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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第八話 菱餅の挑戦、再び!
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-1-

 このところ、ちまきの様子が少しおかしい。


 幼馴染みで小さな頃からずっとしつこくつきまとってきた、あのちまきが。

 最近は生徒会室にいることが多いせいで、一緒にいる時間が減ったのは事実だけど。

 それだけじゃなく、放課後になって生徒会室に押しかけてくる頻度も少し減ったような気がする。

 生徒会室に来たとしても、先に帰ってしまったり……。


 家が隣同士だから朝は一緒に登校しているけど、並んで歩いていても、あまり話しかけてこない。

 もともと僕は聞き役に徹することが多い身。だから黙って静かに歩いて登校、そして下駄箱で上履きに履き替えたら軽く挨拶だけして別れる。

 そんな日々が続いていた。


 帰り道でも、なるべく一緒に帰ろうとしていた入学当初とは違って、会長とふたりだけの場合が増えている。

 そうなると、会長の家は方向が違うため、途中からはたったひとりでの帰路となってしまう。


 今日は会長が早めに補佐の仕事から解放してくれたおかげで、まだ明るい時間だった。

 夕焼けのオレンジ色がやけに目に染みる。

 カラスの鳴き声がやけに心に染みる。

 前にも同じように思ったことがあるけど、やっぱりちょっと、寂しい。


 僕にとって、ちまきっていったい、どういう存在なのだろう?

 単なるお隣さんで幼馴染みの女の子……?

 それだけではないだろう。


 ずっと同じ学校に通うクラスメイトの女の子……?

 これだけでもない。


 しつこくつきまとってくる、うるさいだけの女の子……?

 いや、それは違うな……。

 なぜなら僕は、ちまきがベタベタくっついてくるのを嫌だなんて思っていないのだから。


 だとしたら……。

 恋しい人……?

 ん~、それもなにか違うような……。


 これまで、僕はずっとちまきと一緒だったからなのか、恋なんてしたことがなかった。

 僕が女の子のほうを見ていたり仲よく喋っていたりすると、ちまきが怒り出してしまうため、ちまき以外の女の子と長い時間一緒にいるなんて、この学園に入学するまで一度もなかったっけ。

 今は会長と一緒の時間が長いけど、補佐としての務めで強制収容みたいなものだし、色恋沙汰とは無縁だ。


「除夜ちゃんは、あたしのものよ!」


 会長との言い争いで、ちまきはよくそんなことを言っている。

 ちまきにとっての僕は、単なる所有物なのだろう。

 幼い頃からずっと一緒にいたことで、ちょっと気弱な僕を弟のように感じて、守ろうとしてくれているのかもしれない。


 それじゃあ……。

 僕にとって、ちまきっていったい、どういう存在なのだろう?


 姉のような存在というのとは、また違う気がする。

 いくら自問しても、正しい答えは導き出せそうもなかった。



 ☆☆☆☆☆



 そんなある日の昼休み。

 僕は会長とともに、学食へと向かっていた。


 ほとんどの時間を生徒会室で過ごしている僕たちだけど、移動教室の授業や体育などの他、こうして食事のために出歩くことだってある。

 昼休みの雑然とした騒がしい廊下を歩いていた、ちょうどそのとき。

 不意に聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。


 それは、ちまきの声だった。

 周りの喧騒と比べたら、とても小さい声ではあった。

 それでも、幼馴染みでほとんどずっと一緒に過ごしてきた僕には、一瞬で聞き分けられる能力が備わっているらしい。


「ん? どうした?」

「いえ……今、ちまきの声が……。あっ、いた」


 僕がきょろきょろと見回すと、なぜか階段下の薄暗いスペースという、普段ならほとんど人が立ち入らない場所に、ちまきの姿を発見することができた。

 ちまきがいるのは、階段は廊下から少し奥まった位置にあり、その階段のさらに奥側の寂れた空間。誰かがそこにいるなんて、普通ならば考えつかないような場所だ。

 耳に馴染んだ声に気づいていなければ、僕にだって見つけられなかったに違いない。


 ちまきはそこで誰かと話しているようだった。

 相手が男子生徒だったりしたら、ちょっとだけショックかもしれないところだけど。

 ……あれ? でも、どうしてショックだと思うのだろう?


「もうひとりは、菱餅だな」


 思考が別のほうに飛びかけていたのを、会長の声が引き戻す。

 そう。

 ちまきと話している相手は、その言葉どおり、菱餅先輩だった。


「どうしてこんなところで、しかも小声でひそひそと話してるんでしょうか……?」

「まぁ、どうでもいいだろう」


 会長はまったく興味がないらしく、ピシャリと言い捨てる。


「……菱餅先輩は会長のクラスメイトで、しかも会長にベタ惚れなのに、そんなに無関心でいいんですか?」

「なにを言っている。あいつは女だぞ?」

「ん~と、なんというか、百合的な意味合いというか……」

「綺麗な花だよな、百合。私は好きだぞ」

「いや、そうではなくて……」


 会話がまったく噛み合わない。さすがは会長だ。

 おっと、いけない。

 そんなことよりも、ちまきの様子をうかがわないと。


 そう考えて視線を戻してみると、すでに階段下のスペースはもぬけの殻。

 ちまきと菱餅先輩の姿は、どこにも見当たらなくなっていた。

 気づかれたのか、単に話し終えて階段を上っていったのか……。


「ちまきと菱餅、いなくなってるな。ま、私たちには関係のないことだ。それよりも早く学食に行くぞ」

「はい、わかりました」


 気にはなっていたけど、会長にこう言われたら従わざるを得ない。

 僕は素直に頷き、再び歩き始めた。


 そのすぐあとだった。

 菱餅先輩が、生徒会戦挙のデュエルを再度申請してきたのは。


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