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都知事の衝撃の東京独立宣言から一夜が明けた。
東京国を建国するという話は、日本中を、いや、世界中を駆け巡っていった。
実際に東京が国として独立するのは、どうやらまだ少し先になるようだけど。
それでも一ヵ月以内には実現させる構想らしい。
ギャラクシーで管理されているデータ上では、昨日の会見中にも言っていたとおり、それこそすぐにでも国としての独立は可能なのだろう。
ただ、実際には様々な問題が残っているということか。
どちらにしても、東京が日本から独立する計画は、着実に進行していることになる。
都知事がひとりで勝手な行動を起こしたとも言える東京の独立宣言。
日本には政府や警察といった機関もあり、場合によっては自衛隊が出動して事態を抑えることだって不可能ではないと思う。
だけど、どうやら大きな後ろ盾が控えているようで、実際にどうなのかはわからないものの、それがアメリカだとすれば、なかなか手を出せるものでもないのだろう。
でも、それだけじゃない。多くの日本国民だって反発するに違いない。
東京が国になることに利点があったとしても、今の東京都民が国になることを望むとは到底思えない。
それ以前に、東京以外に住む一般市民は、どう考えても反対するはずだ。
東京が日本の中心なのは間違いない。多くの企業が、東京を中心に展開している。
ファッションや文化に関しても、東京に点在する都市を中心とするものが多い。
エアコムへの配信に変わったとはいえ、テレビ局なんかも、主要な局は東京に集中している。
他にも、挙げればきりがないほど、東京は日本の中心としての地位を確立しているのだ。
その東京が勝手に独立してしまったら、日本という国は崩壊しかねない。
そこまで行かなかったとしても、経済や政治だけでなく、すべてにおいて大打撃を受けるのは間違いない。
東京都内にあるすべての機関、施設などは、新たに建国する東京国の所有となるらしい。
そうすると、残された日本としては、どうやって国を動かしていけばいいのか。
都知事は、「千葉か神奈川にでも首都を遷せばいいだろう。大阪にするという手もあるのではないか? そんなことは、ワシの知ったことではないが」と、すでに日本には無関心の様子だった。
ニュース番組では、千葉や神奈川、埼玉なんかを中心とした反乱が起こり始めているということも報道されていた。
それは、東京都内でも同じこと。あらゆる場所で、叛旗を翻している映像が放送されている。
日本国中が大混乱。
そんな中にあってもなお、都知事は絶対王政の国王となり、完全に自分ひとりの考えですべてをねじ伏せる構えを崩さない。
いったい日本はどうなってしまうのか。
不安ばかりが募る。
昨日家に帰ってからも、ニュースを見たりしながら自分なりにいろいろと考えてみた。
とはいえ、いったいどうすればいいのか、その答えが見つかるはずもなく。
朝になり、僕は寝不足で重いまぶたをこすりつつ、隣の家のちまきとともに学園へと向かった。
もちろん学園内も混乱していはいたけど、だからといって、僕たちだけでどうにかできる問題でもない。
あまりにも混乱しすぎて、なにも手につかない状態だった。
それはちまきや菱餅先輩、心見先輩にしても同じみたいで、今日は朝から僕や会長と同様、生徒会室にこもっている。
一般の生徒たちに至っては、登校さえしていない人も多そうだ。
先生方の中にも学園に来ていない人がいるようで、多くの授業が自習となっていた。
そうではない授業においても、クラスの半分以上が欠席している状態では、まともな授業ができるはずもない。
「あたしたち、どうなっちゃうのかしら」
ちまきがつぶやく。
「ひーちゃんは、この学園が好きなんだけどに~。もしなくなっちゃったら、泣いちゃうじょ!」
「……我も、桜蘭が会長を務めるこの学園を愛している……」
「浄太郎……」
「……正確には、桜蘭を愛している……」
「こんなときに冗談はよせ」
「……冗談じゃないのに……」(しくしく)
いつもの面々が集まっていて、それなりに会話は飛び交っている。
だけど……。
いつものような勢いはない。
いつものような明るさもない。
「なるようにしか、ならないですかね……」
弱気な僕に、会長は責めるような声をぶつけてくる。
「諦めるのか? ……私は諦めない」
「え?」
諦めないって……いったい、どうするつもりなのだろう?
「……我が呪いで……」
心見先輩はカバンからおもむろに藁人形と五寸釘を取り出していたけど、会長はそれを否定する。
「いやいや、そうじゃない。もっと正攻法で行く」
「会長なのに?」
「……除夜、殴られたいか?」
「いえ、すみません」
僕はやっぱり、ひと言もふた言も多いようだ。
そんな僕を初め、視線を向けている生徒会関係者一同の前で、会長は立ち上がり、力強くこんな宣言を開始した。
「私は、都知事の創設したこの神龍学園の生徒会長として、都庁に呼ばれているのだ。姉たちと同じだと考えるならば、おそらく側近として東京国に迎え入れるという話だろう。無論、そんな申し出を受けるつもりはないが。だが、私はこれから都知事のもとへ乗り込むつもりだ」
そこで言葉を区切り、会長は目をつぶって大きく息を吸い込む。
一瞬の間。
そして目をカッと見開くと、僕たち四人の姿を眼光鋭い視線で順に追いながら、こう尋ねてきた。
「……お前たちも、協力してくれるな?」
いつになく真面目な、真摯でまっすぐな会長の瞳。
僕たちは決意を込めて、大きく頷いた。
★★★★★
都知事が、絶対王政の国として東京を独立させると宣言したことで、日本中は大パニック。
その新たな国――東京国の王となる都知事のもとへ、僕たちは乗り込む。
次回、最終話、神龍学園よ永遠なれ!
……会長、僕はあなたに、ずっとついていきます!