表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/63

第058話 極振りヒーラー、魔眼の戦い1

洞窟の中は、外の森とは別世界のように静まり返っていた。

ぽた……ぽた……と、水滴が岩肌を伝って落ちる音だけが、やけにゆっくりと時間を刻んでいる。


「そうだ、待ってる間に気づいたんだけど……奥に、転送陣があるみたい」

「転送陣? こんなところに?」


ヒマワリが眉を上げる。

イベント用の転送陣は、だいたいが危険エリアの最深部に設置されている――つまり。


「ボス、いるよね」

「……たぶん」


二人は顔を見合わせて、小さく頷き合った。お互いの目を見れば、考えていることは大体分かる。


このタイミングで、まだ転送陣が残っている。

それだけで十分すぎるほどの理由だった。誰も攻略できていない、ということだ。


「……簡単な場所だったら、もう誰かが攻略してるよね」

「うん。イベントも終盤だし」


ヒマワリが苦笑しながら、薄暗い洞窟の奥を見据える。

探索効率を重視するプレイヤーたちが、この数日間でどれほどの場所を踏破してきたか――二人ともよく知っている。ランキング上位のギルドなんて、もう休む暇もないくらいの勢いで走り回っているはずだ。


それでもなお、転送陣が無傷で残されているということは。


「ここ、まだ誰にもクリアされていないってことだよ」

「つまり……」


ステラが、ごくりと息を呑んで言葉を継ぐ。


「簡単なダンジョンじゃない、ってことだね」


報酬がある。美味しい報酬が。

だが同時に、挑戦者を選ぶ難易度――生半可な実力では、入口に立つことすら許されない場所。


「でもさ」


ヒマワリが剣の柄に指をかけ、いつもの軽い口調で笑う。


「私たちなら、ちょっとはチャンスあるでしょ?」

「……うん。ヒマワリちゃんと一緒なら怖くはないかな」

「一応何があるか分からないから、ヒールでバリアを張っておいて」

「了解」


ステラは《ヒール》を発動してリフレクト・ヴェールを纏う。淡い光の膜が体を包み込んだ。

そして二人にプロテスをかけた後、魔法陣の上に立った。


光が足元からじわりと這い上がってくる。


「……じゃあ、行こっか」

「うん」


次の瞬間――光が二人を包み込み、視界が真っ白に染まった。





光が晴れた瞬間、空気が変わった。

ひやりとした冷気が肌を撫で、湿った土と岩の匂いが鼻をつく。


「……ここ、どこ?」


ステラが周囲を見回す。広い――やけに広い空間だ。天井は見上げるほど高く、壁は黒い石で覆われている。

足元には水が溜まっており、一歩踏み入れるたびにちゃぷ、ちゃぷと波紋が広がった。


「洞窟……というより、地下神殿みたいだね」


ヒマワリが剣を抜いた。

乾いた金属音が、静まり返った空間に鋭く残る。

彼女は一歩も動かず、気配だけを研ぎ澄ませた。


「何かいるのかな……」

「分からない。でも、気をつけよう」


二人は慎重に前へと進む。ちゃぷ、ちゃぷ……水を踏む音だけが、静寂の中でやけに大きく響く。

息を殺して、周囲を警戒しながら――


通路を抜けると、さらに広い空間に出た。

円形の広間――中央には何もない、がらんとした空間が広がっている。



――いや。


「……何、あれ」


ステラの声が、かすかに震えた。

広間の奥――暗闇の中に、宙に浮かぶ巨大な"何か"が見える。


それは――直径三メートルはあろうかという、巨大な眼球だった。

黒々とした瞳孔が、ぎょろりとこちらを見つめている。

周囲には触手のようなものがぐにゃぐにゃと蠢き、ぬちゃ、ぬちゃと不気味な音を立てていた。


《深淵の魔眼ベルゼノア》


名前が、システムウィンドウに表示された。


「……気持ち悪い」


その言葉を待っていたかのように、巨大な眼球が動き、黒い瞳孔が、遅れてこちらを向いた。

そして次の瞬間、視線が――突き刺さった。


「――!?」


何かが、体の奥に流れ込んでくる感覚。

