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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
最終話 神龍学園よ永遠なれ!
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-1-

 僕たちは、東京の都心、新宿へと足を運んでいた。

 目指すは都庁第一本庁舎七階の知事室。

 SPに囲まれながら、僕たちはエレベーターで七階まで上がり、都知事の待つ知事室へと乗り込んだ。


 都知事に招かれていたのは会長だけだったけど、現生徒会役員として、僕たちも一緒に伺うことを了承してもらってある。

 会長としても、ひとりで乗り込むのは心細かったのかもしれない。

 実際のところ、僕は補佐だし、他の三人も役員とは言えない状態だけど、この際その辺りの事情は関係ないだろう。


「よく来てくれたね、神龍学園生徒会長、華神桜蘭くんと役員の皆さん」

「お招きに預かり、光栄です」


 恭しく頭を下げる会長。僕たちもそれに従う。


「ところで、会長以外の彼らも側近として迎え入れてほしいということなのかね? さすがに調査なども必要となるので、少々時間をいただきたいが……」

「いや、そうではありません」


 都知事の言葉を遮るかのように、鋭い声で否定する会長。


「ほう? 今日は桜蘭くんにワシの側近となってほしいという話でこうして招いたはずなのだが。キミはワシの申し出を受け入れるということで来てくれたのではないのかな?」

「はい。お断りするつもりで伺いました」


 会長はきっぱりと答えた。


「ほほう。だがそれならば、わざわざ五人もの大所帯で来る必要もないと思うのだがね。それに、こちらが電話で連絡を入れたように、そちらからも電話で断る旨を伝えるだけで事足りたはず」


 それなのに、なんのために来たというのだ?

 言外にそんな言葉と微かな苛立ちを含ませたかのように、都知事はサングラス越しに鋭い視線をぶつけてくる。


 それにしても、さすがに外で使っていたものよりは薄い色のようだけど、どうして室内でまでサングラスをかけたままなのだろう。

 イメージ的なものなのだろうか。確かに怖さが増すような雰囲気はあると思うけど……。

 その効果は、会長にはまったく及ばないらしい。


「つかぬことをお伺いします。神龍学園は今後、どうなるのですか?」


 怯む様子もなく、まっすぐに都知事の鋭い瞳を見据えながら、会長は質問の言葉を投げかける。

 ふっと軽く息を吐き、都知事は穏やかな口調で説明を返してくれた。

 されどその内容は、僕たちにとって穏やかな話というわけではなかった。


「王制を敷くための実験場という役目はもう果たされたからね、今の神龍学園としては廃校ということになる」


 廃校――。

 その二文字が、僕たちの頭の中を駆け巡る。


「新たな国では、学校は社会人となるために必要なことだけを学ぶ実践的な養成所とし、不要な授業などはすべて排除する予定だ。神龍学園も、その養成所として生まれ変わることになるだろう」


 呆然とする僕たちの気持ちなどお構いなしに、都知事の説明は続けられていた。

 だけど……。


 バシッ!


 問答無用で、会長が手を出していた。

 都知事の頬を平手打ちにしたのだ。


 控えていたSPたちも騒然となる。

 というよりも、ビンタを繰り出した瞬間に動き出していた。

 それを都知事は無言のまま手で制する。


「なにをするのかね?」

「私は神龍学園の生徒会長だ! 学園を守るべき立場にある! すなわち、学園を廃校にしようとするお前は、私の敵なのだ!」


 仮にも都知事を、しかも新たな国では国王となる予定の人を、ビンタとはいえ殴った上、お前呼ばわり。

 さすがに慌てる僕ではあった。

 でもそれと同時に、気持ちがスカッとしたのもまた事実だった。


「なにを言っている。神龍学園は、ワシの力で建てた学園でもあるのだぞ?」

「そんなの、知ったことか!」


 すでに敬語でもなくなり、完全にいつもの調子に戻っている会長の様子を、僕たちは緊張しながらも黙って見守っていた。

 会長の怒鳴り声を受けている都知事のほうも、今のところは落ち着き払っている。だから、まだ大丈夫なはずだ。


「だいたい、国王となって王制を敷くだと? 今の国民の混乱を、知らんわけではあるまい。自分勝手でひとりよがりな考えしか持っていないお前に、トップに立つ資格などない!」


 ……会長、あなたは学園で自分勝手じゃなかったんですか?

 といったツッコミはこの際、飲み込んでおくとして。


 言いたいことを一気にまくし立てた会長は、息を荒げながらも、少々満足気な表情を見せていた。

 それでも都知事は涼しい顔を崩さない。


「ふむ。桜蘭くん、キミが言いたいのは、それだけかね?」

「それだけとは、随分と失礼な物言いだな。国民の多くが反対しているような状況で、いったいどうするつもりなのだ?」

「絶対王政のもとでは国王の言葉は絶対だからね。愚かしい反対勢力など、力でねじ伏せればいい。それだけのことだ」

「そんな考えでは、確実に破綻するぞ? それに、力でねじ伏せるつもりならば、私や姉たちに打診してきた側近といった役割など、必要ないのではないか?」

「側近はあくまでもワシの考えを実行するための手足となって働いてもらう、いわば駒のような役割でしかない。SPたちも含め、国民をねじ伏せるためには、圧倒的な支配力が必要となるからね」

「……最低だな。すでに断ってはいたが、そんな役割など絶対に願い下げだ!」


 僕は改めて思った。会長はすごいな、と。

 知事室という完全アウェイな状況で、SPたちに囲まれながら、絶大な権力を持つ相手に対して、ここまで臆することなく自らの意見をはっきりと言いきるなんて。


 とはいえ、それが僕たちにとっていいことなのかどうかは、正直わからない。

 今のところは都知事が制しているおかげで、SPたちは成り行きを見守っているけど……。

 この先、僕たちの運命がどうなってしまうのか、それはまったく見えていない。


 ただ、あまりいい方向には進んでいかなそうだという悪い予感だけが、僕の頭の中には渦巻いていた。


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