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星を探す君と、

作者: 田山 歩



 暗い、星しか光源の無い草原の中、ステラは星を探していた。茶色いローブを被り、手には相棒の杖。その杖で地面を突きながら星を探す。


 普通『星』と言えば誰もが空に瞬く光を思い描くだろう。しかし、ステラが探しているのは空から落ちた星だ。暗闇を一瞬だけ昼間に変える箒星の落とし物をステラは探している。


 昨日の夜の光はこの平原に落ちた筈なのだが、中々見つからない。杖の先に仕込まれた磁石の反応は良い。だから此処で間違いないと思うのだが、一時間、二時間と歩き続けても星は見つからない。ほんの少しでも杖に当たれば、直ぐにでも塊が見つかる筈なのに毛程も手応えはなく、ステラは小さく息を吐いた。


「このまま夜明けにならなければ良いんだけど」


 空を見上げ、川の様な星々を見る。直ぐそこにあるのに手が届かないのは落ちても一緒だなとまた溜息を吐き、足と杖を動かした。

 草がローブを何度も擦り、次第に裾が重くなる。ステラは疲労が溜まった体を必死に動かした。疲れた、もう休みたいと体は駄々をこねたが、星探しをやめる事はない。

 何故ならそれがステラの使命だからだ。


 ――カツン

 

 杖先から振動が伝わる。何度も何度も感じた振動にステラは杖で草元を掻き分けた。


「やっと見つけた」


 星は拳大の大きさの物が一つ。その他に四つ落ちていた。どれも飲まれそうな程真っ黒な塊、しかし昨晩落ちたばかりだからか、まだ鈍くぼんやりと光っていた。

 それを見て安堵の息を吐いたステラは肩から下げた大きな鞄から袋を取り出す。その袋の中に手を突っ込み、ひとつまみすると星に振りかけた。


「空に還れますように」


 ステラは星を空に還す一族の一人だ。

 一族の名は無い。ただ星を空に還すという使命だけを与えられている。ステラが生まれるずっとずっと前、もう数えきれない昔からいる一族。全盛期は千人いたらしいが、今や一族は百人もいない。


 世界は広い。なので一族の減少は業務的に中々厳しい。しかし、星は空に還さなければならないもの。還さなければ星は更に大きな星を此処に連れてくる。それは星が寂しがりやだからだ。大きな星は大地に大きな大きな穴を開け、街を何個も吹き飛ばしてしまう。だからステラは昼も夜も星を探し歩いている。


 粉を振りかけられた星はキラキラと中から弾けるように輝いた。

 ステラは一歩後ろへ下がり、星の様子を見る。たまに興奮した星が此方へ飛んでくるからだ。星は大きさの割にとても重みがある。それに輝いている星はとても熱い。一度当たった事があるが、とても酷い目にあった。その時の火傷の跡はいまだ消えず腕に残っている。


 ステラはローブの裾を合わせ、杖を持つ手に力を込めた。星は今にも空へ飛び出しそうに震えている。しかし星は自力では空へ帰る事が出来ない。途中まではうまく行くかもしれない。だが、元居た場所へは到底届かない。それ故、ステラ達一族が存在するのだ。


 ステラは杖をぐるんと回し、宙に円を描いた。杖は何の変哲もない杖だ。しかしその杖は何もない空気だけ漂う宙に光る円を描く。細く光る線はステラの呪文と共に数を増し、発光を激しくした。朝日と見紛う程の光にステラは目を細めた。いつもの事ながら星の輝きは凄い。

 

 それはそうか。だからあんなにも遠い、何処かもわからない空の奥にあっても存在が分かるのだ。


 杖を持つ手が麻痺する程の熱は星が還る兆候だ。円の隙間から見えていた星の姿は杖から成った光に覆われもう見えない。だが、此処にいるのだという主張激しい原色の光が仄かに漏れていた。

 

 ビリビリとステラの手が震える。緊張を感じるのはいつもこの瞬間だ。ステラの固い意志を揺さぶるように手から飛び出そうな杖。少しでも気を抜けば杖は地面に落ちるだろう。しかし、ここで杖を落としては全てが台無しになってしまう。力の行き場を無くした星がこの地で弾け飛んでしまう。


 手から消えた感覚を細い糸を探すようにかき集め、ステラはきつく杖を握り締めた。星から発せられる熱、そしてステラが集めた風が自身の体を後ろへ押す。履き潰したブーツが地面にめり込む。靴底が薄くなっているからか、地面の熱が足の裏に伝わった。


