように、動き出したからだ。

 だけど、動き出したのはSPたちではなく――。


「お姉様♪」

「むっ? 菱餅! くっつくな! お前、こんなときに……」


 菱餅先輩が、突然背後から会長に抱きついた。

 なんだ、いつもの悪い癖が出たか。

 僕たちは全員、そう思って呆れていたのだけど。


「うっ!?」


 ドサリ……。

 突然会長の体が、その場に崩れ落ちた。


「ひ……菱餅……お前……」

「ごめんなさい、お姉様」


 つぶやく菱餅先輩の手に握られているもの、それは……。


「きゃっ!?」

「……くっ……」

「うわっ!」


 続けざまに倒れ込むちまき、心見先輩、そして僕。

 菱餅先輩が握っていたもの、それはスタンガンだった。


「ふっふっふ、そいつはすでにワシの味方になっていたのだよ。あらかじめいろいろと準備しておいて正解だったな」


 勝ち誇ったような都知事の満足そうな声が響く。

 ずっと落ち着いていたのは、SPたちがいるからというだけではなく、菱餅先輩も都知事側についていたからだったのだ。

 でも……。


「……どうして菱餅先輩が……」


 どうやらスタンガンは、出力を弱めに設定してあったようだ。

 僕は痺れて動きは取れないものの、どうにか喋ることだけはできた。

 会長たちにしても、うめき声を発して身をよじっていることから、意識は保っているのがうかがえる。


 僕が発した疑問の声に、都知事は微かな笑みを浮かべるのみ。

 代わりに、菱餅先輩本人が答えてくれた。


「うちは両親とも都庁の職員なんだじょ。だからひーちゃんも、都知事に逆らうわけにはいかないのだにょん」


 いつもどおりのおちゃらけた語尾をつけた言葉ではあったけど、菱餅先輩の声は決してふざけた調子ではなかった。

 どうしようもない心苦しさが、微かに震える菱餅先輩の言葉からは感じられた。


「以前、ひーちゃんが二回目のデュエルを敢行したとき、柏葉さんに渡してあった電波の妨害装置……あれは都知事から借りたものだったんだじょ。デュエルに勝てばひーちゃんが新たな生徒会長になって、都知事としても扱いやすくなる。そんな考えもあったみたいだに」


 スタンガンを持った腕を、ぶらりと力なく重力に任せて揺らしながら、菱餅先輩は立ち尽くしている。

 淡々と語ってはいた。

 それでも、会長や僕たちを手にかけてしまったことにより、菱餅先輩の小さな胸は痛みでいっぱいになっているのだろう。


「菱餅……」


 会長が苦しげなつぶやきを漏らした。

 視線は菱餅先輩に向けられている。

 会長の瞳に込められているのは、恨みや怒りではなく、哀れみや同情といった菱餅先輩を思い遣る気持ちのようだった。


 菱餅先輩は黙って視線を逸らす。

 その目には、微かに涙が溜まっているようにも見えた。


「……さて、これ以上無駄なことをする必要もあるまい。会長ともども、キミたちにはそろそろお引取り願おうか。菱餅くんは自分で帰れるね? 他の者たちは、SPにでも運ばせるとするか」


 そう言って都知事は背を向ける。


「ワシはこれから忙しい身となるからね。東京国の国王として、まだまだ決めなければいけないことも多い。こんな間抜けな茶番につき合っている余裕などないのだよ」


 知事はそのまま、奥の扉へと歩き始めた。

 知事室と銘打っているとはいえ、ここはあくまでも来客との対話を目的とした場所でしかない。

 普段仕事をしている部屋は、あの扉の奥にあるということなのだろう。


 と、不意に。

 扉の向こう側が騒がしくなった。

 もちろん都知事が向かおうとしていた扉ではなく、僕たちが入ってきた、入り口側の扉の向こうだ。


「なんだ、お前たちは!?」


 そんな大声が響いたと思った瞬間、乱暴に扉が開け放たれる。

 なだれ込んでくる、たくさんの人影。

 それらの人影はすべて、神龍学園の制服を身にまとっていた。


 学園の生徒たちが、会長や僕たちを追って、この場所にまで乗り込んできたのだ!


「サクラン会長は、学園のみんなの味方です!」

「神龍学園は王制を敷くための実験場なんて言ってたけど、会長は決して独裁支配していたわけじゃない!」

「都知事、サクラン会長はあなたとは違います!」


 口々に会長の擁護と都知事への不満を叫ぶ。

 会長は、ここまで生徒たちの信頼を得ていたのか。

 少々の驚きはあったものの、素直に納得できたのもまた事実だった。


「お前たち……」


 会長本人は瞳を潤ませている。

 ともあれ……。

 状況が悪い。

 会長も含めた僕たちは今、菱餅先輩のスタンガンの一撃によって倒れているし、周囲にはSPたちもたくさん控えている。


「……捕らえろ」

「はっ!」


 都知事の無慈悲な命令に、SPたちが一斉に動き出す。

 一介の高校生でしかない神龍学園の生徒に、抵抗するすべなんてあるはずもなかった。

 駆けつけてきた増援のSPも加わり、会長を慕って来てくれた生徒たちは、あっという間に全員が押さえ込まれる結果となってしまった。


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