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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第057話 極振りヒーラー、イベント6日目の悪夢

イベント開始から六日目の朝。


ステラとヒマワリは、マップの北東に広がる未踏破エリアへと足を踏み入れていた。

鬱蒼とした森、険しい岩場、いくつもの洞窟――だが、どこにも宝石の気配はなかった。


「うーん、ここもダメかぁ」


ヒマワリが肩を落とす。

ステラも困ったように首を傾げた。


「六日目だもんね。もうほとんどのエリアが探索済みなのかも……」

「だよねー。さっきの洞窟も、宝箱が開けられた跡があったし」


二人は近くの洞窟へと入り、岩陰に腰を下ろした。

ひんやりとした空気が心地よい。ステラがアイテム欄を開き、所持している宝石の数を確認する。


「えっと……私が十個、ヒマワリちゃんが九個。あと一個で目標達成なんだけど……」

「うん。でも、このままじゃ時間切れだよね」


ヒマワリが膝を抱えて天井を見上げる。

イベント終了まで、残り時間はあと数時間。このペースで探索を続けても、宝石を見つけられる保証はない。


「……ステラ」

「なに?」

「プレイヤーを狙うしかないかも」


ヒマワリの言葉に、ステラの表情が曇る。


「え、えっと……それって、PK……?」

「うん。ルール上は問題ないし、向こうだって同じこと考えてるはずだよ」


確かにその通りだ。

このイベントはPK可能。宝石を巡るプレイヤー同士の争いも、運営が想定している要素のひとつだろう。

それでも、ステラは気が引けた。

自分から誰かを襲うなんて、やっぱり悪いことをしているような気がして……。


「でもね、ステラ」


ヒマワリが立ち上がり、ステラの前に歩み寄る。


「ステラがいると、相手が逃げちゃうと思うんだ」

「え?」

「だって、第一回イベントで三位だったでしょ? 数百人倒したって話、けっこう広まってるし」

「う……そ、そんなに有名なの……?」


ステラが顔を赤くする。


――わざわざ自分から進んで、数百人をなぎ倒すような『化け物』に挑みたい者などいるはずがない。

自分の存在が、もはや対戦相手にとって「攻略対象」ではなく「避けるべき災厄」と化している。

その事実に気づき、ステラはなんとも言えない複雑な心境になった。


「だから、私一人で行ってくる。ステラは安全な場所で待機してて」

「で、でも危なくない? 相手が複数人だったら……」

「大丈夫だよ! AGI特化だから逃げるのも得意だし」


ヒマワリがにっこりと笑う。


「それに、ステラがいたら逃げられないでしょ?」

「う……それは、確かに……」


ステラは自分のAGI値――ゼロ――を思い出して俯いた。

全力疾走しても、普通のプレイヤーの歩く速度にすら追いつけない。

戦闘では問題ないが、移動となると完全に足手まといだ。


「じゃあ、決まりね! ステラはこの洞窟で待ってて。危なくなったらすぐ戻ってくるから」

「う、うん……気をつけてね」

「任せて! ……あ、そうだ。これも預けとくね」


ヒマワリが空中に指を滑らせてインベントリを開くと、淡い光とともに一粒の宝石が現れた。


「はい、ヒマワリの宝石。私が持ったままだと、うっかり落としちゃうかもしれないし」

「あ……うん、預かっておくね」


ステラの手のひらに宝石を乗せると、ヒマワリは軽く手を振って洞窟の奥へと歩き出した。


「すぐ戻るから、そこで待ってて!」


ヒマワリが軽やかに手を振り、洞窟を駆け出していく。

ステラはその背中を見送りながら、不安と期待が入り混じった複雑な気持ちで立ち尽くしていた。


森の中を疾走するヒマワリ。

高いAGIによる驚異的な速度で、木々の間を縫うように進んでいく。風が頬を撫で、髪が後ろへと流れる。



(さて、どこかにいないかな……)



周囲を警戒しながら、プレイヤーの気配を探る。

しばらく走り続けると、開けた草原に出た。



その瞬間――


「そこだ! 囲め!」


突然、周囲の茂みから二人のプレイヤーが飛び出してきた。


「!?」


ヒマワリが反射的に剣を抜く。

剣士と魔法使い。二人は明らかにヒマワリを待ち伏せしていた。


「ソロプレイヤーか。ラッキーだな」

「宝石、持ってるんだろ?」


剣士が不敵に笑いながら、剣を構える。


(待ち伏せされてた……!)


