第062話 極振りヒーラー、ギルド結成への道
放課後、教室の片隅。
灯里と日葵は、机を挟んで向かい合っていた。
日葵がスマホの画面を見せながら、真剣な表情で話す。
「運営からの告知があったね。一週間後のメンテでギルドを作れるようになるみたい」
「専用アイテムが必要なんだっけ?」
灯里が首を傾げる。
「そうそう。《ギルド創設の証》っていうアイテムと、あと100万ゴルドも必要かな」
日葵が画面をスクロールして、詳細を確認する。
まず、特定のネームドモンスターを倒して《ギルド創設の証》を入手する。
今日のアップデートから、第二階層以降のネームドがドロップするようになったらしい。
次に、ハネリ村のギルドマスターNPCに話しかけ、《ギルド創設の証》と100万ゴルドを支払う。
そうすれば、晴れてギルドが設立される仕組みだ。
「ギルドは楽しみなんだけど、スキルの方がねぇ…」
灯里が机に突っ伏す。
「バリアに上限ができちゃったからね。さすがにヒール連打からの大反射は強すぎたよ」
「うぐぐぐぐ」
灯里が唸る。
今回のアップデートで、《リストア・ヴェール》の仕様が大きく変更された。
これまでは《ヒール》を何度も撃って、バリアを無限に積み上げることができた。
だが、新しい仕様では、回復スキル一つにつき形成できるバリアの上限ができてしまった。
つまり、《ヒール》を連打しても、新しいバリアが古いバリアを上書きしてしまうだけだ。
ただし、異なる種類の回復スキルなら重ね掛けが可能。
《ヒール》《再生の祝炎》《ドレイン・オーラ》など、別々のスキルから生成されたバリアは共存できる。
「バリアに上限ができたことよりも、バリア崩壊系のスキルの方がきついかも…」
灯里がさらに弱々しく呟く。
「ああ、それも追加されたね」
日葵が頷く。
新たに実装される《バリア崩壊》系のスキル。
これは、HPにダメージを与えず、バリアの耐久値だけを削る特殊な攻撃だ。
ダメージが出ない以上、反射も発生しなければ、《セラフィック・リザーブ》のエネルギーも貯まらない。
ステラの反射戦法が常軌を逸していたため、運営が出した苦肉の策だった。
「バリアに対抗するスキルはよくあることだし、反射で目立ちすぎたね」
「ぐぬぬぬぬ」
灯里が再び机に突っ伏す。
「まあ、それでもバリア自体は有効だから。戦い方を変えればいいだけだよ」
日葵が慰めるように言う。
「……うん、そうだね」
灯里が顔を上げ、笑顔を作る。
「じゃあ、今日ログインしたらギルド結成のアイテムを探しに行こう!」
「了解!」
二人は顔を見合わせて笑い合い、それぞれ帰路についた。
帰宅後、灯里はすぐにログインした。
ハネリ村の広場に、ステラの姿が現れる。
「やっほー」
少し遅れて、ヒマワリもログインしてきた。
「お待たせ。じゃあ、行こうか」
「うん!」
二人は村を出て、第二階層の森へと向かう。
《ギルド創設の証》は、第二階層以降のネームドモンスターがドロップする。
まずはネームドを探さなければならない。
森の中を進むと、モンスターの気配が増えてくる。
《ストーンビースト》や《ウィンドホーク》が徘徊し、警戒している。
「ネームドはどこにいるんだろう?」
「情報だと、森の奥に出現するらしいけど……」
ヒマワリが周囲を見回す。
その時――
「あら、あなた達は……」
森の中から、見覚えのある声が聞こえた。
二人が振り向くと、白と紅の巫女服を着た少女が立っていた。
頭には狐耳の装飾が揺れ、手には短弓を持っている。
「ティアさん!」
ステラが嬉しそうに駆け寄る。
イベント中に出会ったソロプレイヤー、ティア。
巨大魚の体内ダンジョンで共に戦った仲間だ。
「お久しぶりです」
ティアが軽く会釈する。その口調は相変わらず丁寧だが、どこか探るような響きがあった。
「あなた達もレベリングですか?」
「ううん、ギルド結成に必要なアイテムを探しに来たんだ」
ヒマワリが答える。
「ギルド……ですか」
ティアの狐耳が、ぴくりと動く。興味を示したようだ。
「そうなの!今日のアップデートでネームドがドロップするようになったから」
ステラが笑顔で説明する。
「なるほど。効率的な判断ですね」
ティアが頷く。その表情は、少しだけ柔らかくなっていた。
「あ、そうだ!よかったら私たちのギルドに入らない?」
ステラが思いついたように尋ねる。
「……私を、ですか」
ティアが少し驚いた様子で、二人を見る。わずかに目を見開き、狐耳が小さく揺れた。
「うん!まだアイテムは手に入れてないけど、絶対作るから!」