「還ろう、還りましょう」


 呪文の隙間に入れる言葉は懇願だった。歪めた顔からなる言葉は希望よりも解放を願うものに近い。それはそうだ、ステラにとってこれは苦行以外何でもないのだから。


 星が目を潰す程の光を放つ。チカチカと眩暈にも似た瞳の奥の閃光を感じたのは一瞬。次に来たのは踏ん張る事が出来ない程の強い風。

 ステラは瞼を開けた。星が落ちていた地面を見て、そして空を見上げる。まだ眩しいくらいの光だ。段々と地面から飛び立った星は小さくなり、やがて他の星と同じような光になるだろう。

 

 空に還った星にステラは安堵し、その場にこてんと座り込む。熱くなった顔を手の甲で触れ、大きく息を吐いた。


「良かった、夜明け前に終わって」


 ぎゅっと縮こまった膝を抱え込み、ステラは再度息を吐く。星を還すという行為は何度経験しても慣れない。失敗したら死ぬ事もあり得る為、慣れる事はきっと一生ないのだろう。


 解けた緊張からかステラの瞼がうとうとと何度も落ちてくる。膝を抱えた手も、元から力が無くなっていたからか、いとも簡単に解け、地面に落ちた。そうすれば後は体が地面に倒れるだけ。


 そうしてステラは明けつつある夜空に見守られながら意識を手放す。草を踏み締める音が微かに聞こえた気がした。





 太陽が昇り、もう数時間も経っていた頃、ステラはゆっくりと覚醒をした。体を包む柔らかい感触に心地よさから頬擦りをする。しかし、ぼやけた頭が違和感を告げ、ステラはふわりと瞼を上げた。

 ステラが最後に見たのは還る星と焦げた草の匂い、それと熱さを感じる固い地面。だが自分がいるのは間違いなくベッドの上である。


「……ん?」


 確かに体力が尽きて倒れた自分が悪いのだろうが、自分の知らない記憶が何処かにあるというのは気持ちが悪い。何故自分が此処にいるのか分からず、ステラは急いでベッドから飛び降りた。


 一体何がどうなって、と寝起きのぼやけた頭で考える。しかし、意識を失っていた時の記憶などあるはずもなく、ぼやけた頭では何も考える事が出来なかった。


「ステラ、起きたよな、物音がした」


 ガチャリと聞き覚えのある声と共に扉が開く。ステラは目を見開いてその人物を見た。


「リヒト」


 そこにいたのは黒髪のステラが良く知る青年だった。男性にしては少しだけ長い髪にかかったウェーブが彼にとってコンプレックスであると知ったのはいつだったか。真っ黒な髪と同じく黒い瞳にステラはどきりと胸を鳴らす。


「座って。お腹空いてるでしょ?」


 そう言ってリヒトはお粥とお茶を部屋の隅にあるサイドテーブルに置いた。ほこほこと湯気が上がっているのを見るに出来立てなのだろう。


「あ、うん」


 いまだ理解を終えていない頭はすっきりとしていないが、断る理由もない。ステラはぽやぽやとした頭のまま、流されるがまま引かれた椅子に座った。

 

 どうしてリヒトが此処にいるのだろう。

 ステラは浮かぶ疑問を口にはせず、マグカップを口元に運んだ。お茶が口内を焼かないよう、ふうふうと冷ましながら湯気越しにリヒトを見る。


 リヒトとはもう数年の付き合いだ。具体的な年数は思い出せないが、ステラが独り立ちして直ぐの頃に出会った。流浪の民であるステラには友人はおろか知人さえも少ない。一族と会うのも稀だ。

 

 だというのにリヒトは一年の内、三回はステラの前に現れる。山を越えるのは当たり前、国や海も渡るステラの元に。

 一体どうやって探しあてるのか分からない。けれどもステラがリヒトの声を忘れそうになる前に必ず会いに来る。

 それ故、仕方がないのだろう、ステラはリヒトの事が好きになってしまった。

 

 リヒトを好きになる前のステラはただ星を還す事が仕事だった。しかし、リヒトを好きになってからはリヒトが住む世界の為に星を還さなければと思うようになった。

 リヒトはステラに知られていないと思っているが、ステラはリヒトがある国の王子だと知っている。

 国を守る王族である彼の為に、彼の心配が少しでも減るように、この世界を守ろうと思ったのだ。


 ステラがジッと見ていたからか、リヒトが小首を傾げた。


「ん?」


 どうした?と柔く笑まれ、ステラの胸が高鳴る。ステラは胸をおさえながら何でもないと首を振る。

 

 本当は何でもなくはないのだろう。色々と聞きたい事はあるが、如何せん浮ついてあるのと寝起きだからか言葉が中々出てこない。ステラはふよふよとウェーブするリヒトの髪を見ながら少しだけ冷めたお茶を飲み込んだ。


