奇跡のアイデア 1
今年はワールドカップの年!
というわけで、サッカーにまつわるお話を投稿したいと思い、この『歌舞伎サッカー』を投稿することにしました。
連載期間は約3週間。
最後まで読んでいただければ、幸いです。
「きょうは監督からみんなに、だいじな話があるんだ」
中浦FCのキャプテン、鷹峰翔真はチームメイトの顔をみまわした。
5月の夕日に照らされたみんなの顔に緊張がはしる。
「みんな、よく聞いてほしい。中浦FCは浜井サッカークラブと合併して、なくなることがきまったんだ」
鳩山監督のかなしげな声が運動場にしずんでゆく。
言葉の直後に、翔真はもう一度チームメイトの顔をみまわした。
その場に泣きくずれるものはいない。
くやしさにこぶしをふるわせるものもいない。
ためいきこそつくが、合併を知って、かなしむチームメイトはひとりもいなかった。
それもそうだろう。
中浦FCには、たった8人しか選手がいない。
8人制のジュニアサッカーではギリギリの人数だ。
実力だって、風吹県に160あるジュニアサッカーチームでは下からかぞえたほうが、だんぜんはやい。
人も実力もないチームが、ほかのチームと合併してなくなることぐらい、小学生の彼らでもわかっていたのだ。
「ただし、すぐに中浦FCがなくなるわけじゃない。むこうの監督と相談して、合併は来年の1月までまってもらうことにしたんだ」
「だから、それまでは、みんな中浦FCの選手だ」
副キャプテンの烏丸陽介がいった。
「中浦FCがなくなるのをとめることはできない。そこで、おれと翔真は、きのう電話で話しあって、あることをきめたんだ」
「あること?」
まるまると太った鵜飼八雲が首をかしげた。
「ああ。おれたちがきめたことはな、最後まで、たのしくサッカーをするってことだ」
「ええと、ヨウちゃん、それってどうすればいいの?」
「どうするかは、おれにもわからん」
「ええぇ……」
「わからんが、これだけはいえる。いままでとおなじことをつづけても、おれたちはなにもかわらない。きっと試合に負けつづけるだけの8か月でおわる。そんなのいやだろ?」
みんながうんうんとうなずく。
「みんなに中浦FCの思い出を敗北だけでうめてほしくないんだ。どうせなら、最後まで中浦でサッカーをたのしくやりたい。そう思わないか?」
キャプテンの翔真の言葉に、今度はみんなが力づよくうなずく。
「あしたの放課後、会議をひらくから、そのときまでにひとりひとつはサッカーをたのしむアイデアを考えてきてほしいんだ」
「べつにサッカーだけにこだわるひつようはないんだぜ。練習のあと、みんなでカラオケに行くとか、夏やすみにバーベキューするとか、そういうアイデアでもいいんだ」
バーベキューという単語を聞いて、こどもたちは、
「バーベキュー、いいね。みんなでいっぱいお肉をたべようよ」
たのしげに顔をニコニコさせるのだった。
* * * * *
家に帰ると、すぐに翔真は社会の宿題にとりかかった。
宿題の内容は『日本の伝統をしらべる』。
翔真は図書室でかりた歌舞伎図鑑をみながら、歌舞伎について、しらべることにした。
「へぇ、隈取って、役によって色やもようがちがうんだ」
隈取は、歌舞伎役者の顔に赤や黒の線を描いて表情に迫力をだす特殊メイクのことだ。
図鑑には、ほかにも拍子木という木の棒をたたいて、お話のはじまりを知らせることや、刺身をたべる場面では本物のかわりに、そっくりにつくった赤色のようかんをたべることなどが書かれていた。
宿題をすませると、翔真はあしたの会議で発表するアイデアを考えることにした。
バーベキューやカラオケもいいが、ひとつぐらいはサッカーにかんするアイデアもほしい。そう思って、ノートにアイデアを書こうとしたが、
「う~ん」
いいアイデアがうかんでこない。
そうして、つくえにほおづえをついていると、
「ショウマー、カレーできたわよー」
階下から、母さんの声が聞こえた。
おなかもすいているので、翔真はさきにカレーをたべることにした。
1階では、母さんとおばあちゃんがカレーをたべながら『スターの恩人』というテレビ番組をみていた。
これは一流アスリートやトップアイドルをスタジオによび、彼らの監督や親友とのエピソードをVTRで紹介する番組だ。
「あっ!」
翔真がちいさな悲鳴をあげる。
「ウソ、きょうのゲスト、磯鴫選手じゃん」
画面にうつっていたのは、翔真が大好きなサッカー選手の磯鴫アラシだった。
「やばっ、はやく録画しないと」
翔真はあわてて録画の準備をはじめた。
「それでは磯鴫選手の親友である、雹二郎さんに登場してもらいましょう。恩人さん、いらっしゃーい」
司会者の声とともにセットの巨大とびらがひらき、なかから背のたかい男の人があらわれた。
歌舞伎役者の信天翁雹二郎だ。
「へぇ。サッカー選手と歌舞伎役者がともだちなんて意外だねぇ」
お茶をくみながら、おばあちゃんがそんなことをいった。
* * * * *
それを聞いた瞬間――。
翔真の頭のなかに、ある光景がうかんだ。
それは、まっしろな顔に隈取をした8人のこどもがサッカーをする光景だった。
「これだ」
歌舞伎とサッカー。
星と宝石のように、ちがうかがやきをもったふたつの存在が翔真の頭のなかでひとつにとけあい、きせきのアイデアが誕生したのだ。
「隈取をして試合にでるんだ。歌舞伎サッカーをするんだ」
「翔真、だいじょうぶ?」
ひとりごとをつぶやく息子を心配して、母さんが声をかける。
「母さん、ちょっと電話つかうね」
翔真は、いそいで副キャプテンの陽介に電話をかけた。
「はーい、カラスにマルで烏丸でぇーす」
電話にでたのは、運よく陽介だった。
「陽介か。おれだ、翔真だ。サッカーをたのしくやるアイデアを思いついたぞ」
翔真は、歌舞伎サッカーのアイデアを陽介に説明した。
「――ってアイデアだけど、どう思う?」
「…………」
陽介はなにもいわない。
――もしかして、あきれて、ものがいえないのかも。
きゅうに翔真は不安になった。
「陽介、いやならやらなくても――」
「最高だぜ!」
陽介の大声が受話器からとんできた。
その声があまりにもおおきかったので、あやうく翔真は受話器をおとしてしまうところだった。
「いいねいいね。そういうバカげたアイデア、おれは大好きだぜ」
「じゃあ、さんせいしてくれるんだな?」
「もちろん。歌舞伎サッカーか、こいつはたのしい思い出になるぞ」
そう語る陽介の声は、サッカーボールのようにはずんでいた。
このとき、翔真は知るはずもなかった。
自分の考えた歌舞伎サッカーが、ひとりの少年の人生におおきな影響をあたえることを。
(つづく)
更新は毎日19時におこなう予定です。
※このあと20時に『奇跡のアイデア 2』を投稿します!




