Bチームのプライド 1
翔真たちが市沢フレスベルグとの練習試合を知ったのは、それから2日後のことだった。
「市沢と練習試合?」
陽介のすっとんきょうな声が、放課後の運動場にひびきわたる。
「ウソだろ? だって、あの市沢だぜ?」
「まぁ、Aチームじゃなくて、Bチームだけどね」
鳩山監督が肩をすくめた。
「ねぇねぇ、市沢フレスベルグって、すっごくきびしいチームなんでしょ? 隈取をして試合にでたりしたら、怒られないかな」
5年生の美羽が、心配そうにたずねる。
「それはだいじょうぶだと思うよ。むこうの監督が『隈取をして試合をしてください』て、たのんできたからね。ただ――」
「ただ?」
「今回だけは、歌舞伎サッカーをしないほうがいいんじゃないかな」
鳩山監督は、わざと眉間にしわをよせて、こどもたちの注意をひいた。
「まえに本気でプロをめざしていた翔真くんが、いまは顔に隈取をして歌舞伎サッカーをしている。市沢の選手のなかには、そんな翔真くんをバカにしたり、わらったりする人がいるかもしれない。だから――」
「おれはやりますよ。歌舞伎サッカー」
翔真がきっぱりといった。
「相手がしりあいでも関係ありません。おれたちのサッカーは歌舞伎サッカーです。チームみんなでたのしむ。そして相手チームにもたのしんでもらう。これがおれたち中浦FCのサッカーです」
想いをつたえたあとも、翔真は鳩山監督の目をまっすぐみつめつづけた。
「きみたちは、歌舞伎サッカーにほこりをもっているんだね」
鳩山監督が、ちいさなためいきをつく。
「わかった。Bチームの監督には隈取をして試合することをつたえておくよ」
Bチームとの練習試合がきまると、翔真たちはいままで以上に熱をいれて、練習にとりくんだ。
* * * * *
そして、1週間後。
練習試合の日がやってきた。
試合会場は中浦小学校だ。
「おい、Aチームまできてるぞ」
車からおりてきたAチームの選手をみて、陽介がいやな顔をした。
試合まで、両チームに1時間の練習時間がもうけられることになった。
練習まえに、翔真は仲間をあつめてこういった。
「まえにもいったけど、おれたちはおれたちのサッカーをしよう。チームみんなでたのしむ。そして相手チームにもたのしんでもらう。それが、おれたちの――」
「翔真」
ふりむくと、すこしはなれたところに遥飛が立っていた。
「どうして、おまえが歌舞伎サッカーなんて、やってるんだ」
肩をいからせて、遥飛がやってくる。
「どうして、本気でサッカーにむきあおうとしないんだ」
「なんていわれてもかまわない。これがおれたちのサッカーだ」
ふたりは目をそらさず、たがいの顔をみつづけた。
無言がうみだす、しずけさ。
そのなかで両者の視線は龍のようにからみ、みえない炎をふきあげていた。
「遥飛、荷物をはこぶのをてつだってくれ」
大鳳監督が、サッカーボールのはいったバッグを遥飛にわたした。
大鳳監督は、いっしゅんだけ翔真の顔をみたが、すぐに目をふせ、テントをたてるために中庭にむかってあるきだした。
「……おれは認めないからな」
そういいのこして、遥飛は大鳳監督と一緒に中庭へむかった。
* * * * *
午前9時45分。
Bチームのキャプテン、鳶尾流星は仲間と一緒にシュートの練習をしていた。
「流星、伝言がある」
練習中の流星のもとに遥飛がやってきた。
「伝言? 大鳳監督からか」
「ちがう。おれからだ」
そして遥飛は、つよい口調でこういった。
「ぜったいに勝て。あいつらだけには負けるな」
「あたりまえだ」
流星がこたえる。
「あんなサッカーをナメくさったようなやつらには、ぜったいに負けない」
「それでいい。健闘をいのる」
そういって、遥飛はもどっていった。
「おれたちは市沢フレスベルグだ。本気でサッカーにむきあっているんだ」
流星はこぶしをにぎりしめた。
たしかに自分たちはAチームほどつよくない。
でも、つよくなるために必死に努力している。
全力でサッカーにむきあっている。
だから歌舞伎サッカーなんてナメたマネをするやつらには、ぜったいに負けない。
いや、負けちゃいけない!
――この試合だけは、ぜったいに勝つんだ。
Bチームのキャプテンとして。
そして本気でサッカーにむきあうものとして、流星はその言葉を心にきざみつけた。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