「どうして宿屋にいるか聞かないの?」


 そうリヒトが尋ねたのは木製のスプーンを手にお粥を半分程食べていた時だった。もぐもぐと咀嚼していたステラは動かしていた口をピタリと止める。

 器から視線をリヒトへ向ければ、少しだけムッとした顔をステラに向けていた。ステラは止めていた瞬きを二、三度素早くするとスプーンをテーブルに置く。


「聞いてもいいの?」


 胃に物を入れたからか、ステラの頭は少しづつ覚醒していた。きっとリヒトが宿屋まで運んでくれたのだろうと理解する程には。そうでなければリヒトが此処に居る訳がない。

 でもそれを聞くのは野暮だと思ったのだ。だから聞けずにいた。


「寧ろ聞くべきだと思うけど。外で寝てたのに起きたら宿屋って不安だろ」


「なった、なったよ不安に。汚い服と体で寝ちゃったから少し上乗せしてお金払った方が良いのかなとも思ったし」


 リヒトは眉根を寄せた。


「僕が宿屋に連れてきたんだから、僕が全部払うに決まってるだろ」


 気にするところそこ?と呆れられ、ステラはしゅんと体を縮こませる。


「いやだって、泊まったの私だし。やっぱり」


「僕が連れて来たんだからステラはお金の事気にしなくて良いんだよ。それに女の子を外に放置しておくわけにはいかないだろ」


 どうしてだか、リヒトから苛立ちを感じた。会ってからほんの数分の内に何かしただろうか。ステラは起きてから今までの事を思い返すがこれと言って何も思い浮かばず、きゅっと唇を結ぶ。

 リヒトはそんなステラの様子を見て、ガシガシと頭を掻いた。


「心配なんだよ、女の子だろ」


 ステラはパチクリと目を瞬いた。「おんなのこ」と口の中で呟けば、ボボボと顔が紅潮する。


「気をつける、気をつけるね!」


「うん」


 心配させるのは良くないと思うが、リヒトに心配されるのは何故だか少し嬉しい。ステラはポッポする頬をお粥のせいにする為にパクりと口に放り込んだ。

 そしてもぐもぐと咀嚼しながら、湧き出た疑問を嚥下すると共にリヒトへ投げかけた。


「どうして、あそこに?」


 ステラの問いにリヒトは思案するように視線を彷徨わせる。


「いつもと同じ。ステラを探してた」


 ステラは目を丸くし、気の抜けた声を出した。


「いつも思うけど凄いねえ。前回と国だって違うのに」


「……まあね」


「どうやって探してるの?」


 リヒトは真っ黒な瞳を左右に往復させた後、じっとステラを見た。しかし微妙に視線は合わず、ステラはスプーンを口元に運んだまま振り返った。後ろにあるのは木製の壁などの無機質だ。小首を傾げ、ステラは改めてリヒトを見る。


「教えない」


 ほんの少しだけ口角を上げたリヒトと目が合う。ステラは「そっか」と短く答え、お粥を口元に運んだ。教えてくれないのであれば仕方がない。


「ステラ、今日は買い物いいの?」


 リヒトの問いにステラは鞄の中身を考える。消耗品はほぼ半分以下だ。


「したいかも。ご飯食べ終わったらお出掛けしよう。一緒に買い物しようよ」


 ステラの提案にリヒトも微笑み、頷いた。


「僕もそうしたいと思ってた」


「やった」


 スプーンを握ったまま、手を揺らす。ステラは目の前の料理達をもぐもぐと咀嚼しながら、買いたいものを頭に浮かべる。その様子をリヒトは柔い笑みを浮かべながらずっと見ていた。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




 ステラの食事が終わると二人はすぐに買い物に出かけた。いうて消耗品。ステラの買い物はすぐに終わり、二人は散歩がてら町を散策中である。


「持つ」


 そう言いながらリヒトが手を出した。何を?とステラは思ったが、どうやら鞄のようだった。確かに重い、重いが……


「大丈夫。重いし、鞄汚いと思うから」


「汚いとか気にしないし、重いなら余計に持ちたいんだけど」


「いい! いいいい!」


 そんなに拒絶をするならばとリヒトは手を引っ込めた。しかし、ほんの少し唇が尖っている。

 

 ステラだってリヒトの申し出は嬉しかった。こんなボロボロな自分でなければ喜んで鞄を渡していただろう。


 ステラはにへらとリヒトに醜い感情を悟られないよう笑った。


(買い物中だって、今だってそう)


 常にステラは鋭い女性の視線に晒されていた。もしかしたら男性も含まれていたかもしれない。リヒトは王族だからか身なりが良い。だからだろう、道行く人はリヒトに恍惚とした表情を向けていた。

 でもステラを見る目は違う。スンと冷めている。ステラはその視線にいつも怯えてしまう。自分が恥ずかしい存在なのだと思い知らされるから。

 リヒトから離れればそんな視線からも逃れられるのだろう。そう、ステラだって分かっている。だけども、どうしても踏ん切りがつかない。

 リヒトから切られるのは良い。受け入れられる。でも自分から離れるという事はどうしても出来なかった。

 

