いざ、大学へ 2
つぎの週の火曜日。
学校がおわると、翔真たちはサッカーチャンネル〈アルコ・イリス〉のメンバーが運転する車にのって、風吹イノベーション大学にやってきた。
合同練習がスタートしたのは午後7時だった。
練習メニューはパス、ヘディング、シュート練習、ゲーム(ミニ試合)など、翔真たちがしているものとおなじだった。
だが、いくらメニューがおなじでも、大学生のパワーは小学生とはレベルがちがう。
「やっぱり大学生のシュートはすごいよ。いまでも手がジンジンするんだ」
練習のあと、シャワールームで八雲がみんなに自分の手をみせた。
彼の両手は、めんたいこみたいに赤くふくれあがっていた。
「体のつよさだって小学生とはぜんぜんちがうもんな。おれ、ちょっとぶつかっただけで、ふきとばされそうになったもん」
陽介が、よろめくマネをする。
「そうだ。キャプテン、ぼく、おもしろいことを聞いたんだ」
5年生の葦切正晴という子がいった。
「休憩のときにメンバーのひとりにいわれたんだ。『きみたち、隈取をしてサッカーするなら、戦術にも歌舞伎の要素をとりいれてみたら、どう?』って」
「歌舞伎の要素?」
「うん。たとえば歌舞伎のお話で『お初徳兵衛』ってのがあるんだけど、これはお初っていう女の人と、徳兵衛っていう男の人の一途な恋のお話なんだ」
「それとサッカーと、どういう関係があるんだ?」
「サッカーで、ひとりの相手にひとりの選手がつきっきりでマーク(見張り)することをマンツーマンっていうよね」
「ああ」
「ひとりの相手をひとりの選手がずっとマークすることと、お初と徳兵衛がおたがいのことを、ずっと想いつづけることをかけて、マンツーマンのことをオハツってよべばいいんじゃないかって、そのメンバーがおしえてくれたんだ」
「つまり、歌舞伎の話の内容をサッカーの戦術にとりいれるってことか?」
「そういうこと。そうすれば、歌舞伎とサッカーの関係性が、もっとふかまるんじゃないかな?」
「なるほど……」
翔真は考えた。
まえに借りた歌舞伎図鑑には、歌舞伎の有名な話がたくさんのっていた。
あれをしらべれば、オハツ以外にも戦術のヒントになりそうな話があるかもしれない。
「よし、歌舞伎の話をサッカーの戦術にとりいれてみよう」
「ありがとう、キャプテン」
正晴がうれしそうにわらった。
* * * * *
それから1か月後。
合同練習の成果は試合でぞんぶんに発揮された。
「ウソだろ。あれがほんとうに中浦かよ」
相手選手がそういうのも、むりはない。
パスの正確さ。
シュートのつよさ。
たかいレベルの戦術。
中浦FCの選手ひとりひとりのうごきが、いままでとまったくちがう。
その日、練習試合をくんだ戸上ウイングスの試合は4―1で中浦FCが勝利。
強豪チームといわれる下村ハレルーヤにも、2―2のひきわけという結果だった。
「ありがとう。たのしかったよ」
試合終了後に、ハレルーヤのキャプテンが翔真に握手をもとめた。
「バカにしてごめんよ。おまえら、むちゃくちゃ、つよくなってるよ」
「ありがとう」
「でもさ、試合中にいってたゴニンオトコとかオハツとか、あれいったいなんなんだ?」
「歌舞伎図鑑をみれば、わかるよ」
そういって、翔真はハレルーヤのキャプテンの手をにぎった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
※このあと20時に『いざ、大学へ 3』を投稿します。




