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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第六話 コスプレも補佐の仕事なの?
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-2-

 実際のところ、祝日だったとしても代休を設けることさえできれば、学校行事の日にあてても問題はないのだけど。

 その場合でも、納得のいく理由づけができなければ、実現するのは難しい。

 先生方の都合もあると思うし、それ以前にこどもの日はゴールデンウィーク中だから、旅行の予定をすでに立てている人だっているだろう。


 そんなわけで僕たちは計画を練り直し、少し早いけどゴールデンウィークの前半、四月の終わりの平日に端午の節句イベントをやってしまうことにした。

 今年は祝日のあいだに一日だけ平日となってしまうため、そこをイベントの日とすれば生徒にとっては嬉しいはずだからだ。


 先生方としても、せっかくのゴールデンウィークのあいだに授業なんてやりたくないようで、むしろ乗り気な様子だった。

 前回同様、開催を知らせるポスターを僕が作成、会場の準備などは先生方にお願いして、イベント当日を迎えた。



 ☆☆☆☆☆



「本日は端午の節句のイベントだ。とはいえ、男子のためだけのイベントというわけではない。全校生徒の諸君、男女問わず、思う存分楽しんでくれ!」


 会長の宣言により、イベントは開幕した。

 基本的には、テーブルに料理が用意されているのを自分で取りに行くバイキング形式の食事がメインのようだ。

 バイキング形式といっても、料理はほとんど日本食となっている。

 端午の節句は日本独自のイベントだし、それも当たり前かもしれないけど。


 なお、先生方のために日本酒が準備されているみたいだけど、今回、生徒用の甘酒はない。

 僕はほっと胸を撫で下ろす。


 会長が酔っ払ってしまい、お花見イベントのときのような醜態をさらす姿なんて、もう二度と見たくない。

 ……というよりも、僕自身がとんでもない被害を受けることになるし、会長の泥酔は絶対に阻止すべき事態だからだ。

 アルコールにめっぽう弱い体質の会長でも、いくらなんでもジュース類で酔っ払うことはないだろう。

 そんな僕の考えは、甘かったと言わざるを得ない結果となるのだけど……。


 ともかく、イベントでは鯉のぼりがいくつも立てられ、鎧兜もたくさん飾られ、それ以外に有志の部による出し物なども実施されていた。

 軽音楽部のライブは大きな盛り上がりとなったし、演劇部の劇もなかなかの完成度。

 かなり突発的なイベントだったわりには、大盛況と言っていいだろう。


 端午の節句とはあまり関係なく、みんなそれぞれに騒いではしゃいで楽しんでいるだけ、という気がしなくもないけど。

 学校行事のイベントなんて所詮そんなものだ。

 ……ただ、僕にはひとつだけ不満があった。


「僕、どうして鎧兜を着せられてるんですかね?」

「そりゃあ、端午の節句の主役とも言うべき存在だからな。必要だろう?」


 くぐもった僕の声に淡々と答えてくれたのは、もちろん会長だった。

 予想どおりの答え。

 それはいいのだけど、僕の声がくぐもっているのは、重苦しい鎧兜を着ているからで……。


「いや、だから、どうして僕が着る必要があるのかってことを言いたいんですが」

「そりゃあ、決まっている。面白いと思ったからだ。イベントとしても、いい演出になるだろうと考えてな」

「……誰も気にしてくれてないみたいですけど?」

「はっはっは! そういう誤算も、たまにはある」


 ……たまに、だろうか?

 文句の声もどうせくぐもってしまうし、僕は口に出すのを諦めた。


「だけど、これってチャンスですよね」


 不意にそんなことを言い始めたのは、当然のようにそばにいたちまきで。


「動けない除夜ちゃんに、あんなことやこんなことをしちゃえ♪」


 ご機嫌な様子で鎧兜の下のほうから手を突っ込もうとする。

 ……というか、実際に手を突っ込んでくる。


「ちょ……ちょっと、ちまき! やめてよ! ほんとに動けないんだから!」


 僕が着ているのは、本格的な鎧兜。精巧に作られた芸術的な造形で、その重量はかなりのものだ。

 体力に自信のない僕には、動くことさえままならない状態だった。


「動けないからこそよ! うへへへへ、さてさて除夜ちゃん、覚悟しなさいよ!」

「お前はダメだ、私がやる! そこをどけ!」

「嫌ですよ! っていうか、もうあたし、手を突っ込んでますし!」

「むう、ならば仕方がない。今日のところは、ふたり同時にするということで……」

「しょうがないですね。今回だけは、それで手を打つことにします」

「ふっふっふ、お主も悪よのぉ」

「いえいえ、会長様ほどではございませんて」

「ちょっと、ふたりとも! なにをする気なのさ~!?」


 貞操の危機!?

 なんて思ったりもしたけど、僕はなにをされることもなかった。


「……鎧兜の守りというものは、随分と強固なのだな……」

「ええ、そうですね……。つまらないです……」


 どうやら僕は、しっかりと鎧兜に守られたようだ。

 ビバ、鎧兜!

 ともあれ……。


「とりあえず、やけ食いしましょう」

「そうだな」


 会長とちまきはそんなことを言い合って、動けない僕がじっと見つめる前で、自らお皿に乗せて持ってきた大量の料理を胃袋に流し始めた。

 しばらくすると、会長の目が虚ろになってくる。

 心なしか、顔も赤くなってきているような……。


 はっ! もしかして、この状況は……!

 ゆらり……。

 トロンとした瞳でふらつく足取りの会長が、僕の目の前まで迫ってくる。


「あ……このカブ、日本酒に漬け込んであるみたい。こっちの梅干しも日本酒漬けだわ」


 ちまきの言葉で、悪い予感は確信へと変わる。


「あっ! 会長さん、抜け駆けはダメですよ!? ……って、あれ? もしかして……」

「ちまき……助けて……」


 動けない僕が涙目で訴えかけるも、敵(会長)はもうすぐ目と鼻の先にまで迫ってきていて……。


「除夜ぁ~、お前、綺麗な目をしてるな~。うぃ~、ひっく……」

「か……会長……」


 兜から出ている僕の顔に、会長が自らの顔を寄せてくる。

 そして……。


「うっ……」


 会長の顔が一瞬で青ざめたのがわかった。僕の顔も別の意味で青ざめる。


 こうして僕は、全校お花見大会のときと同じ災難に見舞われることとなってしまった。

 この鎧兜、借り物のはずなのに……。


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