「少し座る?」


 ステラの鞄をしきりに気にしていたリヒトの提案に頷き、二人横並びで腰掛ける。よいしょと重い鞄を膝に乗せれば、再度リヒトが「持つよ」と言った。


「ううん、大丈夫。多分臭うから」


 リヒトは目を丸くした後、呆れたような声を出す。


「朝もだけど、臭いに気にしすぎない? 別にステラは臭くないよ。そんなに気にする事じゃない」


「だってすっごく気になっちゃうんだもん」


 膝の鞄を抱え込み、すんすんと匂いを嗅ぐ。しかし、常に一緒な鞄の匂いはステラには分からなかった。

 リヒトは基本無理強いしない。だが最近妙にステラに対して気を使っている気がした。鞄を持つ提案もそうだし、ご飯を用意してくれる事もそうだ。それに前回はお守り代わりとピアスをくれた。そんなに気にしなくてもいいのにと思う反面、喜んでいる自分もいる。


「ねえ」


 ステラが一人浮き沈みしていると、不意にリヒトが短く呼びかけた。その声は何故か少し固く、ステラは首を傾げながら返事をした。


「うん?」


 真っ黒く綺麗な瞳が真っ直ぐにステラを見ていた。


「ああいう事はよくあるの?」


「ああいう事って?」


「外で倒れるっていうか、寝る事」


 ステラは数度瞬きをした。


「あるよ」


 今回はたまたまリヒトが宿屋に運んでくれたが、星を還した日はそのまま外で過ごす事の方が多い。ほぼ気絶に近い倒れ方をする為、仕方がない事だとステラは諦めていた。


「危なくない?」


 危ないか、そうでないかと言えば危ないだろう。幸いな事に今まで大事は起きていない。その為、ステラの中での危機感は薄い。


「う~ん」


 しかし大丈夫と胸を張って答える勇気はない。本当はちゃんと意識を保ち、近隣の町へ向かう方が良いのは分かっている。だが気絶のコントロールは出来ないのだから仕方がない。

 唸り声で場を濁せば、リヒトがぽつりと呟いた。


「もう少し早くするか」


 辛うじて聞こえた言葉にステラは薄青の瞳をぱちくりと大きくした。零れんばかりの瞳にリヒトは暫し考えたあと、ふわりと笑う。


「気にするな」


 そう言われると気になるものだが、何を早くするのか見当もつかないステラは黙るしかない。少しくらい質問してもと思ったが、質問したところで答えてくれないかもしれないと思うと言葉は出なかった。

 こくんと頷き、ステラは膝の上の鞄をぎゅっと抱き締めた。

 ふと、頭上に暖かさを感じ空を見上げる。そこには星が見えない青い空が広がっていた。



 

 ベンチで二人近況やそれ以外の小さな話をしているとあっという間に夕方になった。一度宿屋に帰り、ステラのみチェックアウトをする。ステラはこれからまた落ちた星を探しにいかねばならない。ローブを着込み、重くなった鞄に相棒の杖を片手に持ったステラは朝会ったばかりのリヒトに手を振った。


「元気でね、ばいばい」

 

 笑顔で手を振るステラとは対照的にリヒトは複雑な、気難しそうな顔をしていた。最近のリヒトは別れの際、よくこの表情をしている。昔は笑顔で手を振ってくれたのに、とステラは少しだけ寂しくなった。


 リヒトはすぐに笑みを作り、ステラに手を差し出した。いつもと同じ別れの儀式にステラの目尻が下がる。杖を脇に挟み、両手でリヒトの手を握った。


「怪我はしない。あとなるべく外でも寝ない。寝る時は何かしら対策をしてから寝るんだぞ」


「ふふ、気をつけるね」


「笑い事じゃないだろ」


 するりと握った手をリヒトが撫でる。言葉は怒り気味だが、触れる手は優しくステラはむず痒くなった。

 暫く手を握り合っていたが、もう太陽はほぼ隠れている。いつもならもうとっくに星を探している時間だ。名残惜しさは離れるまで消えないだろう。ならばとステラはリヒトの手からするりと手を離す。


 しかし離れた指先をリヒトが掴んだ。口をへの字にし、ステラは黒い瞳を見上げる。


「またな」


 しっかりと目を見て言われた別れの言葉にステラは頷く。寂しい、と思う。でも笑わなくては、ともステラは笑った。


「気をつけてね」


 ステラの笑みをリヒトは何か言いたげに見ていた。はくりと口が開く。しかし何も音にはならず、ぐっと握っていた指が離される。そして自分の胸ポケットからネックレスを取り出した。


