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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第八話 菱餅の挑戦、再び!
31/48

-3-

 デュエル当日の放課後。僕はいつものように会長と生徒会室にいた。


「こんちわ~っす!」


 突然、なんだかやけに明るい声を伴って、ちまきが生徒会室へと入ってくる。


「あっ、ちまき。ここに来るのは、ちょっと久しぶりだね」

「うん……えっと、寂しかった?」

「え? べつに……」

「…………」


 いきなり不機嫌にさせてしまったようだ。


「そ……それより、今日はどうしたの?」

「部外者が勝手に入ってきては困るのだが」


 ちまきの機嫌がこれ以上悪くならないようにと、話題を逸らす作戦に出た僕だけど、会長が横から会話に割り込んできた。

 なんというか、会長も少々不機嫌な様子。

 六時半からデュエルがあるわけだし、気分的に張り詰めているだけかもしれないけど。……って、そんな繊細な人でもないか。

 ともかく、その会長の言葉で、ちまきの機嫌はよりいっそう悪くなってしまった。


「いいじゃないですか、少しくらい! それに今日は、除夜ちゃんに大切な用事があるんです!」


 会長を睨みつけた上、言葉でも噛みつくちまき。いつもにも増して強気だ。

 相手が先輩であり生徒会長であっても関係なし。……と、それはいつものことか。


「ですから除夜ちゃんを借りていきます! いつも除夜ちゃんを独り占めしてるんですから、それくらいいいですよね?」


 普段から強気ではあるけど、今日のちまきからは、なんだか気合いのようなものまで感じる。

 その勢いに圧されたのだろうか、会長は素直に頷く。


「ああ……わかった。だが、今日の夕方にはデュエルがある。それまでに返してくれよ?」


 ニュアンス的に「帰して」ではなく「返して」なのが、物扱いされているのを物語っている。


「わかってますよ。それじゃあ、除夜ちゃん、ちょっとついてきて」

「うん、わかった」


 大切な用事ってなんだろう?

 そう思いながらも、僕は頷く。とりあえず、ついていけばわかるはずだ。


「それじゃあ、行ってきます」

「ああ」


 僕はこうして、生徒会室から連れ出された。



 ☆☆☆☆☆



 ちまきは、黙って僕の前を歩く。どうやら下駄箱に向かっているようだ。

 とすると、目的地は外。

 でも、外は雨が降っているようだった。薄暗いとは思っていたけど、いつの間に降り出したのだろうか。


 考えてみたら、僕は傘を持ってきていない。

 天気予報では降水確率が低かったのに……。ちまきも見る限り、傘を持っているようには思えなかった。


 ちまきはひと言も喋ることなく、黙々と靴に履き替え、出口へと歩いていく。僕もそれに続く。

 雨の勢いは思った以上に激しい。

 そんなことはお構いなしに、ちまきはそのまま外へと身を躍らせた。

 雨粒が容赦なくちまきの全身を襲う。


「ちまき、濡れちゃうよ? 僕も傘は持ってきてないけど、なにか代わりのものとか、誰かに借りるとか……」

「いいから、早くついてきて」


 問答無用でピシャリと僕の言葉を遮る。

 逆らったらあとが怖い。それは幼馴染みで長いつき合いの僕にはよくわかっている。ここは素直に従うしかない。

 黙って歩き出すちまきを追いかけ、僕も雨の中に飛び出した。



 ☆☆☆☆☆



 ちまきの目的地は、校庭の一角にある体育倉庫だった。

 雨が激しいためか、校庭には部活動をしている生徒の姿もほとんど見当たらない。


「ねえ、ちまき。こんなところに連れてきて、どうしたの? それに、雨に濡れて寒くない? 僕、寒いんだけど……」

「いいから、入ってきて」

「うん……それじゃあ、お邪魔します……」


 体育倉庫に入るだけなのに、なんとなくそんな言葉をこぼしながら、ちまきの背中を追う。

 微かにカビ臭い体育倉庫。

 雨雲が空を覆い尽くしているため、薄暗いを通り越して、かなりの暗さと言ってもいい。

 その体育倉庫の一番奥まで歩み進んだちまきは、ゆっくりと僕のほうへと振り向いた。


 激しい雨に濡れながら、この体育倉庫まで来た僕たち。

 僕はまぁいいとして、ちまきはこれでも一応女の子なのだから、問題があるんじゃないだろうか?

 暗いからよく見えはしないけど、ブレザーの下のブラウスだって濡れているに違いない。とすると、下着が透けていたりとかも……。

 僕のほうは、ちまきが相手ならべつに変な気分になんてならないと思うけど、ちまきは恥ずかしくないのかな……。


 と、そのとき。

 金属製のドアが大きな音を立てる。

 スライドさせるタイプのそのドアが、突然、閉まったのだ。


「あっ……!」


 僕は振り返ってドアのほうに視線を向ける。

 ドアは完全に閉まっていた。

 さらにはガチャガチャと音がして、続けて足音が響く。

 足音は雨の中だというのに駆け足で遠ざかっていたようだった。


 あまりにも唐突で、しかも一瞬のことだったため、すぐに反応できなかったけど。

 これってもしかして……。


 僕は今さらながらにドアまで駆け寄り、横に引いて開けようと試みる。

 思ったとおり、びくともしない。

 カギをかけられ、体育倉庫の中に閉じ込められてしまったのだ!


