第007話 極振りヒーラー、初めての交流
ナンバリングを間違えるという凡ミスを修正^^;
ログインの光が消え、視界がゆっくりと開けていく。
朝の陽ざしが差し込む街の広場は、今日もプレイヤーたちの活気であふれていた。
露店の呼び声、鍛冶屋のハンマーの音、魔法の光を散らしながら走る子どもアバター。
――まるで本当に生きている街みたいだ、とステラは思う。
「よし……今日もがんばろう」
昨日の虹粘体スライム・ロアとの戦いを思い出しながら、ステラは新しく手に入れた《リストア・ヴェール》のスキルウィンドウをもう一度確認した。
(バリアの耐久値は、超過回復量と同じ……私なら、ヒール一発でかなりのバリアを張れるってことだ)
まだ実戦では試していないが、これがあれば致命的な一撃を一度は耐えられる――はずだ。
胸の奥が少し高鳴る。昨日の恐怖はまだ消えていないけれど、その分、挑戦への期待も混ざっている。
そんなとき、ふと視界の端にひとりのプレイヤーが映った。
彼女と同じく杖を手にした女性プレイヤー。
深い群青色のローブに黒いレースがあしらわれ、腰には小型の魔導チャーム
――魔法文字が浮かぶ薄い本型の装飾が揺れている。
落ち着いた色合いの中に赤いラインが映え、知的で上品な印象を放っていた。
「わぁ……かっこいい……!」
ステラの装備は初期ローブで、淡い青と白のシンプルなもの。
あの装備には見惚れてしまうような存在感があった。
意を決して、ステラはそのプレイヤーに近づく。
「す、すみません!その装備……どこで手に入れたんですか?」
「え?あ、これ?」
女性プレイヤーは振り向くと、にこっと笑った。名前は《リリア》。
「これね、生産職のフレンドに作ってもらったの。素材は《紅魔石》っていうレア鉱石で、魔力の通りがいいのよ。ちょっと燃費悪いけど、魔法職にはピッタリ」
「生産職……!」
ステラの目が輝く。戦うよりも、何かを作るプレイヤーたち。
最近、街の広場でも時々見かける。
「よかったら紹介しようか?ステラちゃんにも似合いそうな装備、作ってくれると思うよ」
「えっ、本当ですか!?お願いしますっ!」
リリアは笑ってうなずくと、少し雑談を交えながら歩き出した。
「それにしても、ほんと回復職って人気ないのよねぇ。攻撃も防御も中途半端だし、ソロじゃ稼げないし。今どきみんな“火力こそ正義!”って感じだから、ヒーラーやってる人見ると逆に尊敬しちゃう」
「えへへ……私は、死ぬの怖くて。でも、友達とパーティー組んだとき、助けてあげられたらいいなって」
ステラは照れ笑いを浮かべながら答えた。その素直な言葉に、リリアは目を細める。
「いいね、そういうの。きっと長く続けられるタイプだよ、ステラちゃんは」
二人は街の奥へ進み、小さな工房の前で足を止めた。
看板には手書きで「Craft Room《Cocotte》」と書かれている。
扉を開くと、香ばしい金属とオイルの匂いがふわりと漂った。
作業台の向こうで、若い男性プレイヤーが手を止めて顔を上げる。
「お、リリア。新しい依頼?」
「ううん。今日はお客さんを紹介に。回復職のステラちゃん」
「初めまして。俺の名前はノエル。見ての通り生産職で、鍛冶を専門にしてるんだ。よろしく。」
柔らかな笑みを浮かべながら、ノエルは立ち上がった。
「は、はい!よろしくお願いします!」
ステラも思わず背筋を伸ばす。
「ヒーラーか。珍しいね。どんなビルドで育ててるんだい?」
「えっと……回復魔法を強くしたくて、《WIS》を中心に上げてます」
少し緊張しながら答えるステラ。
(……でも、日葵ちゃんに“ビルドは全部バラさないほうがいいよ”って言われたし、極振りしてるのはナイショで)
ノエルはうなずき、ステラの装備と杖をちらりと見た。
「なるほどね。見た感じバリバリの初期装備だし、相当、VITは低いでしょ?」
「やっぱり、そう思います?」
ステラが小さく笑うと、リリアが横から口を挟んだ。
「私からもアドバイス。回復職って、思ってるより狙われやすいの。一般的なヒーラーでも、VITを少しは上げるんだけど……生きてさえいれば、仲間を何度でも立て直せるからね。VIT、少しでいいから上げとくといいよ」
「……なるほど。ありがとうございます、覚えておきます!」
ノエルはそのやり取りに微笑みながら、いくつかの装備プレビューを見せてくれた。
淡い青をベースにしたヒーラー用ローブ、白と銀のアクセント、清潔感のあるチュニック。
胸元には小さなリボン、首元には淡い光を宿すペンダント。
どれも繊細で、美しくて、ステラの胸が高鳴る。
「すごい……!これ、私でも装備できますか?」
「うん、でも正直に言うと、ヒーラー用の装備はあまり作ってないんだ。需要がないからね」
ノエルが肩をすくめる。
「だからこうして見せられるのも、最高ランクの試作品ばかり。ちょっと珍しい光景かも」
「そ、そうなんですね……!」
「ただ、素材と制作費がちょっと高いんだ。このローブなんて、レア素材で織り上げてるから。全部で……そうだな、100万ゴルドくらい」
「ひゃ、100万……!?」
ステラの手持ちゴルドは、昨日のスライム討伐でようやく溜まった3,000。文字通り桁が違う。
「だ、大丈夫!また来ます!がんばってお金貯めますっ!」
ノエルは少し笑って――
「じゃあ、お近づきのしるしに、これをあげるよ」
そう言って差し出したのは、水色の宝石がついた小さなブレスレットだった。
「《アクア・リングレット》。装備するとVITが+10される。防具ってほどじゃないけど、初心者には助かると思うよ」
「えっ、いいんですか!?ありがとうございます……!」
リリアも横で笑う。
「ふふ、ノエルってそういうとこ優しいんだよね。じゃ、私の紹介料はチャラね」
「最初から取る気なかったくせに」
三人の笑い声が、工房の中に優しく響いた。
「……よしっ、がんばってお金貯めます!」
ブレスレットをつけながら、ステラは力強く言った。
「ダンジョン行くなら、《花咲きの草原》の北にある《蒼の深淵洞》がおすすめだよ。初心者でも入れるし、運がよければ回復職に合う装備も見つかるかもしれない」
ノエルが杖を軽く回しながら言う。
「《蒼の深淵洞》……行ってみたいです!」
リリアが頷き、腰のポーチから小瓶を数本取り出した。
「じゃあ、これも持ってきな。《MPポーション》。後輩ヒーラーへのプレゼント!」
「リリアさんまで……ありがとうございます!」
「うん、がんばってね。次に会うときは、きっと立派なヒーラーになってるよ」
ステラは胸の前でぎゅっと手を握りしめた。
昨日の恐怖が、少しずつ「挑戦したい」という気持ちに変わっていく。
「……うん。行ってみよう。《蒼の深淵洞》へ!」
青空の下、ステラは街を後にした。
風に揺れる髪とローブの裾。
新しい冒険が、また一歩、彼女の前に広がっていく。
リリアとノエルはまた登場します!・・・たぶん
次は11/25日に投稿する予定です。