「行く前にやっぱりこれつけて」


 ステラがネックレスをまじまじと見る間も無くリヒトが首に手を伸ばす。


「頭下げて」


「あ、うん」


 前から腕を伸ばされている為、まるで抱き締められているようだ。自分とは違う香りにドキドキと胸が高鳴る。


「お守り代わり」


 そう言ってリヒトが一歩下がった。ステラは自身の首に下げられたネックレスを掬い上げるように見た。


「綺麗」


「ステラ、また。また来るから。ネックレスなくしたら駄目だからな」


 ステラは乳白色の中で様々な色で光る石を見ていた。ステラがいつも見る星は暗い夜に瞬くが、これはそれとは正反対の中で輝いている。


「ステラ」


 ステラは再度呼ばれ、ハッとリヒトを見る。


「喜んでくれたのは嬉しいけど、またな」


 ステラが好きな笑みを浮かべ、リヒトは念を押すように「またな」と言った。

 ネックレスの事で頭がいっぱいなステラは光る石をぎゅっと握り、頷いた。


 ありがとう、そう言おうとしたステラの視界の端で星が流れる。慌ててステラは雑にリヒトに手を振り背を向けた。

 背後で「またね」というリヒトの声が聞こえた。

 




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎





 リヒトに最後に会ってからどれ程、月日が経過しただろうか。基本日を数えないステラは気温や太陽の位置でそれを考える。

 恐らくリヒトに会ったのは夏前のまだ夜は肌寒い日だった。今は真夏も暑さも秋の雨季も終わった冬の初め、つまりリヒトが来たのは凡そ半年も前の事になる。


 別に半年空く事は珍しい事ではない。しかし、日が空けば空くほどに妙な焦燥感がステラを襲った。その度にステラはネックレスの石を握り締める。

 

 その焦燥感を宥めようと自分のような旅人は忘れられるのが常だと、自分にとって彼は友人でも彼にとっての自分は知人の一人でしかないと言い聞かせる。たとえその度に胸が痛んだとて、それが事実だと分からせるしかない。来るべき時が来たのだと。

 

 正直、言い聞かせている時間はとても虚しい。しかし、ステラはそうやって生活するしかない。災害を齎す星を還すのはステラ達の一族の使命。

 それをやめれば、この世界が少しずつ壊れていく。山が、森が、川が、そして国と村が空虚な黒いものに変わってしまう。リヒトの国も被害を当然受けるだろう。そうしたらリヒトやリヒトの家族、友人、大切な人達も何かしらの被害を受けるかもしれない。

 

 ステラにとってリヒトは自分の世界の中心だ。そのリヒトが悲しむ姿は見たくない。

 それに孤独はステラにとって自分の一部である。あるのは当たり前で、無くなる事はない。ずっと自分の影のようについてきて離れない。だから一人でいる事はなんて事ない。リヒトが居なくても太陽は落ちるし、朝日は昇る。一人でそれを眺める事はステラにとって普通の事だ。それを寂しいと思うのもまた普通の事。

 



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




 今日も星が落ちる。おっちょこちょいな星達は戻される事を知っているのか、尾を光らせながら落ちて行く。

 遠くに見えた星をステラは長年の経験からくる勘で探し当てた。

 今日の星は少し見つけるのが遅かったからか不機嫌そうに見える。ステラは星を見下ろし観察した後、いつもより距離を取り杖を構えた。


 これも長年の経験からくるものだが、どうも嫌な予感がしたのだ。ステラは星から視線を逸らさず鞄に手を突っ込み、粉を投げつけるように星に振りかけた。


 粉を掛けると星はジジジ……と震えた。小刻みに何度か音を途切れさせながら震えている。心配は杞憂だったのかもしれない。星は思ったより素直に還りそうに見える。

 ステラはならばと一歩近付き、大きな一呼吸のあと呪文を唱え始めた。

 ジジ、ジジ……と震える音が段々と光る円に消されて行く。これならすぐに終わりそうだ、そう気が緩んだのがいけなかったのかもしれない。


 違和感は一瞬。あれ?とステラが思ったと同時に円が弾け飛んだ。その破片が砂塵のように宙を舞い、覆われていた星が露わになる。


「え……」


 ステラは息を呑んだ。それは確かに小さな石ころ程度の大きさだった筈。しかし、今目の前にある星はどう見ても拳大の大きさになっていた。


「どうして」


 ステラは初めての事に恐怖した。

 いくつもあった屑のような星達もいない。きっと複数の星が一つになったという事だろう。その事実だけでも恐ろしいのに、ステラが一番驚いたのはその色だった。まるで何時間も、何日も何年も炎に晒されたように濃い赤。そう、まるで心臓に違い血液の色をしていた。

 禍々しい赤にステラの呪文が止まる。手だけが杖を落とさんと力を入れていた。

 