 倉庫の奥には明り取りの窓があるものの、高い位置にある上、サイズ的にも小さいため、人が出入りできるような余裕はない。

 真っ暗ではないにしても、いっそう暗くなってしまった体育倉庫内。

 そこに今、僕とちまきは、ふたりきりで閉じ込められてしまった。


「そうだ、エアコムで会長に連絡すれば……」


 僕はエアコムのウィンドウを開く。

 だけど……。


「え? 電波停止中???」


 どういうことだろう?

 そんな連絡、なかったと思うけど……。


 エアコムは現在、生活にも直結しているツールとなっている。

 そのため、ギャラクシーのシステム側でメンテナンスする場合などには、問題にならないよう機能ごとに行われるし、一週間以上前に告知することも徹底されているはずだ。

 僕はそんな告知なんて、まったく聞いていなかった。それなのに、停止中だなんて。


 いったいこれは、どうなっているのだろうか……?


「ちまき、どうしよう?」


 慌てている僕とは対照的に、ちまきは落ち着いていた。

 いつもだったら、僕より先にパニックになっていてもおかしくないのに。


「除夜ちゃん……。ゆっくり、お話できるよ」


 慌てても仕方がない。そう言いたいのだろう。

 ちまきの穏やかな口調で、僕も少しは頭を冷やすことができた。


「……そういえば、最近はあまり話してなかったね」


 こちらから連絡できなくたって、きっと会長が探してくれるはずだ。今日はデュエルも予定されているのだから。

 せっかくだから今は、久しぶりに訪れたふたりきりでの会話の時間を大切にしよう。

 僕はそう考えた。


 畳まれた状態で置いてあったマットに、僕は腰を下ろす。

 そのすぐ横に、ちまきも座った。


「最近のちまき、朝一緒に登校してても、ほとんど喋らないよね。下校のときは、いないことも多いし」


 そう言うと、ちまきは彼女らしくなく、両手を体の前辺りで組んで、なんだかもじもじし始めた。


「それは……その……」

「どうしたの?」


 恥ずかしがっているのはわかった。

 とはいえ、不思議とそれほど嫌がっているようにも思えなかった。

 それならばと、僕はしつこく聞き出してみることにしたのだけど。

 ちまきは意外とあっさり白状してくれた。


「実はね、会長さんのことでイライラして、食べ過ぎちゃったの。おなかがポッコリだったのよ……。だからダイエット成功するまで、おなかを見られたくなかったの。まだ完全にダイエットできてはいないけど……」

「そうだったんだ……。でも、ここ数日はちょっとご無沙汰だったけど、生徒会室には結構顔を出したりしてたよね?」

「そ……そりゃあ、少しだけでもいいから除夜ちゃんには会いたいし……」(ぼそぼそ)


 僕の質問に、ちまきはなにやらぼそぼそと小声で言い始めた。

 よく聞こえなかったけど……。


「え? なに?」

「いや、えっと、その、生徒会室なら椅子に座っちゃえば、おなかを見られたりしないから! だからよ、うん!」

「ふ~ん? そんなの気にすることないのに」

「除夜ちゃん……」


 頬を染めるちまき。

 そして……。


「あ……雨に濡れたから……制服、脱ぐわね……」

「え……ええええっ!? いきなり、なに言ってるの!? 露出狂!?」

「ちゃうわ! と……とにかく、脱ぐから……。あ……でも、こっちは見ないでね……」

「うん……」


 しゅるしゅると衣擦れの音が暗い体育倉庫に響く。

 その音を聞く限り、どうやらブレザーだけではなく、下に着ているブラウスも、さらにはスカートまでも脱いでいるように思えた。


 ……ってことは、今のちまきってもしかして、下着姿……?


 衣擦れの音が聞こえなくなると、今度は、ぴちゃっ、とか、ぴちゅっ、とか、そういった感じの水音が微かに響き始めた。

 体育倉庫の雨漏りの音……というわけではない。


 音は僕のすぐそばから聞こえていた。

 暗くてよくは見えないけど、ちまきの癖が出て、ひと房だけ伸ばしている前髪をくわえて吸っている音なのだろう。


 暗がりでぴちゃぴちゃと音がしているのは、なんだかちょっと、エロいかも……。

 下着姿と思われるちまきがすぐ横にいるという状況も相まってか、僕は必要以上に意識してしまう。

 外の雨音が、やけに大きく響く。


「寒い……」

「そりゃ、脱いだのなら当たり前……」

「人肌で、温めて……」

「え……ええええっ!?」

「暖を取るには、それが一番いいのよ……」

「いや、そうかもしれないけど……。それだと、その……僕も脱いだほうが、いいのかな……?」

「エッチ……」

「あ、で、でも、それは恥ずかしいから、やめておこう!」

「うん……」


 暗いからお互いの顔なんて見えない。

 だけど、おそらく僕もちまきも、茹でダコよりも真っ赤になっているに違いない。


 ドキドキと脈打つ鼓動は、僕のものか、それともすぐそばに寄り添うちまきのものか。

 なんだかもう、頭もぼーっとしてきて、なにも考えられない。

 ちまきのほのかな甘い匂いに包まれながら、僕たちふたりはマットの上に倒れ込んだ。


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