海守の家
海凪町は、小さな海の島だ。
人口は数百人ほど。
古い漁港と、坂道と、海の風。
観光客もほとんど来ない。
静かで、どこか懐かしい島。
境界の狭間
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その町の崖の上に、
**海守**と呼ばれる古い家がある。
海を見下ろすその家には、
昔から“変わった噂”があった。
――海に近すぎる家は、何かを呼ぶ。
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「うーん……もうちょっとかな」
キッチンに、甘い香りが広がっている。
オーブンの前で腕を組んでいるのは、
この家に住む少女――澪。
水色とピンクのセーラー服。
肩までの黒い髪。
光の加減で、わずかに青く見える。
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その肩には、黒い子猫が乗っていた。
青い瞳を持つ、小さな猫。
ルカ。
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「まだ?」
ルカが不機嫌そうに言う。
澪は振り向かずに答える。
「まだだよ」
「待つの嫌い」
「猫でしょ?」
「猫でも嫌いなものは嫌い」
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そのとき。
廊下の奥から声がする。
「焼けたか?」
澪のおじいちゃんだ。
大きな体に、日に焼けた顔。
見た目はまるで漁師だ。
でもこの人は、
海守の家の管理人。
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「まだだよ!」
「少しくらいいいだろ」
「ダメ」
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ルカがぼそっと言う。
「魚のほうがいい」
「またそれ?」
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そのときだった。
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ゴォォォォ……
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低い音が、海の奥から響いた。
澪の手が止まる。
「……今の音」
ルカの耳がぴくっと動く。
青い瞳が、海のほうを向く。
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ルカが、低く言う。
「……スクリューだ」
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おじいちゃんが静かに言う。
「強いな……今日は」
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海守の家の奥。
古びた木の扉。
その向こうには――
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海の倉庫。
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扉を開けた瞬間、
青い光が広がる。
そこは、海の中にある巨大な空間。
水が、空中で渦を巻いている。
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海のスクリュー。
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ぐるぐると回る水の中。
その奥で、何かが動いた。
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次の瞬間。
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バシャァァァ!!
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水がはじける。
何かが、外へと飛び出した。
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床に倒れ込む人影。
びしょ濡れの体。
見慣れない服。
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澪が目を見開く。
「……人?」
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男の頭には、青い帽子。
波と星のマーク。
胸の文字。
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Ocean Stars
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ルカが言う。
「人間だな」
澪が駆け寄る。
「大丈夫かな……」
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そのとき。
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水の中が、ゆらいだ。
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ゆっくりと、何かが近づいてくる。
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黒い髪。
静かな目。
海のような存在感。
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現れたのは――
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ポセイドン。
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彼は男を見て、静かに言う。
「またスクリューか」
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澪が聞く。
「この人、誰?」
ポセイドンは帽子を見て、少しだけ目を細める。
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「……ジェイク・カーター」
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澪
「え?」
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ポセイドンが言う。
「人間の世界では――」
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一瞬、間があく。
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「有名な男だ」
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そのとき。
倒れていた男の指が、わずかに動いた。
やっと澪の物語が始まりました!
次回は人物紹介をしたいと思います!




