いざ、大学へ 1
「ふざけるな!」
隈取をした翔真の写真をみて、市沢フレスベルグAチームのキャプテン・鷲﨑遥飛は胸のなかで黒い炎がもえあがるのをかんじた。
これがあの大鳳翔真なのか?
おれが目標にしていた男なのか?
「ぜったいプロになって、ふたりでワールドカップにでような」
「ああ。おれたちの力で日本を優勝させようぜ」
そう約束しあった男なのか?
「なにが歌舞伎サッカーだ!」
遥飛は新聞をグシャグシャにまるめて、リビングのゆかにたたきつけた。
「サッカーをナメるな!」
さけぶことで、ますます黒い炎がもえあがる。
遥飛はスポーツウェアに着替えると、いらだちをけすために夕方の町へランニングにでかけた。
* * * * *
中浦小学校にテレビ番組の取材がきたのは、土曜日の練習のときだった。
「ええと、きみたち隈取をして練習しないの?」
テレビクルーのひとりが翔真の顔をみて、たずねた。
「しませんよ」
「わるいけど、隈取をして練習してもらえるかな? そっちのほうが視聴者もよろこぶと思うんだ」
そう注文されたので、しかたなく翔真たちは隈取をしてサッカーの練習をすることにした。
そして1時間後。
「ありがとう。いい画がとれたよ」
撮影がおわると、テレビクルーはこどもたちに礼をいって、学校をあとにした。
中浦FCがテレビで紹介されたのは、それから2日後のことだった。
月曜日の放課後。
校長先生から特別な許可をもらって、翔真たちは応接室で、夕方のニュース番組をみていた。
「つづいては風吹県のがんばるこどもたちを紹介する『はばたキッズ』のコーナー。きょう紹介するのは、歌舞伎サッカーで話題の中浦FCです」
テレビ画面いっぱいに中浦小学校の運動場がうつしだされた。
ついさっきまで、
「シュートはずしたところ、つかってないかな」
「キャプテンと天音ちゃんしかうつってなかったら、どうしよう」
なんて、つまらないことを心配していたこどもたちも、自分たちの練習場がうつったとたん、テレビをくいいるようにみつめはじめた。
チーム紹介のあとに歌舞伎サッカーのかんたんな説明があり、最後に練習風景をうつして『はばたキッズ』はおわった。
「え? これでおわり?」
美羽がしんじられないといったふうに画面をゆびさす。
「なんか、すごくあっさりおわったね。ちょっと期待はずれ」
「しょうがねえよ。3分のミニコーナーだぜ」
副キャプテンの陽介がテレビの電源をきった。
こどもたちはがっかりしながら、応接室をあとにした。
だが、たった3分の紹介でもテレビの影響力はすごいものだった。
番組の放送終了後、鳩山監督のスマートフォンに中浦FCと練習試合をしたいという電話がつぎつぎにかかってきたのだ。
「すごい。たった2日で13チームも試合をもうしこんできたんだ」
スケジュール表をみて、美羽が目をまるくしたのは水曜日の昼やすみのことだった。
「いまなら、まだ試合をことわれるって監督がいってたけど、どうする?」
翔真がチームメイトにたずねる。
「ことわることなんかねえよ。ぜんぶ、ひきうけようぜ」
陽介が胸をたたいて、こたえた。
「おまえだって、もう1回ぐらい歌舞伎サッカーをやりたかったって、このまえいってたじゃねえか。せっかくの機会なんだし、このさい1回なんていわずに、ぜんぶの試合を歌舞伎サッカーでやろうぜ」
陽介の言葉もあり、けっきょく中浦FCはすべての練習試合をひきうけることにした。
「試合するからには相手チームにもたのしんでもらわないとな。よし、おれも美羽や八雲みたいに自主トレをするぞ」
「それなら、みんなでトレーニングしませんこと?」
天音が提案した。
「みんなでトレーニングしたほうが効率的ですし、いろいろと気づくことがあるかもしれませんわ」
「おっ、あーちゃん、ナイスアイデア。よし、きょうの放課後、自主トレのメニューをみんなで考えようぜ」
放課後の会議で、陽介たちは自主トレのメニューを考えた。
そして、つぎの日から、みんなでトレーニングを開始した。
* * * * *
それからは毎日がサッカーづけの生活だった。
毎朝かならず、みんなで隈取をして30分のランニングをおこない、練習のない日も放課後は運動場のすみでパスなどの基礎練習をおこなった。
それだけではなく、各自、サッカーの本を読んだり、プロ選手の練習動画をみたりしてサッカーを研究。そして土・日曜日は隈取をして練習試合にいどんだ。
新聞やテレビで紹介された歌舞伎サッカーをみられると知り、たくさんのこどもが中浦小学校にあつまったのはいうまでもない。
そんなある日のこと。
いつものように練習をしていると、鳩山監督が二十歳ぐらいの男の人をつれて運動場にやってきた。
「監督、その人は?」
「この人は風吹イノベーション大学に通っている妹背夕也さんだよ」
鳩山監督に紹介されて、夕也さんが、
「こんばんは」
みんなにあいさつした。
「夕也さんは大学に通いながら、サッカーにかんする動画を配信しているサッカーミーチューバーで、きみたちと一緒にサッカーの練習したいんだって」
「練習? おれたちとですか?」
おどろいて、翔真は夕也さんにたずねた。
「うん。ぼくはともだちと一緒に〈アルコ・イリス〉っていうチャンネルで、サッカーのカミワザプレーやミニゲームの動画を配信してるんだけど、なかなか登録者の数がのびなくてね」
夕也さんが、おおげさに肩を落とす。
「それで、歌舞伎サッカーをしているきみたちと一緒に練習をして、たくさんの人に、ぼくらのことを知ってもらいたいんだよ」
なるほど。
どうやら、夕也さんは翔真たちをチャンネルの宣伝につかうつもりらしい。
ちょっといやな気もしたが、それを顔にださずに翔真はしつもんした。
「夕也さんたちが小学校にきて、練習するんですか?」
「いや、練習は大学でするよ。大学のグラウンドは土じゃなくて芝生だし、ナイター設備も充実してるから、きっと、きみたちも気にいると思うよ」
「移動は車ですか? それとも自転車?」
「車だよ。ぼくらがむかえの車を用意するから、きみたちはそれにのって大学にきてくれればいいんだ。もちろん、かえりの車もぼくらがだすよ」
「どうする?」
さすがにひとりではきめられず、翔真はチームメイトをふりかえった。
「大学生と練習か。なんか、たのしそう!」
美羽が声をはずませる。
「さすがにこいつは予想外だけどさ、いい思い出づくりにはなるんじゃないか?」
陽介がさんせいすれば、
「大学生と練習すれば、きっと、つよくなれますわ」
天音もさんせいする。
「ほかのみんなは?」
「ショウちゃん、イノ大の食堂のヒレカツ定食って、すごくおいしいらしいよ。練習のあとにたべたら、もっとおいしくかんじるんじゃないかな」
これがだれの言葉なのかは、説明するひつようもないだろう。
「キャプテン、おれも大学生と練習したい」
「ぼくも!」
「おれも!」
5年生たちも合同練習にはさんせいのようだ。
「わかったよ。夕也さん、よろしくおねがいします」
翔真が夕也さんに頭をさげた。
こうして、中浦FCと、サッカーチャンネル〈アルコ・イリス〉との合同練習がきまったのだった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
※あしたは2エピソード投稿します。




