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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第十話 華神サクランの暴走!
37/48

-1-

 いつもどおり、と言っていいだろうか、放課後の生徒会室にはお馴染みの面々が集まっていた。

 もちろん、僕と会長、ちまき、菱餅先輩、心見先輩の五人だ。


「お前らは、いつもいつも生徒会室に来て……。勝手に入るなと言っているだろう?」

「いいじゃないですか!」

「そうだそうだ~! お姉様、もうひーちゃんを受け入れてもいいと思うじょ!」


 ちまきの意見に乗っかった菱餅先輩が、どさくさ紛れに会長に抱きつく。


「こ……こら、菱餅! やめろ! というか、なぜ制服の中に手を滑り込ませてくる!?」

「お姉様の、ひーちゃんと違ってふかふかだから! 有効利用しないともったいないじょ!」

「なに、わけのわからないことを言っている!? というか、お前に触られるのが、どう有効利用になるというんだ!?」

「ひーちゃんの気持ちの問題♪ あと、あわよくば、ちょっと吸収したいかな~とかも!」


 なんだか、目のやり場に困る状況が展開されていた。


「……恨めしい……というか、羨ましい……」


 その様子を、羨ましそうに眺めている心見先輩。

 そしてさらに、どさくさに紛れる、ちまき。


「菱餅先輩は会長さんとラブラブね! それじゃあ、あたしはこっち♪」


 などと言いながら、僕に腕を絡めてくる。


「除夜は私の補佐だ! お前はくっつくな!」


 菱餅先輩に抱きつかれ、身動きの取れない会長ではあったものの、ちまきに対しての怒声だけはしっかりと飛ばしてくる。


「どうしてですか!?」

「どうしてもだ!」


 いつもの言い争いへと発展すると、会長はひときわ大きな声を張り上げ、その勢いで菱餅先輩を振り払う。

 そのまま僕の空いていたほうの腕に、これまたいつもどおり絡みついてきた。


 そうなると、その後の展開は言うまでもなく見えている。

 両腕をそれぞれ会長とちまきによって引っ張られた僕には、痛みに堪えながらふたりが飽きるのを待つ以外、成すすべはなかった。

 ただ、そこに厄介な相手、菱餅先輩がさらに絡んでくる。


「お姉様は、ひーちゃんのものだじょ!」


 そう叫びながら、負けてなるものかとばかりに、会長の腕を引っ張ったのだ。

 それにより、会長が引っ張っている僕の片腕にかかる力は増大。


「……射干玉除夜……許すまじ……」


 心見先輩は心見先輩で、怒りの形相を僕に向けていた。

 お願いだから、取り出した藁人形に僕の髪の毛を入れて五寸釘を打とうとしないでください……!


 なんだかんだで、どうしても騒がしくなってしまう、放課後のひと幕。

 と、そこで。

 不意にちまきが、今まで直接口にしたことのなかった質問を会長に対してぶつける。


「会長さん、もしかして除夜ちゃんのこと、好きなんですか!?」


 ピクッ。

 質問された会長だけでなく、菱餅先輩も心見先輩も、動きが止まった。

 口をつぐんで、会長の答えに耳を傾ける。


「どうなんですか!?」


 ちまきが急かす。


「い……いや、そんなことはない!」

「本当ですか? だったらどうして、あたしと除夜ちゃんの恋路を邪魔するんですか!?」

「ちょっと待ってよ! ちまきと僕の恋路って、いつそんな関係に――」

「会長さん、どうなんですか!? 答えてください!」


 僕の言葉は完全に無視され、会長が追い込まれていく。


「そ……それは……」


 だいたい会長も会長だ。

 僕を補佐として雑用係みたいにしか思っていないわけだから、はっきりとそう言えばいいのに。

 だけど会長は、なぜだか真っ赤になってうつむいてしまう。

 やがて。


「……帰るぞ!」


 そう言い捨てると、慌ててカバンをつかみ、生徒会室を飛び出してしまった。


「あ~、ごまかした~!」


 文句をこぼしつつ、ちまきもカバンをつかんで外へ。もちろん僕と菱餅先輩、心見先輩もそれに続く。

 生徒会室のカギは会長しか持っていないのだから、会長が帰ると言ったら、僕たちもこの部屋から出るしかないのだった。



 ☆☆☆☆☆



 下駄箱へと向かって廊下を歩く五人分の足音が響く。

 会長へのさっきの質問は結局うやむやになってしまったけど、ちまきもそれをとくに問い質したりはしていない。

 冷静になって考えてみて、自分でも恥ずかしいことを訊いてしまったと思い至ったのかもしれない。


 というか、恋路発言、あれはいったい……。

 僕にとってちまきは幼馴染みで、いつも一緒にいる家族同然の存在で、それはちまきにとっても同じはずで……。

 ぼーっと歩いている僕の耳に、そのちまきの声が届く。


「ここら辺、薄暗いですよね……」


 すでにさっきの一件は忘れ去っているのか、まったく別のことに意識が行っているようだった。

 でも、言われてみれば確かに、この廊下は暗い……。

 怖さもあってか、みんな思わず黙り込んでしまう。

 ただ上履きの足音が響くのみ。


 そんな中……。

 僕たちはふと、曲がり角の先にふたつの人影を発見する。

 一瞬、幽霊!? と他のみんなも思ったかもしれない。


 ともあれ、それはなんのことはない、この学園の生徒だった。

 薄暗い廊下にたたずむ、男子生徒と女子生徒のふたり……。


「あ……」


 思わず息を呑む。

 そのふたりが静かに近づき、そっと唇を重ねたからだ。

 呆然と立ち尽くしてしまう僕たち五人。


「あっ……」「きゃっ!」


 唇を離したふたりは、こちらの視線にようやく気づき、逃げように去っていってしまった。

 さっきまでとは明らか違う空気に包まれた沈黙――。

 しばらくして、ちまきが沈黙を打ち破り、つぶやきを漏らす。


「キス……してたわね……」

「うん、そうだね……」


 僕もそれに小さく答える。


「……学園内で……」

「まぁ、そういうヤツらもいるもんだじょ! お年頃なんだから!」


 心見先輩も驚き――というかドキドキを隠せないようだったけど。

 菱餅先輩の明るい声で、ハッと我に返る。


 そうそう。そういう人だっている。

 というか高校生なんだから、結構多いはずだ。

 単に僕たちが、そういったことに縁遠いだけで……。


 みんな納得したのだろう、下駄箱へと向けて再び歩き出す。

 いや……それはみんなではなかった。

 会長が足を止めたままだった。


「あれ? 会長、どうしました?」

「い……いや、なんでもない」


 僕が声をかけてようやく歩き出した会長ではあったものの、西日が差し込む場所ではないというのに、その顔は異常なほど赤く染め上げられているように見えた。

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