 ジジジジジジジ、その音が星ではなく、星の内部から聞こえる事に気付き、ステラの口が緩く開いた。星の内部から聞こえる音と煙。ゆるりと優雅ささえも感じる半透明な灰色の空気は星の上をぐるりと一周するとステラの方へ風に流れてきた。

 鼻腔を襲ったのは土の香り、それと紛争地域特有の香りにハッとステラは目を見開く。しかし気付いた時には既に遅く、ステラの耳元で爆発音が響いた。


 地面に投げ飛ばされる体。咄嗟にローブの前を掴み、身を丸めた。それでも鋭い何かが体を削ったようだ。杖を辛うじて包む手から力が抜ける。ステラの視界は真っ暗になった。





「ステラ、ステラ」


 此処で聞こえる筈もない声が聞こえた気がした。ステラは一瞬失った意識を感じた振動で戻し、力無く瞬きをした。一度ではぼやけていた視界も数度繰り返せば全てを鮮明に映し出す。そこにいたのはリヒトだった。


「リ、ヒト」


 体に感じた振動はリヒトがステラの体を揺らしていたからだった。必死な形相でステラを見ていたリヒトは、ステラが動くのを見ると一瞬動きを止めた。安堵したのだとは思う、しかし安堵だけではない固い表情をしていた。

 ステラはリヒトを認識後、すぐに自分が何をしていたのか思い出した。久方ぶりのリヒトに喜びたいが、それは今ではない。力が宿った瞳でステラは地面に手を置く。酷く体が痛んだが、動かさなければ立ち上がれない。杖を持つ手が特に鋭く痛む。流血しているせいで傷口も見えないが、深く切れているようだ。


「リヒト、下がってて。できれば近くの村まで」


 リヒトを見ずにステラが言う。

 星はまだ挑戦的に爆ぜていた。一度暴発した為、少し収まっているが先程と比べてだ。二度目の暴発はないとは言い切れない。


 ステラは服の一部を強引に破り、利き手に巻き付けた。どろどろと流れる血で杖がうまく持てないからだ。しかしそれもいつまで持つか。長年着倒したヨレヨレな服は生地が薄くなっている。血を吸い込む限界はすぐに来る。それでもしないよりはマシだとステラは杖を落とさぬように握り締めた。


 バチバチと跳ねる星を封じる為にステラは再度呪文を口にした。雑念を消し、力強い声で唱えた呪文は言い慣れている筈なのに別の言葉のように感じた。早くも滑る杖が煩わしく、呪文を唱えている筈なのに星は歪な輝きを止めない。この星はイタズラ好きでやんちゃなのかもしれない。しかし、それでは困るのだ。


 漏れてはいけない呪文以外の言葉がステラから漏れそうになる。ちゃんとしなければという気持ちとちゃんとしているという気持ちが空っぽな筈の頭で言い合いを始めた。こんな事考えている場合ではないのに、これ以上大きな爆発が起きては大変なのに。


 そんなステラの動揺を察してか星の一部がバチンと飛び跳ねた。ステラの手にカケラが当たる。ジュッと焼かれる音と痛みが走り、ステラの手から杖が落ちた。


 元々力が抜けていた手はピクリとも動かず、杖はなんの抵抗もなく草の上に落ちた。宙を掴もうともしなかった手から血が滴る。その赤い赤い雫が杖に落ち、ステラは浅く短い息を吐いた。ふるふると震える唇は呪文を唱えようとする。しかし、杖を落としたショック、様々な痛みで上手く口が動かない。それどころか頭も動かない。


 やらねば、やらねばと頭の中で声高に叫ぶ自分。ステラはその声にそうだ、そうだと反応をする。でもどうしてだか体は震え、何も出来ない。


 やらねばリヒトがいる世界が壊れてしまう。彼の幸せが、ステラの全てが。


「ほし、ほ、しを」


 譫言にも似た声が漏れる。

 星を還さなければ。それがステラのやるべき事なのだから。それしか出来ないのだから。

 

 ステラは地面に落ちた杖を見た。赤く染まった杖は相棒の筈なのに別のものに見える。ゆらゆらと揺れているのは自分なのか、地面なのか。

 分からない。だけども杖を取り、やるべき事をしなければ。


 ステラは地面に手を伸ばした。ギギギと油の切れた機械のような動きで。

 しかし、それは横から伸びてきた腕によって遮られる。

 ステラはハッと視線を上げた。


「リヒト、なんで」


 そこにいたのはリヒトだった。

 ステラは目を見開いたまま、泣きそうな声を出す。


「な、なんで、避難、避難しないと」


 困惑、焦りと様々な凡そ良くない感情がステラを揺さぶる。リヒトは悲しそうな顔をしていた。しかしステラはそれさえも気付かず、何度も「避難」と口にする。

 

