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体育館から出て生徒会室へと戻ってきた会長と僕。
会長は苛立ちを隠せないのか、息も荒く、顔も赤いまま。
勢いよく閉められたドア。僕はカギをかけてから、すでに席に着いていた会長の正面に座る。
「会長……」
僕の声に、返事はない。
特別教室棟の片隅に位置する生徒会室。基本的に、周囲の雑音はほとんどない。
僕と会長が押し黙っている状態では、響くのは時計が時を刻む音くらいだった。
だけどすぐに、その静寂は破られた。
ドンドンドン!
激しくドアが叩かれる。
「会長さん! 開けてください!」
「そうだじょ! お姉様、開けるのだ!」
「……桜蘭、ドアを開けて美しい姿を拝見させてほしい……。開けなくても、透視は可能だが……」
ちまきに菱餅先輩、心見先輩の三人だ。
あまりにもすごい勢いで、ドアを開けるのが怖いほど。
……心見先輩の発言は、違った意味で怖いけど。
「あんな規則を強要するなんて、横暴です!」
「ふん。なんとでも言え!」
だんまりを決め込むかと思った会長だったけど、ちまきの怒鳴り声に負けないくらいの大声を返していた。
ただ……。
反応がある。
それがわかったことで、会長に対する不満や怒りがさらに激しく飛び交う結果となった。
「どうしてそんな、意地悪するんですか!?」
「ひーちゃんは、お姉様に会いたいじょ! というか、抱きつきたいじょ!」
「……我も桜蘭を隅々までじっくり見つめたい……。近づいて匂いを嗅ぎまくりたい……」
「意地悪ではない! お前らが騒がしいから、入れたくないんだ! 浄太郎に至っては、犯罪性すら感じるぞ!?」
心見先輩に対する意見には激しく同意するけど、僕から見ても、今回の会長の行動は意地悪のように思えてしまっているのが現状だったりする。
恋愛禁止に関しては、全校生徒に対する意地悪というか、嫌がらせにしかならないだろう。
それに、ちまきたちの入室禁止だって、僕にはちょっと不可解だった。
これまで、会長は自分が生徒会室にいるあいだ、カギをかけたことなんて全然なかったのだから。
確かにいつも、ちまきたちに対して「出ていけ」とか、よく言ってはいたけど、そう思うなら最初からカギをかけておけばいいだけなのだ。
それなのにカギを開けていたのは、バカ騒ぎといった感じになるだけとはいえ、ちまきたちの存在をある意味認めているからだと思っていた。
ちまきたちと騒がしく言い争いをしている時間も、決して嫌なわけじゃなく、むしろ楽しく感じているのではないかと、僕は想像していた。
それなのに……。
「とりあえず、話し合いましょう? 開けるだけ開けてくださいよ!」
「ダメだ。ここは私の生徒会室だ!」
ちまきが口調を若干緩め、お願いする作戦に切り替えてきたようだったけど、会長の反応は変わらない。
そんな言い争いをしているうちに、ちまきたちのいる生徒会室の外の廊下が、さらに騒がしくなってきた。
「サクラン会長! 恋愛禁止は撤回してください!」
「そうです! 私たちには、自由に恋愛する権利があるんです! ……私には相手なんて、いないけど……」
「ちょっと美紀、いじけてないの。……ともかく、私たちは断固、抵抗しますから!」
どうやら、他の生徒たちも続々と駆けつけてきているようだ。
「だいたい、生徒会長ひとりがなんでも決められるっていう、この学園の方針自体が間違ってるのよ!」
そんな言葉まで聞こえてくる。
でもそのわりに、さっき会長が言っていたようにデュエルを申し込んで会長を引きずり下ろそうとまでしている人は、不思議といないみたいだった。
とはいえ、生徒たちの声はすでに、騒音公害レベルにまで達している。ドア越しでも耳が痛いくらいだ。
会長は、どうするつもりだろう?
僕がじっと見つめる中、会長は席を立ち、ドアへと歩み寄っていった。
そのままカギを開けると、勢いよくドアを引く。
あっ、開いた。といった顔で、呆然と会長を見つめるちまきたちの姿が見えた。
「うるさいぞ! それに、この学園の方針を悪く言うのは、生徒会長である私が許さない!」
凛とした張りのある声に、周囲は静まり返る。
だけどそれも一瞬のこと。
生徒たちはようやく現れたターゲットを確認し、すぐに非道な規則に対する不満を叫び始める。
学園の方針うんぬんはともかく、さっき全校集会で述べた恋愛禁止の規則は、どうしても撤回してもらいたいのだろう。
「うるさいと言っている!」
これ以上ないほどの大声を飛ばし、会長は力ずくでねじ伏せる構えを見せた。
実際に手近にいる生徒たちを引っつかみ、投げ飛ばし始めたのだ!
「うわっ!?」
いきなりの暴力に、そして会長の意外な怪力に、生徒たちは慌てふためく。
投げ飛ばされた中には、ちまきも含まれていた。
廊下に倒れるちまきに菱餅先輩が駆け寄り、「大丈夫かに!?」と心配そうに声をかけている。
今でも反発は多いけど、先日のデュエルで一度共謀してから、ちまきと菱餅先輩は随分と仲よくなっているようだ。
「ちょ……ちょっと、あまりにもひどいんじゃない!?」
「そうだそうだ!」
生徒たちから非難の嵐を浴びる会長。
「黙れ! 私は生徒会長としてやることがたくさんあるのだ! 邪魔をするな!」
怒りのせいか真っ赤な顔の会長は、叩きつけるようにドアを閉めると、再びカギをかけた。
ドンドンドンドン!
激しくドアが叩かれる音の響く中、会長は席に戻る。
「……これでいいんですか?」
「いいのだ! 私が正義だ! この学園のルールなのだ!」
会長は僕の問いかけに、荒い息を吐き出しながらそう断言した。