ステラの全身が一瞬で硬直し、ガクンと膝から力が抜けた。

視界がぐにゃりと歪む。指先が痺れて、体が――思うように動かない。


【状態異常:呪い】

【状態異常:麻痺】

【状態異常:毒】

【状態異常:混乱】


ピコン、ピコン――


四つのアイコンが、ステラのHPバーの横に並ぶ。

さらに、HPが激減した。バリアがバリバリと音を立てて削られ、体力が一瞬で半分以下になる。


「ひぇっ!? な、何これ!?」


ステラが叫ぶ。

体が言うことを聞かない――視界がぐにゃぐにゃに歪んで、頭の中が霧に包まれたみたいにぼんやりする。

そして――


【最大HP減少】


最大HPが、じわじわと減っていく。呪いの効果だ。やばい、これやばい。


「ステラ!」


ヒマワリが駆け寄ろうとした、その瞬間――

眼球が、ぎゅるりと回転し、今度はヒマワリを捉えた。

赤い光線が、ビシュッと走る。

――視線そのものが、攻撃だった。


「《加速》!」


ヒマワリは反射的に横に跳ぶ。


ドガァッ!


光線が地面に着弾し、石が砕け散った。


「視線自体が攻撃……!」


ヒマワリは即座に状況を把握する。

この敵は、見るだけで状態異常を付与し、視線で攻撃してくる。

めちゃくちゃ厄介な相手だ。


「ステラ、再生の祝炎!」

「え、えっと……」


ステラは混乱状態で、頭がまともに回らない。それでも体は覚えていた――反射的に、スキルを発動させる。


「《再生の祝炎》!」


ゴオッ――炎がステラを包む。温かな光が体を癒し――


【状態異常:呪い 解除】

【状態異常:麻痺 解除】

【状態異常:毒 解除】

【状態異常:混乱 解除】

【最大HP 回復】


全ての状態異常が、まるで嘘だったかのように一気に消え去った。

最大HPも元通り、体に力が戻ってくる。


「ふぅ…助かった…」


ステラが大きく息を吐く。

体に力が戻り、視界もクリアになった


「ステラ、バリアを最大まで張って! あの視線、もう一度受けたらまずい!」

「う、うん!」


ステラは慌てて回復魔法を連打する。

「《ヒール》! 《リジェネ》! 《ドレイン・オーラ》!」


バリアが何重にも展開され、光の膜が体を覆った。

これで、多少は耐えられる――そう信じるしかなかった。


「ステラ、自分にも鳳翼転生を使っておいて、保険として」

「分かった!」


ステラは迷わず、自身に《鳳翼転生》を付与した。

これで、たとえ一度倒されても、即座に完全な状態で復活できる。


その間、ヒマワリは眼球――《深淵の魔眼ベルゼノア》と対峙していた。

ベルゼノアが複数の視線を放つ。

ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ! 赤い光線が、あちこちから飛んでくる。


「《陽炎》!」


ヒマワリは即座にスキルを発動させる。

ゆらり、と周囲の空気が揺らぎ、視界が歪んだ。


光線が次々と放たれるが――どれもこれも、ヒマワリの残像を貫くだけで空を切る。


陽炎によって視界が歪み、ベルゼノアの狙いが定まらない。

光線は地面や壁にドガン、ドガンと着弾し、空振りに終わる。


「この視線、動きが読みやすい!」


ヒマワリは光線の軌道を見切って、《加速》でひらり、ひらりと身をかわし続ける。

高いAGIが、こういう時に活きてくる。


「よし、反撃!」


ヒマワリは《ストームスタンス》を発動させ、ベルゼノアに斬りかかった。


「《サンダーラッシュ》!」


バチバチッと雷を纏った三連撃が、ベルゼノアの眼球に叩き込まれる。


だが――手応えがない。いや、手応えはあるのに、ダメージがほとんど入っていない。


「硬い…全然ダメージが通らない!」


ヒマワリが驚愕する。防御力が異常に高い――何これ、まるで岩の塊を斬ってるみたいな手応え。

ベルゼノアが再び視線を放つ。ビシュッ! 今度は、ステラに向かって。



視線がぎゅるんとステラに集中し、光線が放たれる。


バリバリッ!


