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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第六話 コスプレも補佐の仕事なの?
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-3-

 イベントの直後は、再び会長の平謝りを受けることになったりしたけど。

 ゴールデンウィークも終わり、しばらく経って五月も後半になると、地獄の中間テスト期間へと突入することになる。

 地獄の、と表現しているのは、僕の成績があまり芳しくないからだ。


 仮に学年最下位だったとしても、生徒会長補佐の任務を解かれる、ということはないと思う。

 ……そうなったらなったで、構わないような気がしなくもないけど。


 ただ、成績や役職などはデータとして残ってしまうわけだから、将来のことを考えると、上位とは言わないまでも赤点を取って追試を受けるような事態だけは避けておくべきだろう。

 赤点さえ逃れればOKと考えている時点で、志が低いと言わざるを得ないか……。


 ともかく僕は、一生懸命勉強した。

 ……いや、そう胸を張って言えるほどではないものの、それなりの勉強時間は取るようにした。

 放課後も特別な用事ない限りは生徒会室に残っているよう義務づけられているため、勉強のためにまっすぐ家に帰ることはできなかったけど。

 いかに生徒会長といえども、テストを受けるのは必須。生徒会室では、会長も黙々とテスト勉強に励んでいた。


 学年が違うから、同じ場所で勉強している利点はあまりない。

 こう言ったら失礼かもしれないけど、意外に優秀な会長。

 僕より一学年上でもあるわけだし、わからない部分があったら会長に聞くという手も使えなくはないだろう。

 とはいえ、会長自身も柄にもなくエアコムのウィンドウに集中してテスト勉強に勤しんでいることを考えると、邪魔をしたら悪いという気持ちになり、結局は自分で調べてどうにかするしかなくなってしまった。


 なお、同じ学年でもちまきは役に立たない。頭はいいのだけど、人に教えるのが極端に下手だからだ。

 それに、以前は登校時も下校時もべったりくっついてきていたちまきだけど、最近は僕を残してひとりで登下校することも多い。

 今はテストも近くなって、勉強のためという理由もあってか、生徒会室に顔を出す機会もかなり減ってきた気がする。


 なんとなく寂しさを覚えてしまうけど……。

 ともかく、そばにいないことが多くなっているちまきに、テスト勉強に関係する質問などができるはずもなかった。


 さて、それから数日後。

 中間テストは始まってしまった。


 会長と僕は、授業だけでなく、テストも生徒会室でエアコムを使って受ける。

 テストではエアコム内の教科書やノートの参照は不可。参照した時点で記録として残ってしまうので、カンニングはできない。

 だから授業同様、許可さえあればどこでテストを受けても構わないことになっている。


 実際に紙に書いたカンニングペーパーを持ち込む可能性なんかもありそうだけど、そういう場合には心拍数のデータなどから感知されて、結局バレてしまうのだとか。

 もちろん僕は、そんなズルをすることなく、真面目にテストと向き合っている。


 会議テーブルを挟んだ向こう側に座って同じようにテストを受けている会長に、僕はふと視線を向けてみた。

 綺麗な長い髪をサイドテールに束ねた会長が、微かに眉をしかめながら考え込んでいる。

 やっぱり会長って、黙ってさえいれば聡明そうだ。


 考えてみると、僕は学園生活のほとんどの時間を、この会長と一緒に過ごしていることになるんだな……。

 いつでも一緒な相手って、中学の頃まではずっと、ちまきだった。

 今でもちまきとは頻繁に会っているけど、それよりも会長とともに過ごす時間のほうが長くなってきている。


 この神龍学園に入学して、初日でいきなり大遅刻して会長と出会い、僕の人生は大きく変わったと言っても過言ではないのかもしれない。


「ん? どうした?」


 僕の視線に気づいた会長が顔を上げ、問いかけてくる。


「……いえ」


 慌てて視線を逸らし、僕はそっけなく答える。

 ぼーっとしていただけではあるけど、会長を見つめていたのは事実。だからちょっとだけ、恥ずかしい気持ちがあったのだ。


「私の美貌に惚れ直したか?」

「惚れません!」


 会長はやっぱり会長だった。

 ひょうひょうと言ってのける会長に、僕は即答で否定を返す。


「それに、惚れ直すって、すでに惚れてることが前提の言い方ですよね!?」

「なんだ、そうじゃなかったのか?」

「当たり前です!」

「なぜだろう、少々残念だな」

「え……?」

「い……いや、なんでもない」


 一連のやり取りで、なぜか頬を染めながら、会長は再びテストに集中し始めた。


 さっきも言及したとおり、やりたい放題の生徒会長であっても、テストを受ける必要はある。

 赤点を取れば追試が待っているし、その追試でも成績が悪かったら、場合によっては落第ということだってありえるわけだけど……。

 会長は学年上位の成績を修め続けているらしいから、まったく心配なさそうだった。

 鼻歌まじりにテストに臨んでいる姿には、苛立ちすら覚える。


 根本的に頭の出来が違っているのだろう。

 僕みたいな人間から言わせてもらえば、不公平としか言いようがない。

 と、他人を羨んでいても仕方がない。今は自分のテストに集中しないと。

 気合いを入れ直して頑張ろう!


 こうして地道にテストをこなしていったのだけど。

 落第の心配まである僕は、プレッシャーにも苛まれ、しかも五日間にわたって行われる長丁場のためか、すべての教科のテストが終わった頃には、口から魂が抜け出るのではないかと思うほどに疲れ果てていた。


「除夜、お疲れ様」


 珍しく、会長から労いの言葉をいただけた。


「あ……会長も、お疲れ様でした」

「私は大して疲れてはいないがな。しかしお前は、かなり気合いが入っていたようだから、さすがに疲れただろう?」

「……はい、確かにちょっと、疲れました」


 会長……。なんだかんだ言っても、僕の様子までちゃんと見てくれていたんだ……。

 意外な気遣いに、ほわんと心が温かくなるのを感じた。


「……そうだな。ここはひとつ、テストの疲れを癒すためのイベントでも開催しようか」

「えっ? べつにいいですよ、そんなの」


 そう答えながらも、すでに会長の頭の中ではイベントの構想が練られているのだろうと、僕は確信していた。

 会長とは、そういう人なのだ。


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