表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第十一話 えっ? 東京国建国!?
42/48

-2-

 不意にエアコムのウィンドウが開き、強制的に緊急ニュースの配信が始まった。

 時刻は午後四時。

 そして緊急ニュースの配信対象は……日本国民全員!?


「な……なによ、これ!?」

「落ち着け、ちまき。とりあえず、緊急ニュースとやらを見てみよう」


 会長もそう言いながら、声は少々上ずっていた。


 緊急時には、対象地域などに対してニュース速報が出ることがある。

 例えば地震、例えば台風、例えばゲリラ豪雨……。

 基本的にはそういった天変地異や異常気象に関したニュースで、ある程度限定された範囲内に絞られるのが常だった。


 それが、今回はどうやら違いそうだ。

 政治家が記者会見を行うような会場が、開かれたウィンドウには生中継動画として自動的に映し出されている。

 おそらくこれから、誰か――総理大臣や閣僚など権威のある人物が現れて、なんらかの重大な発表を始めるのだろう。


 それにしても日本国民全員に対してのニュースだなんて、果たしてどんな内容なのか。

 この平和な時代に、戦争でも始まってしまったとでもいうのだろうか……。

 十数年前に中東のどこかの地域で紛争があったのを最後に、戦争なんて言葉があったことすら忘れ去られたような、こんな平和な時代に……。


 じっと映像を見据える、生徒会室の面々。


 ぎゅっ。

 隣に座っているちまきが、僕の手を握ってくる。

 汗がにじみ、微かに震えていた。僕もそっとちまきの手を握り返す。

 普段なら会長が嗅ぎつけて怒鳴り声をぶつけてきそうな場面だけど、今はそんな雰囲気ではなかった。


 やがて、ずっと生中継で会場だけを映し続けていた映像に、変化が表れる。

 ある人が、会見の場にようやく登場したのだ。

 それは――。


「都知事……」


 思わずつぶやく。

 そう、それは先日この神龍学園にも訪れた、学園長の父親でもある、東京都知事の国分寺忠翁その人だった。


 東京都知事が全日本国民に対して、いったいどんな緊急ニュースをもたらすというのか……。

 固唾を呑んで見守る中、都知事は衝撃の宣言を開始した。



 ☆☆☆☆☆



『我が東京都は、日本から独立してひとつの国となることを、今ここに宣言する!』

「えっ……!?」


 僕も会長もちまきも菱餅先輩も心見先輩も、一瞬耳を疑った。

 お互いに顔を見つめ、これって本当のこと? と確認し合う。

 会長は隣の心見先輩の頬をつねる。「……痛い……」と、うめく心見先輩の声で、夢ではないことが証明された。


 かといって、今日は別にエイプリルフールというわけでもない。

 とすると、嘘でも冗談でもなく、本当に本当のことなのか……?

 それでもまだ、完全に信じられないでいる僕。いや、この生徒会室にいる誰も、信じられていない。

 きっと、このニュースを見ている日本国民全員が、同じ思いを抱いていることだろう。


 呆然とする僕たちを完全に置いてけぼりにしながらも、都知事の独立宣言は続く。


『新たな国の名前は、東京国。その重心に位置する国分寺市を首都とする』


 東京国……なんというか、そのまんまの名前……。

 それに、国分寺市って……。


「ここ、だな」


 会長のつぶやきに、みんなも頷く。

 僕たちが通っているここ、神龍学園のある場所が、ちょうど東京都の国分寺市だ。

 そこで、僕は気づく。


「もしかして、学園の敷地内に建てられている城って……」


 その言葉を肯定するかのように、都知事は宣言を続ける。


『都立神龍学園のために準備してある広い敷地の内部に、今現在、城を建設中である。その城が、新たな国の中心となる』

「やっぱり、そうなんだ……」


 でも、西洋風の城なのが少々気になる。

 そう思ったのは、僕だけではなかったようだ。


「城……ということは、もしかすると、都知事の考えていることは……」


 会長の考えは、その言葉で僕にも想像できた。

 それを肯定するような発言を、都知事はすべての日本国民――今日から東京が独立するなら、日本国民と東京国民と呼ぶべきだろうか――に対して放つ。


『東京国では、絶対王政を採用する。国王による独裁政権となるのだ。初代国王はこのワシ、国分寺忠翁が務めることになっている』

「絶対王政!?」


 外国風の統治体制、という想像まではしていたものの、まさかこんなことを言い出すとは……。


『国分寺市にワシが建てた都立神龍学園は、もともと王制を敷くための実験場として創られた。その機能は充分に果たしてくれたと言っていいだろう。これまでの十一年半ほどの学園の歴史の中で、半年以上続いた歴代生徒会長を側近として迎え入れ、ワシのもとで力になってもらう予定だ』


 都知事がなにか発言するたびに、僕たちには驚きが生じる。


 この学園が、王制を敷くための実験場……。

 生徒会長に独裁的な支配力を持たせる学園の方針は、そのためのモデルケースでしかなかったということか……。


 それにしたって、あまりにも突拍子のない規模の話に、僕の頭はほとんどついていけていない状態だった。


『知ってのとおり、世界中のすべての国の情報は現在、アメリカを中心に構築された「ギャラクシー」のシステム内部にデータ化され、集中管理されている。東京が国として独立する処理は、日本国のカテゴリーとして関連づけられているデータを、新たな東京国のカテゴリーに切り替えるだけで簡単にできる。また、すでにアメリカ側の承認も得ている。準備は数年前から着々と進んでいたのだ』


 驚きで声も出せない僕たち。

 続けられている都知事の宣言も、右の耳から左の耳へ通過していくだけ。

 そう思ったのだけど、さらなる衝撃が、僕たちの中を駆け抜けていくことになった。


『なお、東京の重心、国分寺市の神龍学園の地下には、秘密裏に大規模な装置が建造されている。東京全土を空中へと浮き上がらせる計画だ。東京方面の電車や道路は、あとから延長された場合を除けば通常は上りとなる。つまり、東京はどこよりも高い存在でなければならない。だからこそ空を目指す。これにより、東京は神の国となるのだ!』


 東京全土を浮かび上がらせる!?


 そんなことが本当に可能なのか。

 東京と他の県との境目を通る道路やら鉄道やらは、分断されてしまうのか。

 小笠原諸島などの島はどういう扱いになるのか。


 混乱のためか、随分と的外れなことも含めて、僕の頭の中には様々な疑問が駆け巡るのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