バリアに当たり、激しい衝撃が走る。

バリアが削られるが、なんとか耐えきった。

《再生の祝炎》の効果で、状態異常への耐性が上がっている。

そのため、今回は厄介な状態異常にならずに済んだ。


「《フェニックス・フレア》!」


ステラが反撃し、不死鳥の炎が、ベルゼノアを包み込んだ。

高いWISによる強力な魔法攻撃。


聖なる炎が眼球をメラメラと焼くが、やはり手応えが薄い。

炎が触れた部分が少し焦げるだけで、致命傷には程遠い。


「魔法防御も高い……!」


ステラが歯噛みする。


「このままじゃジリ貧だよ…」


ヒマワリが呟く。攻撃してもダメージがほとんど通らないまま、このままでは消耗戦になる

――そして先に力尽きるのは、間違いなくこっちだ。


「MP、結構使ってる……」


ステラも不安そうに言う。

バリアの維持に回復魔法の連打――MPの消費が激しすぎて、もう半分近くまで減っている。


そして――ベルゼノアの視線攻撃が、さらに激化した。

触手がぐねぐねと蠢いて、複数の光線があらゆる角度から容赦なく放たれる。

まるで、レーザーの雨のように。


「くっ!」


ヒマワリは《加速》で回避し続ける。

《陽炎》で視界を歪ませながら光線の隙間を縫って動くが、ステラへの攻撃はどんどん集中していく


「ヒマワリ、避けて!」


ステラが叫びながら魔力を全開にする。

光の波動が広がり、ベルゼノアの注意が再びステラに集中した。

だが、光線の数が多すぎる――一本、二本、三本と次々に迫ってくる。


ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ!

光線がバリアに当たり、バリバリと削られていく。

どんどん薄くなって、そしてついに――一本の光線が、バリアを貫いた。


「くっ…!」


ステラの体に、光線がズドンと直撃する。


【呪い】【麻痺】【毒】【混乱】


再び、状態異常が付与された。

ガクンと体が重くなって、また視界が歪み始める。


「また…!」


ステラは即座にスキルを発動させる。


「《クリーンセンス》!」


パァッと光が体を包み、状態異常が解除された。

その時――


【スキル習得!《呪い耐性・小》】

【スキル習得!《麻痺耐性・小》】

【スキル習得!《毒耐性・小》】

【スキル習得!《混乱耐性・小》】


「え……?」

ステラの視界に、スキル習得の通知が並ぶ。


「ステラ!」

「大丈夫…! 状態異常の耐性を覚えただけ。でも、これ……」


ステラが不安そうに呟く。

《再生の祝炎》は10秒ごとに回復するが、その間に何度も視線を受けたら――持たない。絶対に持たない。


「このままじゃ、持たない……!」


ベルゼノアが触手をぐにゃぐにゃと蠢かせ、さらに視線の密度を上げる。


ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ!


光線が、容赦なく二人に降り注ぐ。

ヒマワリは何とか回避し続けているが、ステラは動きが鈍い――AGIがゼロでは、回避なんて不可能だ。


「《ヒール》!」


ステラは回復し、バリアを張り直す。

けれど、それは長くもたない。

削られて、張って、また削られる——出口の見えない応酬だった。

だが、状態異常になることを繰り返しているうちに、いつの間にか耐性は小から大まで進化していた。


「《フェニックス・フレア》!」


反撃する。

ゴオッ、と炎がベルゼノアを包み込むが、やはり手応えは薄い。


「このまま……じゃ……!」


ステラのMPが、ついに半分を切った。

消耗が激しすぎる――そしてヒマワリも、焦りを感じ始めていた。


(どうすれば……!)


攻撃が通らない。防御にも限界がある。

このままでは――負ける。


「ステラ、一旦距離を取ろう!」

「う、うん!」


ヒマワリはステラの手を掴んで、後方へとバッと跳ぶ。

ベルゼノアから距離を取った――視線攻撃は届かない。

ほんの少しだけ、余裕ができた。


「……作戦、考えないと」


ヒマワリが息を切らしながら呟く。


「うん……でも、どうすれば……」


二人は必死に考える――けれど、答えは見つからない。


ベルゼノアは、ぎょろりとゆっくりとこちらを見据えている。

触手がぬちゃぬちゃと蠢いて、次の攻撃が――来る。


――どうする?


二人の脳裏に、同じ疑問が浮かんだ。


次回で第2回イベントの話が終わる予定です。


次は3/6 21時投稿予定

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