開幕、歌舞伎サッカー 4
前半3分。
最初にシュートのチャンスがやってきたのは中浦FCだった。
「あーちゃん、こっちにパス」
陽介がはしりながら、右手をあげる。
正確な天音のパスボール。
それを陽介がゴールめがけてけりとばす。
だが、けったボールは相手ディフェンダーの体にあたり、翔真のほうへころがった。
――この距離ならシュートをうてる。
しかし、シュートのことを考えたとたん、トラウマがよみがえった。
胸がくるしい。
息ができない。
恐怖で頭がまっしろになる。
翔真は、ふるえながら、その場にひざをついた。
そのあいだにボールは相手選手にうばわれてしまった。
「きみ、だいじょうぶ?」
くるしそうな翔真に、審判が声をかける。
「だいじょうぶです。すぐによくなります」
翔真は息をととのえると、すぐにプレーを再開した。
そのあとすぐに岩木のシュートチャンスがやってきた。
岩木のキャプテンが中浦FCのディフェンダーをぬきさり、シュートをうった。
弾丸のように強烈なボールが、ゴールにむかってとんでゆく。
――これはきまったな。
試合をみていた、だれもがそう思った。
だが、彼らの予想は思いもよらぬかたちでうらぎられた。
「やあー」
ゴールキーパーの八雲が横にジャンプして、とんでくるボールに手をのばす。
ぶるんとゆれるおなか。
フワッと宙をまう巨体。
ボールは八雲の手にあたり、フィールドの外へはじきだされた。
「すげー!」
プロ選手のようなジャンピングセーブに観客がわきたつ。
いっぽう、選手たちはおどろきのあまり、フィールドのなかにたちつくしていた。
「みんな、相手コーナーキックだよ。ゴールの守備をかためて」
「お、おお」
翔真は、いそいでゴールまえにもどった。
そのあとも八雲はスーパーセーブを連発し、前半戦をなんと0―0のひきわけでおわらせた。
「おまえ、いつのまにあんなことできるようになったんだ?」
ハーフタイム(休憩時間)になると、陽介が八雲にたずねた。
「歌舞伎サッカーをすることがきまったときね、ぼく、自分たちだけがたのしむんじゃなくて、相手チームもたのしめたらいいなって思ったんだ」
八雲が岩木のベンチに顔をむける。
中浦相手に1点もとれなかったのが、よほどくやしいのだろう。
岩木の選手たちはあつまって作戦会議をしていた。
「『中浦に勝ってよかった』じゃなくて『中浦と戦えてたのしかった』。そう思ってもらうには、すこしぐらいつよくなくちゃいけないでしょ? だから、美羽ちゃんとふたりで、こっそり練習してたんだ」
八雲がてれくさそうにわらった。
「では、八雲さんと美羽ちゃんが夜の公園にいたのは――」
天音がふたりを見ると、
「うん、八雲とシュートの練習してたの。天音ちゃん、あのときはダイエットなんてウソついてごめんね」
美羽が上目づかいにあやまった。
「相手チームもたのしむ、か」
翔真は目元にとった赤い隈をそっとなでた。
「そうだよな。自分たちだけじゃなくて、相手チームもたのしんでくれたら、それが一番いいもんな」
「たしかにな。よっしゃ、それじゃあ後半戦は、もっともっと、あいつらに試合をたのしんでもらおうぜ」
陽介がひざをたたいて、ベンチからたちあがる。
「陽介のいうとおりだ。みんな、もう一度、円陣をくもう」
こどもたちはたがいに肩をだきあい、ふたたび円陣をくんだ。
「あっ、われら、中浦えふしぃ~」
「ふぁいと~、おぉ~」
(つづく)
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