ステラが力強く言う。
「……そうですね」
ティアは少し考えてから、小さく微笑んだ。
「イベントでもお世話になりましたし、お受けします」
「やった!」
ステラが嬉しそうに笑う。
「ところで」
ティアが話題を変える。
その口調には、わずかに心配の色が混じっていた。
「今回のアップデートでバリアの仕様が変わったんですよね。ステラさんの戦い方に影響が出ませんか?」
「そうなんだよ……ヒール連打ができなくなっちゃった」
ステラが少ししょんぼりする。
「ヒールを何度撃っても、バリアが上書きされるだけになったんだよね」
ヒマワリが補足する。
「それなら」
ティアが弓を肩にかけ直しながら言う。
「ステラさんも支援スキルを取ったらいかがでしょうか?バリアが重ねられないなら、別の方法で強化すればいい」
「支援スキル?」
ステラが首を傾げる。
「ほら、VITを上げるプロテスみたいなスキルの事だよ」
ヒマワリが説明する。
「えっ?そういうスキルが他にもあるの?」
ステラが驚いた様子で尋ねる。
「……はぁ」
ティアが小さくため息をつき、呆れたように首を横に振る。
「基本的なスキルは入手法も情報が出ています。少しは調べた方がいいですよ」
その言葉には皮肉が混じっているが、どこか心配するような響きもあった。
「ご、ごめん……」
ステラが申し訳なさそうに謝る。
「まあ、今から覚えればいいだけです」
ティアが矢筒を確認しながら続ける。
「一緒にモンスターを狩りながら、ギルド結成のアイテムも探しましょう。その方が効率的ですし」
「うん!お願いします!」
三人は、森の奥へと進み始めた。
森の奥深く。
木々が密集し、薄暗い空間が広がっている。
その中で、三人は大型のモンスター――《フォレストガーディアン》と対峙していた。
樹木のような巨体を持ち、太い腕を振り回す強敵だ。
名前の上には、ネームドを示す金色の枠が輝いている。
ステラが杖を高く掲げる。
「《プロテス》!」
淡い光が広がり、ヒマワリ、ティア、そしてステラ自身を包み込んだ。
三人の身体に、確かな重みが宿る。
VITが大幅に上昇し、防御力が強化された。
「よし、これでいけるよ!」
「ありがと!」
ヒマワリが笑顔で応える。
そして自分自身にも《ヒール》を使い、バリアを展開する。
光の膜が体を包み、防御態勢が整った。
「いくよ!」
ヒマワリが先制攻撃を仕掛ける。
「《加速》!」
一気に距離を詰め、フォレストガーディアンの脚に斬りかかる。
「《ウィンドスラッシュ》!」
剣に風が纏わり、射程を伸ばした斬撃がフォレストガーディアンの脚を切り裂く。
樹皮が削れ、ダメージを与える。
フォレストガーディアンが反撃しようと腕を振り下ろすが――
ヒマワリは既にその場にいない。
《跳躍》で後方に飛び退き、攻撃を回避する。
着地と同時に、再び突進した。
「《疾風連斬》!」
新しく習得したスキルを発動。
剣が風を纏い、五連撃が叩き込まれる。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!
攻撃の度に速度が上がり、最後の一撃は残像を残すほどの速さだった。
「すごい!」
ステラが目を輝かせる。
その隙に、ティアが弓を構えた。
「《シャープ・アロー》」
矢が放たれ、フォレストガーディアンの額に突き刺さる。
クリティカルヒットし、動きが鈍る。
「今です、ステラさん!」
「うん!《フェニックス・フレア》!」
ステラが杖を掲げ、炎の球を放つ。
不死鳥の炎が、フォレストガーディアンを包み込んだ。
ドゴォォン!
爆発と共に、フォレストガーディアンが光の粒となって消える。
「やった!」
ステラが喜ぶ。
地面に、アイテムが転がっていた。
《ギルド創設の証》
「あった!」
ヒマワリが駆け寄り、アイテムを拾い上げる。
「これで、ギルド作れるね!」
ステラが嬉しそうに笑う。
「ええ。あとは100万ゴルドを集めるだけですね」
ティアが冷静に言う。
「それなら、イベントで稼いだから大丈夫!」
ヒマワリが自信満々に答える。
「では、ギルドが結成されたら声をかけてください。今はやることがありまして、その時まで私はソロで活動しています」
ティアが礼をして、森の奥へと消えていった。
「……頼りになる人だね」
ヒマワリが呟く。
「うん!早くギルド作ろう!」
ステラが笑顔で答え、二人はハネリ村へと戻っていった。
こうして――
ギルド結成への第一歩が、静かに踏み出された。
次は3/10 21時投稿予定
お楽しみに!




