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独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第一話 僕はこうして補佐になった
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「生徒会長というのはだな、全校生徒のトップなのだ。ゆえに、どんなワガママも許される。すべてが自分の思いどおりになる、夢のような役職なのだ」


 とんでもないことを言い放った会長。


「そ……そんなことで、いいんですか!?」

「うむ、いいのだ」


 僕が声を荒げても、会長は涼しい顔。

 そうか……この人、なにを言っても無駄な人種なんだ。


 とはいえ、睨まれ続けながらもどうにか耐えていると、カエルでもどうにか慣れてくるものなのか、それとも会長が言葉を返すだけで、どうやら暴力には訴えてこないようだと判断したからか。

 ともかく僕は、徐々に反撃ののろしを上げ始めていた。


「だいたいそんな自分勝手な態度じゃ、他の役員たちだって黙ってないでしょう!?」


 おそらく常識的と思われる僕の意見にも、会長はとくに慌てる様子もなく。「なにを言っているのだ、お前は」といった感じで、若干呆れたような顔を向けてくる。


「お前……さては、学園の規則だとかそういった資料には、まったく目を通してないな?」

「え……?」


 言われて、はたと考える。

 そんな資料、あったっけ?


 もともと僕がこの学校を受験した理由はふたつ。

 ひとつは単純に家から近かったから。

 そしてもうひとつは、こちらの理由のほうが強いのだけど、幼馴染みの女の子に言われたからだ。


 家が隣同士で、幼稚園からずっと一緒だった女の子。

 高校受験の志望校を決める際に、どういうわけか一緒の学校を受験しようと言い出した。

 まぁ、将来の夢なんかもまだ見つけられていない僕としては高校なんてべつにどこでもよかったし、彼女の申し出を素直に聞き入れたのだけど。


 考えてみたら、ここがどんな学校なのか全然知らなかった……。


 創立から十年ちょっとと新しい学校ではあるけど、学業のレベルとしてはそれなりに高いらしく、親も反対することなく、すんなりと受け入れられた感じだった。

 そういえば今朝家を出るとき、「いきなり遅刻なんて、大丈夫かしら? 監禁されたり拷問されたりしない?」などと、なんだか物騒なことをお母さんから言われたような……。


「安心しろ。監禁だの拷問だの、そんなことはありえない。……今は、な」


 ついつい口からこぼれてしまっていた僕のつぶやきを聞き咎めると、会長はそう言った。


 ……え? 今は……?

 一瞬、背筋が凍る。

 それじゃあ、今じゃなかったら……以前のこの学校だったら、それもありえたってこと?


「……本当に、なにも知らないんだな」


 再び漏れ出していた怯えを含んだ僕の言葉に、会長はさらに答えを返す。


「ま、実際、そこまでやろうとしたヤツは、すぐに蹴落とされることになったわけだが」


 ???

 僕にはどうも、この神龍学園というものが、よくわからなくなってきていた。

 いったいどういう学校なのだろう?


「学校としては、さほど変わっているわけではないな。少々レベルの高い進学校、といったところだ。……ただ」

「ただ?」

「さっきも言ったように、生徒会長に学園に関するほとんどすべての決定権が与えられる、いわば独裁政権的な校風になっているのだ!」


 ドッゴォォォォン!

 両手を腰に当て、再び大きな胸を張って偉そうにふんぞり返っている会長の背後には、ど派手な爆発エフェクトのようなものが見えた気がした。


「つまり、私がこの学園のルールであり、そして神である、ということだな」


 わざわざ言い直す必要もないと思うのだけど、というツッコミは飲み込んでおく。きっと、無意味だから。


「ついでに言うと、さっきお前が心配していた、他の役員たちが黙っていない、といったことも、実際にはありえない」

「……絶対的権力でねじ伏せるから、ですか?」


 なんというか、もう完全に諦めモードに入った僕は、力を失った声で尋ねる。


「いや、そうではない。そもそも、他の役員自体が存在していないのだ。言うなれば、生徒会長のひとり舞台ということになる」

「それって、生徒『会』長とは呼べないのでは……」

「ふむ、まぁ、確かにそのとおりだな。しかし、生徒長では語呂も悪いし、生徒会長という呼び名で構わないだろう」

「いや、べつに呼び名の問題じゃないんですが……」


 う~ん、なんというか、僕はとんでもない高校に入学してしまったのではなかろうか。

 今さらそう思っても、あとの祭りというものだろうけど。


「で……でもそれじゃあ、なにかと大変なんじゃないですか?」


 生徒会といえば、様々な学校行事に関して詳細にわたっていろいろと決めていかなければならない役職のはずだ。

 先生方がある程度サポートしてくれるにしても、ひとりの生徒に押しつけていい仕事量ではないように思う。


「おお、そうなのだ! わかってくれるか! いやぁ、私の目に狂いはなかったということだな!」

「え?」


 急にランランと目を輝かせ、会長は両腕を胸の前に組んで、うんうんと頷き始める。


「大変なのだよ、私は。そういうわけで、射干玉除夜、お前を拉致……もとい、生徒会長の補佐役に任命する!」

「え……え~っと……」


 この人今、拉致って言った!


「私の片腕となって、せいぜい頑張って働いてくれたまえ!」

「あ……あの……」


 働くって、いったいなにをさせようというんですか!?


「喜ぶがいい、これはとても名誉なことなのだぞ? 私が楽できるように……もとい、全校生徒のために!」

「だから、その……」


 会長、説得力、なさすぎですってば!

 僕の悲痛な叫びが言葉として飛び出すことはなく。

 次の瞬間には、


「除夜、今後ともよろしく頼むぞ!」


 ぎゅっ、と僕の右手は、会長の両手の温もりに包み込まれていた。


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