「ステラ」


 リヒトの声は必死に何かを制御しているような声だった。それは声だけでなく体全てなのか、杖の軋む音が聞こえた。


「魔法は使えないけどな、ステラを支えるくらい出来る」


 そして差し出された杖。その杖はほんの少し震えていた。ステラは杖を一瞥したあと、ゆっくりとリヒトへ視線を戻す。そこで初めてステラはリヒトが泣きそうな事に気が付いた。今にも涙が溢れそうな黒い瞳は溜まる水分のせいか、皮肉な事にいつもより輝いて見える。

 まるでそう、星のように。


 ぐちゃぐちゃになっていた気持ちが凪いでいくのをステラは感じた。それはリヒトが泣きそうだったからだとか、そういう理由ではない。ステラにも理由は分からない。でも確か視界が開けたような感覚になった。


 ステラは顔から力を抜き、笑んだ。そして杖を手に取る。前を向き、杖を構え星を見た。そのステラの背後からリヒトの手が伸びる。触れた手は熱く、少しだけかさついていた。力強く覆われた手にステラの手がぴくりと反応する。背中に感じる熱も、手の温度もステラが初めて感じるものだった。

 星の爆発を見た時の不安がリヒトの体温に溶けていく。


「空に戻れますように」


 ステラの願いに星がパチリと音を立てた。始まりの音は小さい、しかし一度爆発をした星だ。そう簡単に空へは還らないだろう。ステラは杖を持つ手に力を更に込め、口の中で呪文を練る。もう唱え慣れた呪文だ。ステラ達しか音に出せない呪文。


 いくつもの円が星を覆い、その中で星が暴れているのが分かる。だがもう出しはしない。空に還って貰うのだ。


 熱が増す度にリヒトの手の力が増す。

 もう限界な筈の体の何処に力が残っていたのか、ステラはリヒトに呼応するように脚の力を込めた。もうそろそろだ、もう少しで空に還る。


 ブォンブォンと風を裂く激しい音。閉じ込められた星が暴れている。ステラは呪文の最後の一節を一息で唱えると、小さく息を吐いた。


「お還り、空へ」


 パキン、と円が割れる。星を中心に風が吹いた。小さな旋風はひと瞬きもしない内に先の見えない空まで背を伸ばす。あたりの空気を全て巻き込もうと風というには暴力的な集まりがステラとリヒトの体を襲った。


 途端、耳を裂く轟音が耳を掠る。巻き上がる風にステラの体が一瞬浮き上がった。しかし、それはリヒトによって地に戻される。強く握られた手は二人が一つのものであるかのように離れない。食い込む指が痛いとは思わなかった。寧ろステラはその手に安心した。


「見ろ」


 リヒトの声にステラは空を見上げた。風の残りが顔をそよりと撫でる。目を細め、リヒトが指差す方を見れば先程まで此処にいた暴れん坊の星がいた。

 皆と同じように、いや自己主張激しく光っている。


「良かった」


 力は尽き果て、ステラの体が前のめりで倒れる。それをリヒトが支えた。


「座るか?」


 ステラはぐったりと頷いた。リヒトは分かった、とステラの体を抱えながら地面に座った。後ろから抱えられるような体勢はステラが普通の思考の時であれば顔から火が出る程慌てるだろう。しかし、今の精も根も尽き果てたステラにはそんな感情の揺れもない。ただ他人の体温と心音が心地良く、うつらうつらと瞼が下がった。


「ステラ」


 リヒトがステラの傷ついた手を握った。鋭い痛みで下りていた瞼が勢いよく上がる。、その開いた瞳でリヒトを見上げた。


 くしゃりとした顔と目が合い、ステラは息を呑んだ。今日はこんな、泣きそうな顔しか見ていない。不安になり、ステラはリヒトに掴まれた手をそのままリヒトの頬へと伸ばす。しかし、あと数センチのところで自身の手が赤く染まっている事を思い出し動きを止めた。

 黒曜石のような瞳はステラしか見えていないようで、止まった手をリヒトが自分で頬に添わす。すりすりと、ステラの血がつく事も厭わず頬を擦り付けた。


「怖かった」


 リヒトの声は掠れていた。


「ステラが一人で消えるんじゃないかって、怖かった」


 リヒトが祈るように目を閉じた。その閉じた瞼の間から雫がぽろりと溢れる。触れている指先がしとりと濡れ、それが伝染したのかステラの目からも涙が溢れた。

 

