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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第十話 華神サクランの暴走!
38/48

-2-

 翌日。

 ギャラクシーネットの神龍学園全校掲示板に、重要度の高いニュースが流された。


 緊急時の場合、強制的にエアウィンドウが表示されることもある。

 エアコムは、そういった臨時ニュースの配信も可能なシステムになっているのだけど。

 通常の学園ニュースに関しては、この掲示板を各生徒が自ら見に行く必要がある。

 とはいえ、ウィンドウを開いてワンタッチで簡単に確認可能になっているため、大抵の生徒は、登校する前にチェックしているはずだ。


 学園関連の項目には、その日の時間割のデータもあり、予定している授業内容なども記載される。

 それ以外に、先生の体調不良などによって自習になる授業の連絡なんかもあるため、生徒たちは必然的に学園のトップページを見に行くことになる。

 そのページの一部に、「掲示板に重要度の高いニュースがあります」と真っ赤な強調文字で表示されているわけだから、この学園の生徒であれば、とりあえずは確認するだろう。


 さて、そのニュースはいったいどんなものか。

 エアコムを操作して表示してみると、それは「本日の放課後、体育館にて臨時の全校集会を行う」といった内容だった。

 配信者の欄には、『華神桜蘭』の文字がある。つまり、生徒会長が配信したニュースということだ。


「会長、これはいったい、どういうことですか?」


 登校していつものごとく生徒会室に入った僕は、当然ながら会長に問いかけてみた。

 補佐である僕が、まったく聞いていない話だったからだ。

 だけど、会長は澄ました顔のまま、


「全校集会に出ればわかる」


 と答えるだけで、その内容については一切、語ってくれなかった。


 会長はいったいなにを考えているのだろう?

 僕はどうしても気になってしまい、エアコムで受ける授業にも全然集中できなかった。


 ともあれ、集中しようがしまいが、時間とは勝手に過ぎ去ってゆくもので。

 あっという間に放課後、すなわち臨時全校集会が開かれる時刻となった。



 ☆☆☆☆☆



 体育館には、すでに生徒たちが集まっていた。

 普段なら生徒会室に押しかけてくるちまきたちも、全校集会ということで、今は体育館に足を運んでいるようだ。


 僕は今、会長の補佐という役割である関係上、ステージの脇に控えている。

 それでも、他の生徒たち同様、なにもわかっていない身。ただ不安だけが募る。

 会長がステージ上をスタスタと歩いていき、マイクの前に立つのを、僕は黙って見守ることしかできなかった。


 静まり返る体育館。

 全校生徒の視線が会長に集まる。

 コホン。軽く咳払い。

 そして会長は、マイクに向かって喋り始めた。


「生徒会長、華神桜蘭だ。今日の臨時集会は、新たな規則を報告するためのものである」


 ……新たな規則?


 生徒たちのあいだに、微かなざわめきが広がる。

 コホン。二度目の咳払い。

 再び体育館は静寂に包まれた。


「生徒会補佐の射干玉除夜は会長である私のものだ! 誰も手を出してはならない! また、生徒会室は会長と補佐のみが立ち入りを許された場所、部外者の入室は一切禁止する! なお、もしこの命令を破った者がいた場合、即刻退学とする!」

「それはおかしいです!」


 立ち上がって大声を上げたのは、ちまきだった。


「そうだそうだ! おかしいじょ、お姉様!」

「……桜蘭のそばに行けなくなるなんて、我にとっては死にも等しい……」


 菱餅先輩と心見先輩も猛反論。

 心見先輩の声は決して大きなものではなかったけど、地獄の底から響いてくるような重低音は、その恨みの念の強さを物語っているようだった。


 されど、明確に反撃してきたのは、以上三名のみ。

 他の生徒たちは、べつに僕のことなんてどうでもいいだろうし、生徒会室に入る用事もないだろうから、特別騒いだりはしていなかった。

 ……次の会長の言葉を聞くまでは。


「また、先日、校舎内でキスをしている生徒がいた。目障りだから……いや、学生の本分は学業だから、学園内での恋愛は前面禁止とする!」


 これにはさすがに生徒全員が猛反発。

 恋人がいる人だけではない。いない人にしてみても、恋愛自体を禁止されては、その可能性すらもなくなってしまう。


 だいたい、思いっきり本音がだだ漏れだった会長の宣言。そんな理由で恋愛を禁止されてはたまったものじゃない。

 ほとんどの生徒がそう考えただろう。


「サクラン会長が錯乱した!」


 誰かが叫ぶ。確かにそのとおりだと、僕も思った。

 暴走とも言えるかもしれない。


「そんな規則、絶対認めないわ!」

「そうだそうだ! いくら生徒会長の権限が先生方より上だとしても、断固として反対する!」

「ええ! みんなで一致団結して、拒否すべきよ!」


 全校生徒から文句の嵐をぶつけられながらも、会長は涼しい顔を崩さない。


「騒いだところで、規則はすでに決定した。私の決定はこの学園では絶対だ。生徒であるお前たちに拒否権はない!」

「そんなの横暴よ!」


 会長が力でねじ伏せようとするも、生徒たちの反乱は止まらない。


「補佐と会長は、恋愛関係じゃないのか?」


 ふと、誰かが口にした。

 その瞬間、どういうわけか会長の頬は真っ赤に染まっていた。


「そ……そんなわけないだろう!」


 焦っているのか上ずった声で否定するものの、当然ながら生徒たちを納得させることはできない。

 それでも会長は、さらに荒い言葉を続けて、自分の思いどおりに軌道修正を試みる。


「除夜は補佐として、私に尽くす義務がある、それだけだ!」

「除夜ちゃんはあたしのです! 幼馴染みの特権なんです!」


 よせばいいのに、ちまきが火に油を注ぐ。

 僕はちまきの所有物でもないのだけど……。


「うるさい! お前はとくに目障りなんだ! 幼馴染みなど、たまたま近くで生まれ育っただけではないか! そんなのは、今現在の距離とはまったく関係のない要素だ!」


 ちまきに煽られるように、会長の怒鳴り声はなにやら少々おかしな方向へと流れ始める。

 一方、他の生徒たちのざわめきも、留まることなく溢れ出していた。


 一生にたった三年間だけの高校生活。

 学生の本分は確かに勉強かもしれないけど、恋や部活や学校行事など、勉強以外の様々なことも経験した上で、おのおの成長していくものではなかろうか。


 それらの中でも、とくに重要な要素である恋愛を禁じられてしまうのは、充実した高校生活を望む生徒たちにとって死活問題だろう。

 成就するかしないかは問題ではない。

 たとえ片想いだったとしても、それは学生時代の甘酸っぱい思い出として、深く心に刻まれるものなのだから。


 ところが会長は、そんな生徒たちの思いなんて、まったくお構いなしといった様子。


「ともかく、これは生徒会長命令だ! この学園では生徒会長の決定は絶対。文句があるのなら、デュエルを申請して私を生徒会長の座から引きずり下ろすがいい! 私はいつでも受けて立つぞ?」


 会長は自信満々にきっぱりと言い放つ。

 ……そのデュエルで戦わされるのは、結局、僕になるような気がするのだけど……。


「以上だ!」


 最後にひと言、会長の凛とした声がマイクを通して響く。

 ざわめきが一向に収まらない中、臨時の全校集会はこうして強制的に幕を閉じた。


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