トリ と おんなのコ
中学時代に書いたので多目に見てやって下さい。
あるところにびょうじゃくなおんなのコがいました。
おんなのコはからだがよわく、そとにでることさえできません。
おんなのコはなまえを といいました。
そんなおんなのコをとおくからみているトリがいます。
トリはそのおんなのコをとてもしんぱいしていました。
おんなのコはいつもどおりに まどのそとをながめていました。
そんなおんなのコのまえにトリがとんできました。
トリはおんなのコにかたりかけます。
「まいにちここからそとをながめてるね。あなたのなまえは なぁに?」
おんなのコはこたえます。とてもこまったようなほほえみをうかべながら。
「ここからみえるけしきはすてきね。わたしに いっつもちがうようすをみせてくれるの。」
トリはいぶかしむみました。どうしてなまえをおしえてくれないのだろう。
けれど、そんなことよりもおんなのコのひょうじょうがかげったのにこまりました。トリはなにもこまらせたくていったわけではありません。
そんなトリのしんじょうをわかってか、おんなのコはトリに はなしかけます。
「ねぇトリさん、ひまなときだけでいいから わたしにそとのはなしをしてくれない?」
そういったおんなのコはそとのせかいをかんがえてか、とてもあかるく、たのしそうなかおをしていました。
トリはうれしくてたまらない。
このかおを みたかったのだ。この、はながさいているようなえがおをみたかったのだ。
いつもこのコがわらっていられるようなことはできるのだろうか。
トリはいつもおんなのコをみていました。そしておもったのです。このコがわらっていられるように、わたしにできることをしようと。このちっぽけなからだで できることがあるなら、と。
このちいさなからだで できることは すごくかぎられてはいるだろうけど。そとの はなしをするだけでいいのなら…
「うん、がんばる。まいにち はなすよ!」
「ほんとう!?とってもうれしい!!」
おんなのコはとってもうれしそう。かおじゅういっぱいにえがおをうかべて。
そのひからトリは まいにち、やくそくどおりはなしをするためにおんなのコのいるへやへいきます。トリはおんなのコにいろいろな はなしをしました。
そらからみたけしきがどれほどそうかんなことか、いちばがひらかれているときのひとびとのにぎわいとか、はなが はなつかおりがどれほどすばらしいことか、たまにおそってくるどうぶつのどんなにおそろしいことか。
トリはしりうるかぎりのそとをおんなのコにはなします。
おんなのコはそんなトリの はなしをいつも、とてもたのしそうにきいています。
あるひ、いつもどおりにトリがおんなのコのいるへやにいくと おんなのコはいませんでした。それどころか、おんなのコがねむっていたベッドさえありません。
トリはふあんでおしつぶされそうです。
どうしたの?どこにいったの?いついなくなったの?
トリは ひっしでおんなのコをさがしています。すると、ぐうぜんかんごふさんが はなしているこえがきこえてきました。
“おんなのコが たいいんした”
トリはあんしんしました。
よかった、しんじゃったんじゃないんだ。ようやくびょうきに かったんだね。よかった、よかったね、なまえをおしえてくれなかったおんなのコ…
ようやくおんなのコのねがいがかなったんだね…
トリのめからはとめどなくなみだがあふれてきました。
トリはおもいました。
どうしてわたしはないてるんだろう。おんなのコがたいいんしてうれしいはずなのに。うれしいから なみだはでなくていいのに。
トリはおんなのコといたへやに もどっていました。
トリはおんなのコとよくはなしていたまどべにとまりました。
そこをかんごふがとおりかかり、トリにさみしそうにわらいながらはなしかけました。
「いつもお見舞いにきてくれてありがとう、トリさん。また会えるといいね、はなのようにわらうおんなのコと」
そういってひとなでしてからたちさっていきました。
トリは ようやくじぶんのきもちにきづきました。
そう、トリはかなしかったのです。トリはさみしかったのです。
トリはなきました。
もうあのおんなのコにそとのはなしをすることもないでしょう。
それからトリはいつものにちじょうにもどりました。
もうおんなのコがいた たてものをおとずれることもないでしょう。
数年後―――
トリはひさしぶりにおんなのコのことをおもいだしました。
おんなのコがいたたてものをおとずれようとおもいました。
パタパタとはねをはばたかせ、まいにちのようにいっていたへやにいってみました。
だれもいません。
トリはおんなのコに はなしていたときとおなじようにまどべにとまってみました。
まどからひがさしこみ、へやをあたたかなひかりでつつみます。
さんさんとひかりがふりそそいでとてもきもちいい。
パタパタとあしおとがきこえてきました。トリはまどろんでいたいしきがうかんでくるのをかんじます。
おもくなったまぶたをあけると、
めのまえにおんなのコがたっていました。
おんなのコがいいました。
「ねぇトリさん、そとのはなしをしてくれない?」
おんなのコは、まんかいのはなのようなえがおをそのかおにうかべていいました。
「…………わたし、でいい、の?」
トリはかすれるこえていいました。
おんなのコはえがおのまま、うなづきました。
「あなたがいいの。ね、トリさん。わたしにおはなしをきかせてください」
「うん、うん……うんっ。たくさんきかせたいことがあるよ、いいたいこともたくさんあるよ!ききたいこともたくさんあるし、こたえてほしいこともあるの!!あのね、」
トリはひといきおいてからおんなのコにいいました。
「あなたの、おなまえは なぁに?」
おんなのコはすこしびっくりしたあと、「うん、そうだったね」とむかしをなつかしむようにいいました。
そのめはとてもまぶしいものをみるように ほそめられていました。
いいえ、じっさいにまぶしくかんじたのかもしれません。
おんなのコのひとみには ちいさくてとてもきれいなトリがうつっていたのです。
トリとおんなのコは おたがいをなまえでよんでいます。
それはあたりまえだけど、けっしてあたりまえではないこと。
トリとおんなのコはとてもたのしそうに はなしをしています。
それはとてもこころあたたまるふうけいでした。
トリとおんなのコはいっしょにくらしています。
あいてをなまえでよんで、なかよくわらいあいながらはなしをしています。
とてもたのしそうに くらしています――――