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「学園長、完全に酔っ払ってたね」
「そうね」
学園長が去ったあと、僕とちまきは雑談を再開した。
「ちまきは学園長がいるあいだ、まったく喋らなかったね」
「学園長なんて偉い人相手に、そうそう喋ったりはできないわ。除夜ちゃんはよく、あんなに質問をぶつけられたわね。ちょっと失礼だったかもしれないわよ?」
「え? そうかな?」
僕としては、頭に思い浮かんだ疑問を素直にぶつけてみただけだったのだけど。
「酔っ払ってたみたいだから、覚えてないかもしれないけど」
「そうであってほしいかな」
普通にこうして会話している今でも、ちまきは僕の左腕に絡みついたままだった。
同様に会長のほうも、右腕に絡みついている。
ということは、さっき学園長がいるときも、ずっとそうだったことになるわけで……。
両手に花状態の僕を見て、不埒な生徒だなんて思われてないといいけど……。
と、そこで気づく。
普段ならとてもうるさい会長が、今はやけに静かだということに。
静かにしてはいるけど、会長は僕の右腕にしっかり絡みついたままだった。
ただ、なんというか、余計に強く、痛いくらいに絡みついてきているような……。
「会長……?」
「ん? なんら?」
え? なんら……???
「除夜、どうしたのら? うぃ、ひっく……」
「か……会長ぉ~!? もしかして、酔っ払ってます!?」
「なにを~? わらちは、酔ってなど、いないろ~? ひっく!」
「あらら、会長さん、完璧に酔ってるみたいね……」
ちまきが言うまでもなく、顔は真っ赤で、足もともふらふら。
僕の腕に痛いくらいに絡みついていたのは、どうやら自分の足で体を支えることができずに、倒れないようにつかまっている状態だったからのようだ。
「あ……もしかしたら、さっきの学園長のアルコールを含んだ呼気を吸ったせいで、酔っ払っちゃったってこと!?」
「ん~、それよりも、甘酒の影響じゃないかな~? あたしほどじゃないけど、会長もいろいろと食べながら甘酒を飲んでたし」
僕の推測に、ちまきが別の意見を提示してくる。
「え? でも甘酒って、アルコールは入ってないよね?」
「製法にもよるのよ。簡単に作る場合には、酒粕から製造することもあるし、大量に飲んだら、小さな子とかアルコールに弱い人なんかだと酔うこともあるみたいよ?」
「そ……そうだったんだ……」
いくらアルコールが若干入っていたとしても、ちまきならともかく、会長はそこまで大量に飲んでなんていなかったはずだけど……。
とすると会長は、アルコールに極端に弱い体質ってことになるのかな……?
ともあれ、原因がわかったところで状況が変わるわけではない。
「うう~。除夜。なんだか目の前がぐるぐる回ってるぞ? あはははは、なんだこれは? 面白いな! ひっく!」
「こんな会長の姿が見られるなんて……。お花見大会、最高だわ!」
「そんな、面白がってるような場合でもないと思うけど……」
右腕に絡みついたまま酔っ払ってはしゃぎまくる会長と、左腕に絡みついて会長の普段では見られない様子を楽しんでいるちまきに挟まれ、成すすべのない僕。
と、突然会長が暴れ出した。
「こらお前~! 除夜はわらちのものら~! 離れるのら~!」
反対の腕に絡みついているちまきを、引き剥がそうとし始めたのだ。
「な……なによ!? 除夜ちゃんはあたしのものですよ!? 勝手に所有権主張しないでください!」
……それはちまきにも言いたい。
「これは、わらちのら~!」
そう言うが早いか、会長は片方の腕で僕に絡みつきながら、反対の腕でちまきを思いっきり突き飛ばした。
「きゃっ!」
「ふっ! 勝利にゃ~!」
地面に投げ出されて倒れるちまきと、勝ち誇る会長。
……あ……、倒れた拍子にちまきのスカートがめくれ上がって、下着がちらりと……。
こ……これは見なかったことにしておこう。そうじゃないと、僕の身が危ない。
それにしても、会長はどうやら少々、というか、かなり酒癖が悪いみたいだ。
今後、絶対にお酒は飲まないよう、釘を刺しておくべきかもしれない。
「除夜ぁ~、ひっく!」
「うわ、酒臭いですってば!」
僕にしなだれかかっている状態の会長の顔は、すぐ目と鼻の先にあって、甘酒の甘い感じではあるけど、お酒特有のニオイが鼻をかすめる。
だけど、僕の文句の言葉は、すぐに止められることになった。
「んんっ……!?」
気づけば僕の唇には、会長の唇がぴったりと……というよりもぐっちょりと重ねられ、完全に塞がれていた。