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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第十話 華神サクランの暴走!
40/48

-4-

 カギを閉めたあとも、しばらくは生徒たちが騒いでいた。

 それでも、まったく応答がない状態が続けば、次第に人は減っていくもの。

 放課後とはいえ、神龍学園は学業レベルも高く、真面目な生徒が多い。

 いつまでも無駄な抗議に時間を裂いて、部活や勉強に支障をきたしてはいけないと考えたのだろう。


 それにしても……。


「会長……どうしちゃったんですか? 顔が赤いですよ? それに、息も荒いみたいですし。そんなに興奮するほど、ムキになることはないじゃないですか」


 僕のぼやき声に、会長の口からこぼれ落ちた言葉は……。


「すまない……どうも、熱が出てしまったようだ」

「え……?」


 驚いて会長の顔をのぞき込む。

 なるほど、顔が赤いのも息が荒いのも、確かにそう考えれば納得がいく。

 それに、会議テーブルに両ひじを着き、頭を抱えるようにしてパイプ椅子に座っている会長は、かなり苦しそうだった。


「だ……大丈夫ですか!?」


 椅子から立ち上がり、会議テーブルの反対側、会長の傍らへと駆け寄る。


「朝からぼーっとしてしまっていてな」

「つらいなら、休めばよかったのに……」


 無理して登校しなければほど、生徒会長というのは大変な仕事なのか。

 否。普段の会長を見る限り、そんなことはないと断言できる。

 でも、会長は僕のつぶやきに異論を返してきた。


「いや、風邪などではないと思う。熱の原因は、昨晩ずっと考え込んでいたからだろう」


 ずっと考え込んでいた……?

 それじゃあ、知恵熱?

 ……って、意外に優秀な会長だから、そんなわけないか。


「なにを考え込んでいたんですか?」

「それは……」


 会長はなぜか言葉に詰まり、僕の顔をじっと見つめる。

 やがて、顔を真っ赤にして視線を逸らした。

 汗がだらだらと流れている。

 熱があると言っているのだから、こんなふうに質問攻めなんてしていてはダメか。


「会長、寝ましょう」

「な……っ!? 除夜、お前、私と……」


 僕の提案に、会長はなぜだか焦りまくっている様子。

 あれ? なにか、言い方がおかしかったかな?


「会長って、ここに泊まることも多いんですよね? 毛布くらいあると思いますけど、どこですか? とりあえずソファーで横になってください」


 よくはわからなかったものの、とりあえず詳しく言い直してみると、会長は明らかに肩を落とす。


「……そうか、そうだよな。体調の悪い私を心配して言っているんだな。それはそうだ。当たり前だ……」


 いったいどうしたというのだろう?

 寝不足で熱が出て苦しい状態のようだから、思考回路も麻痺してしまっているのかもしれない。


「今はゆっくり休んでください」


 ソファーに毛布をかけ、会長の寝床を準備しながら優しく諭す。

 枕はないけど、どうしようかな?


「……すまない。お言葉に甘えて、少々横になるとしよう」

「はい」


 会長は意外なほど素直に従ってくれた。


「え~っと、枕がないですけど……う~ん、ひざ枕でもしましょうか?」


 僕の冗談で、会長の顔がいっそう真っ赤に変色する。


「べ……べつに、そんなのはいらん! お前も、せっかくだから少し休んでおけ。……あっ、だが、こっちは向くなよ? 私の寝顔を勝手にのぞくのは禁止だ!」

「はいはい、わかりました」


 少しは会長らしさが戻ってきたかな?

 そう思えて、ちょっと安堵する。


「そうだ、会長。目が覚めたら、恋愛禁止宣言とか、撤回したほうがいいですよ? きっと熱のせいでおかしくなっていたんですよ。それが理由になると思いますから、ちゃんと全校生徒に向けてそう言ってください。でも一応、謝罪の言葉くらいは添えてくださいね?」

「……ああ、わかった」


 僕の提案を素直に受け入れる会長。


「だが……」


 だけど会長は、弱々しいか細い声で言葉を続けた。


「私は、何人かの生徒を投げ飛ばしてしまった……」


 なるほど。会長はさっきの暴走で実際に暴力を振るってしまったことを反省し、自己嫌悪に陥っているのだ。

 会長らしくない、とは思うけど……。

 会長だって、僕よりたったひとつ年上なだけの、ひとりの女子生徒に過ぎないということか。

 熱のせい、という要因が強いだろうから、明日になったらけろっとして、またいつもどおりの会長に戻っているとは思うけど。


「安心してください、大丈夫ですよ。さっき、ちまきからメールが来ました。ちまきは頑丈だから平気だったみたいだし、他の生徒たちも、保健室に行った人はいたようですが、軽い打ち身やすり傷なんかがある程度だそうです」


