Bチームのプライド 2
午前10時。
ついに練習試合がスタートした。
合同練習の動画をみて、Bチームは中浦FCのプレーを研究してきた。
だが、じっさいに戦ってみて、はじめてわかった。
彼らの実力が、自分たちの想像をはるかにこえていたことを。
ドリブルをする陽介に、流星がショルダーチャージをしかける。
だが、いくら肩をぶつけても陽介はバランスをくずさない。
ぎゃくにしかけた流星が、バランスをくずしてたおれそうになった。
陽介がシュートをうつ。
しかし、これをキーパーがはじく。
はじかれたボールがBチームの選手のほうへとんでくる。
「シエル、まえにはしれ」
はしりだしたフォワードのシエルに、ディフェンダーの選手がパスをだす。
攻撃と守備がいっしゅんにして逆転した。
――負けない。負けちゃいけないんだ。
流星は何度も、その言葉を自分自身にいいきかせた。
* * * * *
試合中、遥飛は大鳳監督やほかのAチームの選手と一緒にベンチにすわり、ずっと翔真のうごきに注目していた。
隈取をした翔真は仲間に指示をあたえながら、攻撃にも守備にも積極的に参加する。
シュートこそうたないが、的確な判断とボールをあつかうテクニックは、Aチームでもかつやくできるレベルだ。
――実力があるのに、どうして、あいつは歌舞伎サッカーなんてするんだ。
――どうして、本気でサッカーにむきあおうとしないんだ。
いらだちをおぼえながらも、遥飛は翔真から目をはなすことができなかった。
* * * * *
前半戦は両チームとも得点なしのまま、0―0でおわりをむかえた。
「おいおいおい」
陽介がにんまりわらって、八雲のおなかをこづく。
「まさか、フレスベルグ相手に0点でおさえるなんて思ってもみなかったぜ」
「ぼくもだよ。やっぱり夕也さんたちと練習してよかったね」
10分間のハーフタイムがおわり、後半戦がはじまった。
後半5分。
「シエル、おれにボールをまわせ」
フォワードのシエルが、流星にパスをだした。
流星が、そのボールをさらにほかの選手にまわす……とみせかけて、いきなりゴールの右すみにけりとばした。
大学生とのシュート練習できたえた八雲も、とつぜんの高速シュートには反応できず、ボールはゴールネットをハデにゆらした。
「よし!」
シュートをきめて、流星がこぶしをふるう。
「ナイスシュート、流星」
Bチームの選手が、ほめるように流星のせなかをたたいた。
そのあとはBチーム優勢のまま、0―1で試合がすすんだ。
「翔真くん、がんばれー」
「中浦の力をみせてやれー」
観客の応援にあわせて、歌舞伎の幕をイメージした旗がゆらめいた。
後半15分。
翔真はドリブルで、右サイドから相手の陣地にせめこんだ。
「10番をマークしろ。せめさせるな」
流星の指示で、体のおおきな選手が翔真にショルダーチャージをしかける。
思うようにドリブルができず、たちどまってボールをキープする翔真。
そのとき、天音がまえに、いや、翔真のうしろにはしった。
「翔真さん、ユミハリヅキ」
翔真が足裏をつかって、うしろの天音にパスをだす。
天音が軸足をゴールにむける。
そして、ねらいをさだめてシュートをうった。
ゴールまでの距離は30メートルとかなり遠い。
だが、天音のけったボールは三日月のようにきれいな弧をえがき、ゴール左上のすみにとんでいった。
キーパーが、必死にうでをのばす。
その指先がボールに――とどかない。
ボールはキーパーの手の上をとおりすぎ、ゴールネットにすいこまれていった。
「やった、やった、やったー」
ロングシュートがきまり、中浦サポーターのよろこびが爆発する。
「天音ちゃん、ナイスシュート」
翔真が天音に駆けよった。
「さすが天音ちゃん、100点満点のロングシュートだよ」
「翔真さんのパスのおかげですわ」
ふたりは笑顔で、おたがいのプレーをほめあった。
いっぽう、Bチームの選手は、ぼうぜんとフィールドのなかにたちつくしていた。
「ユミハリヅキ。なるほど、そういうことか」
雉原監督がひざにおいた手をくやしそうに、にぎりしめる。
「雉原監督、どういうことですか?」
大鳳監督がたずねる。
「天音ちゃんという子がシュートをうつまえにユミハリヅキといいましたよね。弓張月というのは、弓の名手である源為朝を題材にした歌舞伎のお話なんですよ」
「やけにくわしいですね」
「彼らの戦術を研究しているうちに歌舞伎にもすこしばかりくわしくなりましてね。おそらくユミハリヅキというのは、キックの上手な天音ちゃんを為朝に見立て、弓で遠くの的をねらいうつように、正確なロングシュートをうつ戦術なんですよ」
試合はすぐに再開された。
そして5分後。
ピイィィ、ピイィィ、ピイィィィィ。
試合終了のホイッスルがなった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




