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『しょ……勝者、生徒会長代理、射干玉除夜! 今回の生徒会戦挙デュエルは、現生徒会長の防衛成功という結果になりました!』
思い出したかのように、放送部員が実況で結果報告をすると、静まり返っていた会場に一気に歓声が轟く。
その瞬間、擬似空間が消え、僕の精神はもとの体の中へと戻った。
「除夜、よくやったな」
真っ先に駆けつけ労いの言葉をかけてくれたのは会長だった。
だけど僕は首を横に振る。
「いえ……会長のおかげです」
自分の力ではない。
会長の与えてくれた力のおかげで勝てた。
だから、僕には労いの言葉を受ける資格なんてないと考えたのだ。
「ん? 私はなにもしていないぞ?」
「キスしてくれたじゃないですか」
「キ……キスぅ~!?」
僕の言葉に驚きの声を割り込ませてきたのは、会長に続いて駆け寄ってきていた、ちまきだった。
「ちょっと除夜ちゃん、どういうことよ!?」
「どういうことって、言葉どおり……」
「か……会長さんと、キスしたのっ!?」
どうしてそんなに目を血走らせて、怒鳴りつけるように声を荒げているのだろうか?
「うん、まぁ。僕の額に……」
「あ……なんだ。額、なのね……」
ちまきは、なぜだかほっと安堵の息をつく。
「ああ、なるほど。あの額へのキスのことを言っていたのか」
「ええ。そのおかげで会長の力が僕に宿って、それであんな大男の先輩にも勝てたんですよね?」
「いや、違うぞ。あんなの、単なる嘘に決まっているじゃないか」
「え?」
「口からでまかせ、そう言ったまでだ。私はあんな脂ぎったデブなんかと戦いたくなかったからな。いくら精神体でニオイなども感じないとはいえ、目の前にあの巨体があるというだけで嫌気が差すだろう?」
「そんな理由で僕に戦わせるなんて! 勝ったからいいようなものの、負けてたらどうする気だったんですか!?」
「まぁ、負けたら負けたでべつにいいだろう。世の中、なるようにしかならないからな」
なんだか、ちょっとカッコいい、と思ってしまった自分は、少々感覚がズレているのだろうか。
と、突然会長が僕をぎゅっと抱きしめる。
「つまり、私とお前は一心同体ということだ」
「会長……」
「ちょ……っ!? なにやってんのよ、ふたりとも! 離れなさい!」
ちまきが僕と会長を引き剥がそうと躍起になるけど、会長は面白がってさらに強くひっついてくる。
「もう! さっきみたいに、また燃やすよ!?」
どうやら勝てないと悟ったのか、一旦距離を取り、ちまきは両手でなにかを握って目の前にかざした。
「また燃やす……って、どういう……ああっ!?」
ちまきが目の前にかざしているのは、虫眼鏡だった。
その虫眼鏡に、地平線近くまで下がってきている太陽の光を集め、僕の額へと向けてくる。
「熱ちちちちちっ! やめてよ、ちまき!」
そして僕の額からは、さっきと同じように煙が上がる。
さっきと違うのは、精神体ではなく実体だから、その熱さが尋常じゃないということだけだ。
つまり、デュエル中に感じた額の熱さは、僕に宿った会長の力ではなく、ちまきのイタズラだったということに……。
「そんな危険なこと、しちゃダメだってば!」
「されたくなかったら、会長さんから離れなさい!」
「そんなこと言ったって……」
「ふっふっふ、除夜は私のものだからな。離したりはしない」
「だったら、今度は会長さんのほうに光を……」
「それはもっとダメだってば!」
「あ~~~~っ! 除夜ちゃん、こんな女の肩を持つっていうの!?」
「お前、先輩に向かって、こんな女呼ばわりか?」
「む~、なんでこんなことになってるんだ……」
このときになって、僕はようやく思い出した。
デュエルを観戦するため、ほぼ全校生徒と言っていいほど多くの生徒たちが、今僕たちのいる校庭に集まっていたということを。
『おお~~~っと! これは面白いことになっております! 射干玉除夜を巡って、生徒会長ともうひとりの女子生徒――ふむふむ、一年生の柏葉ちまきという名前の生徒ですか、彼女との三角関係愛憎劇が繰り広げられている模様です!』
おおおおおお~~~~~~~!
放送部員の実況に合わせて、デュエルのときよりも大きな歓声が沸き起こる。
『ここから先も、完全実況生中継でお送りさせていただきたいと思います!』
「やめてくださいっ!」
僕は会長とちまきのそばからどうにか離れ、意気揚々と実況を続ける放送部員にツッコミを入れたのだった。
★★★★★
春といえば桜! 桜といえばお花見!
その思考回路は、オッサン化してませんか?
……痛たたたっ、殴らないでください、会長!
次回、第四話、全校お花見大会!
え? 会長……? ちょ、ちょっとなにしてるんですか!? う、うわぁ~っ!!