開幕、歌舞伎サッカー 5
10分間のハーフタイムがおわり、後半戦がはじまった。
後半戦になると、岩木スポーツ少年団は攻撃役のフォワードを3人にふやして、猛攻撃をしかけてきた。
その結果、後半8分に1点をきめられ、さらに5分後にもう1点。
その2分後には岩木キャプテンのシュートによって、中浦FCは3点目をゆるしてしまった。
試合時間も、のこりわずか。
ここで、ある選手がきせきのかつやくをはたす。
後半18分での中浦FCのコーナーキック。
ボールをけるのは翔真だ。
翔真のけったボールが、ゴールまえの陽介にむかってとんでゆく。
しかし、これを岩木の選手がヘディングではじく。
はじかれたボールはゴールとはべつの方向にとんでいった。
「美羽、ボールいったぞ」
もっともボールのちかくにいたのはフォワードの美羽だった。
だが美羽はゴールにせなかをむけている。
このままではシュートをうつことができない。
「えーい」
美羽が体をそらしながら、その場でジャンプする。
そして足を頭よりもたかくふりあげ、ゴールめがけて空中のボールをけりとばした。
「オーバーヘッドシュート!」
鳩山監督が、おどろいてベンチからたちあがった。
それもそのはず。
オーバーヘッドシュートといえば、サッカースーパープレーの代表ともいえるカミワザシュートだ。
小学生の女の子が、やろうと思って、かんたんにできるものではない。
相手キーパーが、あわててボールに手をのばす。
だが、指がわずかにとどかない。
美羽のけったボールはゴールネットを力づよくゆらした。
「すごいぞ、美羽。ナイスシュート、いや、ナイスオーバーヘッド」
美羽のきせきのシュートをチームメイトみんなでよろこびあった。
しかし、そのあと試合はすぐに終了。
1―3で試合は岩木スポーツ少年団が勝利した。
試合がおわると、翔真たちは相手チームのベンチへ行き、監督やひかえの選手に礼をした。
「気をつけ、礼。ありがとうございました」
「こちらこそありがとう。たのしい試合だったよ」
監督や選手だけでなく、応援にきていた大人も翔真たちに拍手をおくってくれた。
『ふれあいカップ』に敗者復活戦はない。
なので、試合のない翔真たちは、おまつりをたのしむことにした。
「試合もおわったし、みんなで牛串でもたべようか」
「ショウちゃん。牛串もいいけど、ぼく、フランクフルトもたべたいな」
ゴールキーパーの八雲がいった。
「あと、やきそばとフライドポテトも」
「そんなにたべて、だいじょうぶか?」
「だいじょうぶ。試合でたくさんとびはねたから、すごくおなかがすいてるんだ。いまなら山でもたべられそうな気がするよ」
「いや、さすがに山はむりだろ。ってか、そもそも、たべものじゃないし」
そんなことを話していると、
「中浦FCのみなさ~ん」
スポーツキャップをかぶった25さいぐらいのおねえさんが、バタバタとこちらにはしってきた。
「みなさ~ん、ちょっと取材いいですか~」
取材という言葉を聞き、翔真と天音が顔をみあわせる。
「天音ちゃん、あの人、さっき取材っていったよね?」
「はい」
「おれの聞きまちがいじゃないよね?」
「わたくしもたしかに聞きました。取材と」
おねえさんは中浦FCのベンチにくると、
「わたしは……ハァハァ、こういうものです」
肩で息をしながら、鳩山監督に名刺をわたした。
名刺には、
風吹新聞 記者 鶴島ユイ
と書かれていた。
「わたし、風吹新聞のスポーツ面にのせる記事を書いてるんです。あ、ちょっと、のみものもらってもいいですか?」
鳩山監督は、いそいで紙コップにスポーツドリンクをくみ、ユイさんにわたした。
ドリンクをのみほすと、ユイさんが鳩山監督に顔をよせた。
「監督。ぜひ中浦FCについて取材させてください。まずは隈取をしてサッカーをすることになったいきさつと、それから監督のサッカーにたいする考え方を――」
「ちょ、ちょっとまってください! 歌舞伎サッカーのアイデアはぼくじゃなくて、この子たちが考えたものなんです」
「へっ?」
ユイさんが目をパチパチさせた。
「歌舞伎サッカーは、おれ――いえ、ぼくたちが考えたんです」
翔真は、これまでのことをユイさんに話した。
「じゃあ、歌舞伎サッカーのアイデアや演出は、ぜんぶ、きみたちが考えたってわけ?」
「はい。あと歌舞伎の幕をイメージしたユニフォームも」
「おもしろい!」
ユイさんがパチンと指をならす。
「合併のきまった弱小チームが、最後までサッカーをたのしむためにとった行動。それは隈取をしてサッカーをする歌舞伎サッカーだった。これはおもしろい記事になるわ」
「弱小は、よけいだよね」
八雲が翔真の耳元でささやいた。
「ありがとう、きみたち。あ、そうだ。写真、とってもいいかな?」
ことわる理由もないので、翔真たちは写真をとってもらうことにした。
写真撮影のポーズだが、これはもちろん、にらみを利かせ、力をこめた手足をつきだす歌舞伎の〝見得を切る〟ポーズだった。
* * * * *
『ふれあいカップ』を優勝したのは東坂ハリケーンというチームだった。
だが、大会を一番もりあげたチームにおくられる『もりあげ賞』は、歌舞伎サッカーで観客をわかせた中浦FCにおくられた。
つぎの日の風吹新聞のスポーツ面には、
あっぱれ! 歌舞伎サッカー
のタイトルで、ちいさい記事ながらも中浦FCのことが書かれていた。
「おい、聞いたか。あさっての全校集会で校長先生がおれたちを表彰するらしいぜ」
掃除の時間に、陽介が翔真にいった。
「聞いたよ。また隈取をしてステージにあがるんだってな。あと監督から聞いたんだけど、今度、テレビ番組の取材がくるらしいぞ」
「テレビ番組の取材? マジで?」
「ああ。あの会場に、たまたまテレビ局の人がいて、歌舞伎サッカーをみているうちに、うちのチームに興味をもったんだってさ」
「ま、あんなメイクして、スーパーセーブにオーバーヘッドじゃ、話題にならないほうがおかしいか」
「もしかして入団希望者がふえたりして」
「そう思って、おれもいろんなやつに声をかけたんだけどよ、だれも入団しようとしないんだ」
「どうして?」
「みんな水泳とかバスケとか、ほかのスポーツがいそがしくてサッカーやってる余裕なんかないってさ」
「そっか。なら、むりにはさそえないな」
「歌舞伎サッカーはおわったけど、たのしいことはまだまだあるんだ。気ぃおとさずに、いまいる8人でたのしい思い出をつくることを考えようぜ」
「そうだな。けど――」
「けど?」
「もう1回ぐらい、みんなで歌舞伎サッカーをしたかったかも」
そうつぶやく翔真の横顔は、すこしさびしそうだった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




