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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第九話 都知事の訪問、そして会長は……
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-2-

 バカ騒ぎしているだけではあっても、時間は刻一刻と過ぎてゆくもの。

 気づけば窓からは西日が差し込んでいた。


「ふむ。今日はこれで帰るとするか」

「いつものことですけど、生徒会としての仕事、全然しませんでしたね」

「ま、いいだろう。それだけ平穏な日々ということだ」


 平穏……なのかは、疑問符がつきそうだけど。

 ともかく僕たちは五人並んで廊下を歩き、それぞれの学年・クラスの下駄箱へと別れて靴に履き替えたのち、昇降口を出た辺りで再び合流する。

 なんだかんだと反発する部分はありながらも、結局途中までは一緒に帰ることになりそうだ。


「あれ? あの集団はなに?」


 ちまきが前方を指差しながら疑問の声を飛ばす。

 視線を上げてみれば、なにやら黒いスーツの集団が目に映った。

 全員サングラスをかけていて、なんだかとても怪しい雰囲気だ。


「学園長もいるな」


 会長の言葉どおり、その集団の中には学園長の姿も見える。

 そしてその隣にもうひとり、学園長と比べるとかなり年上と思しき、ヒゲを生やした男性が並んでいた。

 ヒゲの男性は周りの集団と同様サングラスをかけ、濃いグレーのスーツを身にまとっている。


「あのグレーのスーツの人、どこかで見たことない?」

「うん、僕もそう思ってた」


 ちまきの言葉に肯定すると、他の三人もそれぞれ頷く。


「あれは、東京都知事の国分寺忠翁だな」


 会長が静かに疑問の答えを示す。


「ああ、確かにそうですね。ニュースとかで何度も見たことがあります」

「だけど、どうしてここにいるんじゃろ?」


 疑問を口にする菱餅先輩に答えたのは、今度はちまきのほうだった。


「菱餅先輩、あんたバカ? 都知事は学園長のお父さんなんですよ!」


 仮にも先輩に対して、完全に上から目線で見下したように言い放つちまき。

 いつもながらの怖いもの知らず。菱餅先輩だったら、まぁ、怒らせてもさほど害はないと思うけど。

 この勢いだと、学園長や都知事にさえ平気で失礼なことを言いかねない。

 近寄らせないように注意しておこう……。


 僕がそう思っていたところなのに、会長は淡々とした口調で、


「生徒会長として、挨拶しに行っておくべきだろう」


 と言ったかと思うと、学園長と都知事のほうへ向かって、さっさと歩き出していた。


「会長! 勝手に近づいていいんですか? 周りにいるのって、SPですよね?」


 ただでさえ怪しい僕たち五人。

 いきなり近づいていったら、問答無用で射殺……は、日本だからないと思うけど、取り押さえられてしまう結果になるのでは……。


「大丈夫だ。私には都知事との面識もある」


 心配する僕に、会長はそう断言した。やはり淡々とした口調で。

 ただ、その視線はずっと、前方――学園長と都知事のほうを向いたままだった。


 会長、緊張してるのかな?


 その僕の考えは間違いだったわけだけど。

 それがわかったのは、しばらく日にちが経ったあとのことだった。


 ともかく、会長は黙ったまま、都知事のいる集団へと近づいていく。

 僕もそれを追い、ちまきたち三人も戸惑いながら続いてくる。


 真っ先に気づいたのは、黒いスーツの集団だった。

 ザッとフォーメーションを切り替えるように、大勢の男たちが綺麗にそれぞれの役割に従って動く。


 都知事と僕たちのあいだに壁となるように割り込む者、都知事のそばに寄り注意を促す者、不審者である僕たちのほうに駆け寄ってくる者。

 決められた役割どおりの統率の取れた動き。これが、プロというものか。


 なんて感心している場合じゃない!

 焦りを隠せない僕を、会長はそっと手で制する。


「私はこの神龍学園の生徒会長、華神桜蘭だ」


 すでにSPたちによって完全包囲されている中、会長は落ち着き払った態度で凛とした声を響かせた。

 ざわっ。

 一瞬互いに声をかけ合い、どうするか思案するSPたち。そこへもうひとり、別の人物が割り込んでくる。


「下がっていいぞ。ワシに用のある客人のようだ」


 そう言いながらSPたちの列を押しのけるように歩み出てきたグレースーツの男性。

 東京都知事である国分寺忠翁、その人だった。

 わずかに遅れて、すぐ横に学園長も並ぶ。


「お目にかかるのは初めてだったね、生徒会長の華神桜蘭くん。キミの噂はかねがね聞いているよ」


 都知事は穏やかな表情で右手を伸ばしてきた。

 会長も素直に右手を差し出し、握手を交わす。


「初めまして、都知事。神龍学園に、ようこそいらっしゃいました」


 恭しく頭を下げ、歓迎の言葉を送る会長。

 対外的な対応はしっかりできるようだ。とりあえず、ほっとする。


「ところで桜蘭くん。どうだね? この学園のトップとして、支配できる立場は」


 突然の質問。

 僕は都知事の言葉になんとなく嫌悪感を覚える。

 でも会長は大人だった。


「べつに支配しているなどと考えてはいませんが。……悪くはないですね」

「ふっふっふ、そうだろうそうだろう」


 思いどおりの返答に、都知事は笑みをこぼす。

 だけど、


「……楽ですし」

「そ、そうか……」


 続けられた会長の本音に、少々戸惑いを見せていた。


「ま……まぁ、今後も頑張ってくれたまえ」

「はい。言われなくても、そのつもりです」


 なんだかちょっと失礼な物言い。

 さっき僕が受けた嫌悪感を、会長も同じように捉えていたということだろうか?

 会長らしいといえばらしいのだけど、なにか違うような気もする。


 周囲に流れる、張り詰めたピリピリムード。

 もしかしたら都知事を怒らせて、SPたちに取り押さえられ、僕たち全員、連れ去られてひどいことになってしまうのでは。

 そんな不安すら頭をよぎる。


 ちまきたちは雰囲気に呑まれ、喋るどころか、身動きひとつできない。

 学園長も黙ったままだ。

 それでもそばにいてくれているのは、会長がなにか失礼なことをしでかしたら、フォローするつもりがあるからだとは思うのだけど……。


「ふっ……。なかなか肝の座ったお嬢さんだな。優秀な生徒会長のようで、なによりだ。はーっはっはっは!」


 都知事は、いきなり大笑いを始めた。

 どうやら、僕の心配は杞憂に終わったようだ。


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