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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第十一話 えっ? 東京国建国!?
43/48

-3-

「こういうことだったのか……」


 都知事からの――いや、今や東京国の国王と呼ぶべきか、国分寺忠翁の緊急ニュースが終わって重苦しい沈黙に囚われていた生徒会室に、会長の小さな声が響いた。

 思わずつぶやいてしまった、といった言葉に、全員の視線が会長のほうへと集まる。


「どういうことですか?」


 代表して尋ねる僕に、会長は一瞬だけためらいを見せたものの、諦めたように語り始めた。


 会長にはふたりのお姉さんがいる。それはすでに知っていたことだけど。

 会長はそのお姉さんから、助言を受けていたのだという。

 東京都知事がなにか企んでいるみたいだから、注意しておくように、と。


「歴代の生徒会長ということになるからな、私の姉たちは」


 お姉さんはふたりとも神龍学園の卒業生で、しかも会長と同じように生徒会長として長い時間を過ごしたというのは、以前にも聞いていたとおり。

 さっきの都知事――あるいは国王……まだあまり実感が持てないから、やっぱり都知事としておこうか――の発言にもあったように、半年以上続いた歴代生徒会長を側近として迎え入れる予定だとすると、すでに会長のお姉さんたちには接触があったのだろう。


 注意を促されただけということを考えれば、お姉さんたちも詳細までは――東京を日本から独立させ絶対王政の国を立ち上げる、などという驚きの計画までは、聞かされていなかったと思われる。

 とはいえ、さすがに不穏な空気を感じ、現在この神龍学園で生徒会長を務める妹に、念のため伝えておいたということか。

 おそらく会長は、以前都知事がこの学園を訪問したあのときには、そのことをすでに聞かされていたに違いない。


「都知事と会ったときに、会長がなんだかおかしかったのは、それを知っていたからなんですね」

「ああ」


 思ったとおり、会長は肯定を返してくれた。


「その後の会長の暴走で、うやむやになった感じでしたけど……」

「暴走言うな!」


 ……殴られてしまった。


「だけど、驚いたわ……。っていうか、これ、本当のことなの?」

「にししし! 映画かなにかみたいだにょん!」

「……だが、テレビのニュースでも相当話題になっている……」


 心見先輩の言葉で、全員がエアコムのテレビチャンネルを確認する。

 確かに、臨時ニュースでそのことを大々的に伝えているようだ。すべてのチャンネルにわたって……。


「やっぱり、これは現実なんだね」

「どうすればいいのかしら……。この学園が新しい国の中心になるのよね?」

「理解力が低いな。正確には学園の敷地内に建てている城が、ということだ」

「わ……わかってるわよ!」


 いや、ちまきは頭がいいはずだけど突発的な理解力は低いみたいだから、きっと瞬間の脳の許容量を超えてしまって、都知事の話の序盤くらいしか頭に入っていなかったに違いない。

 その証拠に、ちまきの額からは汗がだらだらと垂れてきて、ひと房だけ伸ばしている前髪をもじっとりと濡らしていた。


「……この学園は、この先どうなってしまうのだろうか……?」

「えっ? どうにかなっちゃうの?」

「とくに話には出てなかったと思うけどに~。それでも、王制を敷くための実験場なんて言ってたからには、建国したらもう用済みのお払い箱ではないかにょん?」


 ……菱餅先輩がなんだか冷静に分析している。

 おかしな喋り方と甲高くて緊張感のない声、さらにはお子様っぽい外見も相まって、とても似合わないと言わざるを得ないけど。


「ここは、直接訊いてみるのが一番だな」


 会長は言うが早いか立ち上がり、ドアに向かって颯爽と歩き出した。

 僕たちもつられるように、そのあとに続く。


「どこへ行くんですか? 直接訊くといっても、都知事にはすぐに会えないですよね?」

「これくらい言われなくても答えを導き出せないのか? 目的地は、学園長室だ」


 会長はツカツカと規則正しい足音を立てながら、面倒くさそうに言い捨てた。



 ☆☆☆☆☆



 学園長は都知事の息子。ということは、以前から今回のことを知っていた可能性がある。

 それを問い質すため、そしてこの学園の未来がどうなるのかを確認するため、会長は学園長室を目指した。


 重厚な両開きの扉。

 ここだけは、学園の中でも雰囲気が違っている。

 その扉を、会長は躊躇なく開け放つ。


 カギはかかっていなかった。

 まるで僕たちをいざなうかのように。


 実際、誰かが押しかけてくる予感はあったのだろう、学園長はとくに驚いた様子もなく侵入者である僕たちを受け入れ、投げかけられる質問をしっかりと聞いてくれた。

 だけど……。


「期待を裏切って悪いが、俺はまったく知らなかった。先ほどの緊急ニュースを見て、俺も驚いているところだ」


 学園長は、ふぅ~、と大きく息をつく。


「なにか企んでいるのは、なんとなく感じていた。だが、まさかここまでのことをするとは、まったくの想定外だった」

「こんなこと、上手くいくはずないと思うのですが……」


 控えめに進言する僕に、学園長は首を横に振って答える。


「いや……。親父の背後には、ギャラクシーのシステムを管理するアメリカの団体などがついていると聞き及んでいる。実際に東京全土を浮かび上がらせることまで可能な、圧倒的な技術力と資金力を持っているらしい」

「それって、管理団体程度のレベルじゃないような気も……」


 僕のつぶやきは、学園長室に空しく響くだけだった。

 他には誰も、言葉を発する様子はない。いや、言葉を発することさえできなかった、と言うのが正しいだろうか。


 ともあれ、学園長も言っているように、都知事にはもっと大きな後ろ盾がありそうな気はする。

 仮にそうだとしても、今の僕たちにはどうしようもないとは思うけど……。


「学園が今後どうなるか、それもわからない。追って通達はあるだろう。それまでは、ただ黙って待つしかないのかもしれないな」


 僕たちに向けて、諦めの声を漏らす学園長の表情は、苦々しく曇っていた。

 結局なにも結論を得ることができないまま、僕たちは学園長室を出るしかなかった。

 生徒会室に戻ってからも、誰ひとりとして声を漏らすことなく、この日は静かに帰宅した。


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