いざ、大学へ 3
市沢フレスベルグは風吹県に160あるジュニア・サッカーチームのトップに君臨する王者のチームである。
その日、練習がおわると、大鳳監督はAチームの選手をあつめて、反省会をはじめた。
「なぜ、パスをだすまえにアイコンタクトをとらなかった!」
「ヘディングをするときは、最後までボールをよくみろといったはずだ!」
夜の練習場に、きびしい言葉がひびきわたる。
だが、愚痴をこぼすこどもはひとりもいない。
言葉こそきびしいが、大鳳監督は自分たちにまっすぐむきあってくれる。
本気で自分たちを、
「つよい選手」
にそだてようとしてくれている。
それをわかっているから、だれも愚痴をこぼさないのだ。
「きょうはこれで解散にする。各自、体をしっかりやすめるように」
「監督、きょうもありがとうございました」
キャプテンの遥飛が代表して礼をいった。
みんなが、かえりの準備をはじめようとしたとき、
「大鳳監督、まってください」
Bチームをうけもつ雉原監督と、Bチームのキャプテン、鳶尾流星がやってきた。
「かえるまえに、この動画をみてくれませんか」
雉原監督は、もっていたタブレット端末を大鳳監督にわたした。
「きみたちもみたほうがいい」
雉原監督がAチームの選手にいった。
動画のタイトルは、
【話題の歌舞伎サッカークラブと練習してみた!】
〈アルコ・イリス〉と中浦FCとの合同練習を撮影した動画だ。
「雉原監督、これがなにか?」
大鳳監督が、ふきげんそうに顔をしかめる。
「最初はメンバーの紹介なのでとばします。3分ごろからはじまる練習動画をみてください」
練習内容は攻撃チームと守備チームにわかれておこなうシュート練習だった。
動画をみているうちに、大鳳監督の顔がかわった。
大学生の強烈なシュートをうけとめる、おでぶキーパー。
大人相手に積極的にショルダーチャージをしかける、おじょうさま。
どの選手のプレーも、小学生とは思えないほどパワフルだ。
「大人と練習することで、中浦FCのこどもたちはパワーもスピードも格段にあがっている。元Jリーガーのあなたなら、おわかりでしょう」
「ああ」
「つぎにゲームの動画をみてください」
ゲームは〈アルコ・イリス〉チームと小学生チームにわかれておこなうものだった。
ゲームのあいだ、やすむことなくフィールドを駆けまわり、仲間に指示をだす小学生の選手がいる。10番のビブスを着た翔真だ。
「やはり血はあらそえませんね。指示の出し方といい、はしるすがたといい選手時代のあなたにそっくりです」
「息子だからな」
大鳳監督が、みじかくこたえた。
「翔真、こっちにパス」
はしりながら、陽介が右手をあげる。
相手ゴールにむかう陽介。
宙をまってのびる、翔真のロングパス。
そのパスを胸でうけて、陽介がシュートをうつ。
ボールは大学生キーパーのわきの下をくぐり、ゴールネットをいきおいよくゆらした。
シュートのあざやかさに、おもわず遥飛も息をのむ。
「陽介さん、ナイスシュート」
「さすが、うちのエースストライカー」
隈取をした中浦の選手が、みんなで陽介をほめたたえた。
「技術的には、まだまだ未熟な部分もありますが、彼らが実力をつけているのはまちがいありません。もし、このまま大学生と練習をつづければ――」
雉原監督がAチームの選手をみまわす。
「きみたちをこえるかもしれない」
そういわれて、遥飛は雉原監督をにらみつけた。
「大鳳監督、提案があります。中浦FCと、うちのBチームで練習試合をしてはどうでしょうか。いまの彼らとBチームの実力差がどれだけあるのかをしらべたいのです」
「わかった。中浦と練習試合をくもう」
大鳳監督はタブレットを雉原監督にかえした。
そして、こう言葉をつけくわえた。
「練習試合には、わたしとAチームもついていく」
(つづく)
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