 努めて優しい口調で、僕はそう告げる。


「……そうか」


 会長の安堵の吐息が、椅子に戻った僕の耳にも聞こえてきた。


「さあ、もう寝てください。早く治して規則の撤回をしなきゃならないんですから」

「うむ、わかった……」


 肯定の返事は、すでに眠りの中へと消えかけ、ほとんど聞き取れないくらいだった。

 それにしても、素直な会長っていうのは、なかなか新鮮でよかったな。

 僕はそんなことを考えながら、机に突っ伏す。

 眠気というのは感染してしまうものなのだろうか、数分も経たないうちに、僕も一緒に眠りの淵へと落ちていった。


 目が覚めると、生徒会室の窓から差し込む朝日が迎えてくれた。

 ……どうやら僕は、会長とふたりきりという状況で、初めての生徒会室でのお泊りを経験してしまったようだ。



 ☆☆☆☆☆



 会長は目を覚ますなり、元気いっぱいにおはようの挨拶を飛ばしてきた。

 寝覚めからしっかり頭が働いている。会長は低血圧ではないらしい。

 どうやら、すっかり体調もよくなっているみたいで、僕は安心した。


 主に自分用ではあるけど、眠気覚ましのコーヒーをふたり分用意し、しばらくゆったりとくつろぐ。

 時間はまだ早朝。朝練のあるような運動部の生徒以外、学園には来ていないだろう。

 全然気がつかなかったけど、エアコムにはちまきからたくさんのメールが届いていた。


「保健室で念のため少し休んでたけど、もう大丈夫だから帰るよ。一緒に帰らない?」

「どうして返信してくれないの?」

「ちょっと無視しないでよ!」

「除夜ちゃん、どうしちゃったの? いつもならすぐに返信してくれるのに」

「……あとでおしおき決定ね。じゃ、ひとりで寂しく帰ります。さようなら」

「家に着いたよ。まだ帰ってないのね」

「……こんな遅い時間でも帰ってこないなんて……」

「おはよう。ところで、おばさんに聞いたけど、昨日は帰ってこなかったんだって?」


 う……うわぁ……!


 とりあえず、フォローのメールを入れておく。

 僕だと嘘なんかついても簡単にバレてしまうため、会長が熱を出して休んでて、僕も疲れて寝てしまって、気がついたら朝になっていたんだと、素直に事実を書いて送ったのだけど。

 果たして真実が曲解なく伝わってくれるか……。

 これはもう、祈るしかないな。


 さて、これも大変ではあったけど、もうひとつ、やらなければならないことがある。

 恋愛禁止宣言の撤回だ。


 ともあれ、そちらは会長任せ。昨日のことを会長もしっかりと覚えていてくれて、問題なく準備は進んだ。

 全校掲示板に臨時ニュースを配信。

 熱のせいだったという理由を説明した上で、恋愛禁止宣言の撤回を宣言、動画も添付して、会長は謝罪の言葉とともに全校生徒に向けて頭を下げた。


「やっぱり! 会長はあんなことをするような人じゃないって、信じてました!」

「そうそう。昨日は驚いたけど、熱のせいだったんですね!」

「生徒のみんなが喜ぶようなイベントを開催したりすることこそ、サクラン会長の真髄ってものですからね! これからも期待してます!」


 ニュースのコメント欄には、生徒たちからのそんな言葉がたくさん寄せられた。

 こうしてすぐに受け入れてもらえたのは、会長の人望が厚いことの証だろう。

 楽しければいいというだけでなく、会長の内面に潜む温かさを、この学園の生徒たちもみんな感じているのだ。


 なお、撤回されたのは恋愛禁止宣言のみ。

 生徒会室への出入りについては、生徒会としての仕事もあるため関係者以外禁止のままとされた。


 ただ、その生徒会関係者として、ちまき、菱餅先輩、心見先輩の三名を加えるということも、臨時ニュースとして同時に報告されたのだった。



 ★★★★★



 東京都知事が緊急会見を開き、全世界に対して驚きの声明を発表した。

 我が東京都は、日本から独立してひとつの国となることを、今ここに宣言する!


 次回、第十一話、えっ? 東京国建国!?


 ……僕たちの学園は、そして日本は、どうなってしまうのだろうか?


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