「言いたい事はたくさんある。本当にたくさん、一晩でも二晩でも足らないほどに。でも今は、言わない、言えない」


 大きな息を吐き、リヒトは瞼を閉じた。ぼろりと涙が落ちる。しかしその間もステラの手を握る力は緩まない。寧ろ一層強くなっていった。


「いや、でもやっぱりこれだけは言わせろ」


 開かれた黒い瞳は涙を流しているものの強い。、覗き込まれるような体勢で見られ、ステラの視界にはリヒトしかいなくなった。


「ステラを大事にしたい」


 リヒトは繰り返すように「大事にしたいんだ」と言い、握っていた血だらけのステラの手を離した。そして両手をステラの頬に添える。伝染した涙をリヒトが掬った。


「本当は傷ついてほしくもない。でもこれはステラ達にしか出来ないんだろう? だったらその傷を僕に治させろ」


 ステラは「あ、」と思い出した。自分の耳に輝いているピアスを貰った日の事を。その日も傷ついてほしくないとリヒトは言い、ネックレスと同じように「お守り」とこれをくれたのだ。


「気絶だってしてほしくない。でもそれも、きっと難しいんだろう。ならその時に僕が守る」


 ステラは震える手を動かし、ピアスに触れた。ほんのり冷たい感触が指先に伝わる。


「笑っていてほしい、僕は心からステラに笑ってほしい」


 リヒトの言葉は懇願に似ていた。或いはその通りなのかもしれない。苦しさを覚える程の、涙腺を揺らす程の声にぼろぼろと訳もわからず涙が溢れて止まらない。だらだらと流れる涙が頬を伝い、耳を辿り、地面に落ちる。水溜りが出来てしまうのではないかと思う程の涙。だが、止める事は出来なかった。


「わたしも、リヒトに笑っててほしいの。幸せになってほしくて、」


 だからステラは星を還していた。リヒトの世界を守りたかったから。リヒトの世界を守ればリヒトが笑顔でいられると思ったから。でもそれは違ったのかもしれない。


 リヒトは目を少し見開いた後、すぐにくしゃりと目元に力を入れた。ほぼ座位を保てていないステラの肩に顔を寄せる。大きく息を吸い込んだ音が聞こえた。


「僕に笑ってて欲しいんだったら怪我するな。自分を大事にしろ。それで」


 リヒトが顔を上げた。またステラの視界はリヒトだけになる。ぼやける視界で見たリヒトの目は涙で赤く充血していた。それさえも愛おしいとステラは目元に手を伸ばす。そしてその手を取られた。


「僕の見える範囲にいろ。守るから、支えてみせるから」

 

 ステラはリヒトの瞳の中に星を見た。強い輝きは先程還した暴れん坊の星のよう。じわじわとステラの体にリヒトの言葉が染み込む程に胸に広がる経験のない締め付け感。込み上げる感情を迷う事なくステラは言葉にした。


「いる、側にいる」


 リヒトと共に生きる事をステラはとうの昔に諦めていた。旅をし続けなければならないステラと国を守る王族のリヒト。どちらも捨てられないものだと思っていたからだ。

 だが、もしかしたらそうではないのかもしれない。


 泣きじゃくるステラを慰めるようにリヒトが頭を撫でる。二人の涙が混ざったかのような雨が静かに大地を濡らした。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎





 あの後、意識を失ったステラはまたリヒトにより宿屋に運ばれた。ふかふかなベッドで目を覚ませば既に怪我の処置は終わっており、真っ白な包帯が手や足に巻かれていた。

 それから数日、リヒトは言葉通りずっとステラの側にいた。どうやら怪我の処置も最初から最後まで彼がやったらしい。ステラはそれを聞いて驚き、そして胸がほっこりと暖かくなった。


 そして今日、ステラの旅がまた始まる。


「怪我しないで」


「気をつける」


「外でも寝ない」


「それも気をつける」


 幾つもの言いつけにステラは微笑んだ。守れそうなものもあれば不可抗力なものもあるが、取り敢えず守る努力は怠らないつもりだ。


 ニコニコ笑うステラとは対照的にリヒトはまたブスっとしており、ステラは声を出して笑った。


「またすぐ会えるってリヒト言ってたよ」


「それとこれとはまた違う」


「ふはっ」


 ステラには違いが分からなかったが、リヒトが自分を恋しがっている事だけは分かった。それがむず痒くなる程嬉しくて頬が緩む。


 ステラだってリヒトと離れるのは寂しい。何日も一緒にいたのだから尚更だ。でもまた会う事が出来ると確信しているから耐えられる。


「またね。今度会ったらまたたくさん話そう」


 リヒトはハッとステラを見た。瞬きもせず、表情も変えずに。


「またね、リヒト」


 ひらひらとステラは手を振る。いつもと同じようで違う動作。段々とリヒトの目に力が入る。そして、ステラの肩に頭を置いた。ゆっくりと探るように手が背中に回る。

 ステラは突然の接触に驚いたが、肩が湿り気を帯び始めたので何も言わず、自身の腕もリヒトの背中へ回した。


「ああ、ステラ……また、またすぐに」


 掠れた声がすぐ横の鼓膜を揺らした。ステラは頷き、空を見る。まだ見えない筈の星が輝いて見えた。





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