表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独裁生徒会長サクラン  作者: 沙φ亜竜
第四話 全校お花見大会!
13/48

-1-

「春ですね~」

「春だな」


 生徒会室の窓から見える景色は、どこもかしこも桜だらけ。

 舞い散る桜色の花びらたちが、視界を温かく染め上げる。


 こうやってエアコムのウィンドウに映し出される先生の話をただぼーっと眺めるだけの授業にも、だいぶ慣れてきた気がする。

 でも今ごろ、教室ではちまきを含めたクラスメイトは机を並べて、直接先生の声を聞いて授業を受けているのだろう。

 僕のこんな状況は、気楽でいい反面、ちょっと寂しくもある。


 クラスメイトのみんなって、僕がいなくても関係ないのかな?

 ……入学初日からこうやって生活してるわけだし、僕の顔も名前も覚えていない人だって多そうだけど……。

 だいたい高校生活っていうのは、交友範囲を広げる場でもあるはずなのに、こんなふうに生徒会室に引きこもる日々なんて……。


 ただ、そう考えたら、会長だって同じことなんだよね。

 いつから生徒会長をやっているのかは聞いてないけど、僕が補佐になるまでは、ずっとこの生徒会室でひとりぼっちだったということになる。

 会長……もしかして、ひとりで寂しかったから僕を補佐にしたのかな……?


「ん? 除夜、どうした?」

「あ……いえ、なんでもありません」


 つい会長を見つめてしまい、僕は慌てて視線を逸らす。

 逸らした視線の先には、桜の花びら。ゆらゆら舞い踊る花びらは、なんとなく切なさを助長させるような気がする。


「桜が綺麗だな」

「はい、そうですね」

「よし……。春といえば桜、桜といえばお花見! というわけで全校花見大会を開くぞ!」

「え……? 全校って、そんなこと勝手に決めていいんですか!?」

「いいのだ。私は生徒会長だからな」


 ……そうだった、ここはそういう学校だった。


「善は急げだ。早急に先生方への報告と全校生徒への告知をせねばならないな。これは忙しくなるぞ!」


 なんだかノリノリの会長。

 とはいえ、僕としても悪い気はしない。

 そういったお祭り騒ぎイベントは、古臭い言い方にはなるけど高校生活を彩る青春の一ページとなる。

 準備の段階ではそれなりに大変かもしれないけど、当日は生徒会長補佐という身でも思う存分楽しむことができるだろう。



 ☆☆☆☆☆



 素早く先生方への報告をし、簡単な役割分担を決めたあと、僕と会長は生徒会室へと戻ってきた。

 思いつきで開催を決めた全校お花見大会のはずなのに、会長はしっかりと頭の中で計画を組み上げていったようで、準備として必要なことや当日のスケジュールなどを説明し、てきぱきと先生方に指示を出していた。


 楽をしたいから生徒会長をしている、なんて言っていたけど、やるときはやる人なんだと思い知らされた。

 ほとんど無意識に、会長に対して尊敬の眼差しを向ける。

 と、そんな僕に、会長はこんな命令を下した。


「よし、あとはお前の役目だ。全校生徒に告知するためのポスターを大急ぎで作ってくれ」

「僕が、ですか?」

「そうだ」

「言い直します。僕だけが、ですか」

「そうだ」

「…………」

「中央掲示板に大きなポスターを一枚、教室棟の各階に一枚ずつは最低限必要だが、それ以外にもある程度の範囲ごとに一枚ずつは貼っておきたいところだな。教室棟は、各階それぞれ三枚ずつにするか。そうすると全部で……三十枚くらいあればいいか」

「鬼ですか、あなたは!?」

「ん? 私は生徒会長だ。つべこべ言わず、早く作業しろ」


 どうやら僕がポスターを描くのは確定なようだ。それも、三十枚……。


「会長は、なにをするんですか?」

「私はなにもしない。楽をしたいから、お前を補佐にしたのだ。当たり前ではないか」


 ……こんな人を、一瞬でも尊敬の眼差しで見てしまった僕がバカだった……。


「ここにはカラーの太ペンや絵の具なんかもあるからな。適当に使って描いてくれ」

「手描きしろってことですか? 僕、絵心もデザインのセンスもありませんよ?」

「魂で描け」

「そんな無茶な……」


 反論したところで、どうせなにも変わらないのは目に見えている。

 僕はしぶしぶながらもポスターを描き始めた。

 とりあえず、太いペンで文字を大きく書いて、あとは適当に模様でも描く程度でごまかそう。

 全校お花見大会を開催する旨と、その日時や場所さえわかればいいはずだし。


「そういえば、場所はどうするんです?」

「学園内の公園を使う」

「……学園内に公園があるんですか……」


 神龍学園が膨大な敷地を誇るというのは聞いていたけど、どうやら想像以上らしい。


「公園だけじゃない。小さいが森もあるし湖もあるぞ」


 ……想像以上というか、想像を遥かに超えていそうだ。


「あとは……お花見だし、酒の手配も必要か……」

「なるほど……。って、それはダメです! 未成年なんですから!」


 いくら生徒会長といえど、国の法律を破るわけにはいかない。

 それに、学園内で飲酒なんて、教師だけだったとしても問題になってしまうだろう。


「むう、つまらん。しかし、お花見に酒がないのは寂しいな……。そうだ、甘酒にしておこう!」

「それなら、まぁ……」


 いろいろと苦労しつつも、こうして全校お花見大会の準備は着々と進められていった。



 ☆☆☆☆☆



 ちなみに。

 開催告知のポスターは、校内の至るところに貼るだけでなく、スキャナで取り込んでデジタルデータ化し、ギャラクシーネット上の学園サイトにも貼りつけられた。


 それなら一枚だけ書いて、デジタル化したものをプリントアウトすればよかったのに。

 文句をぶつける僕に会長は、


「やっぱり手描きの温かみが感じられるポスターのほうがいいだろう?」


 と、あっさり答えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