ヒマワリは周囲を確認する。逃げ道はある。だが――


(ここで逃げたら、宝石は手に入らない)


ヒマワリは深呼吸をひとつ。

そして、剣を構え直した。


「……悪いけど、こっちも必要なんだ」

「何を――」


剣士が言い終わる前に、ヒマワリが地を蹴った。


「《加速》!」


驚異的な速度で距離を詰め、剣士の懐に飛び込む。


「速っ!?」

「《サンダーラッシュ》!」


一瞬で三回の斬撃が炸裂する。

剣士のHPが瞬く間に削られ、驚愕の表情を浮かべたまま光の粒子となって消えた。


「な、なに!? ――《ファイアボルト》!」


魔法使いが慌てて魔法を放つ。

だが、ヒマワリは《跳躍》で高く飛び上がり、回避する。


「《ウィンドスラッシュ》!」


空中から風を纏った斬撃が、弧を描いて飛んでいく。

魔法使いが詠唱を始めるが、間に合わない。斬撃が直撃し、魔法使いもまた光の粒子となって消滅した。


「……あれ?」


ヒマワリが周囲を見渡す。

二人が倒れた場所には――何も落ちていない。


「宝石、持ってなかったかぁ……」


少し残念そうに呟き、ヒマワリは再び走り出す。


それから、ヒマワリはいくつものプレイヤーグループと戦闘を繰り広げた。

三人パーティの戦士たちを《ストームスタンス》で圧倒し、ソロの魔法使いを《蜃気楼》で翻弄し、四人組の冒険者たちを次々と撃破していく。

何戦したか、もう分からない。

息は荒く、脚にわずかな重さを感じる。

それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。




そして――


「やった! 宝石!」


ヒマワリが笑顔で宝石をアイテム欄に仕舞う。

目標達成まであと一歩。ステラの待つ洞窟へと向かおうとしたその時――


「おい、そこの剣士」


背後から声がかかった。

ヒマワリが振り返ると、八人のプレイヤーが武器を構えて立っていた。

剣士が三人、魔法使いが三人、弓使いが二人。明らかに組織的な構成だ。


「おい、今そこで宝石を拾っただろう。……いいから大人しく俺達に渡せ」

「あー……見つかっちゃった」


ヒマワリが困ったように頭を掻く。

八人。さすがに、一人で全員相手にするのは厳しい。


(ここは……)


ヒマワリの脳裏に、ひとつの案が浮かぶ。

それは――ステラのところへ誘導すること。


「一人か。楽勝だな」

「じゃあ、かかってきなよ!」


ヒマワリが挑発するように笑う。

そして、剣を構えたまま――洞窟の方向へと走り出した。


「逃げるのか! 追え!」

「待てー!」


八人のプレイヤーが追いかけてくる。

ヒマワリは全速力で走りながら、時折振り返って《《ウォーターショット》》を放つ。

水の弾が追っ手の足元に着弾し、動きを鈍らせる。

追っ手を完全に振り切らない程度に、距離を保ちながら誘導していく。


(ちょうどいい感じ。このまま、ステラのところまで……!)


洞窟が見えてきた。

ヒマワリは大きく息を吸い込み、声を張り上げる。


「ステラー! ちょっと手伝ってー!」


軽いノリの呼びかけ。

洞窟の中から、ステラが慌てて飛び出してくる。


「ヒマワリちゃん!? えっと、どうしたの!?」

「ちょっと追いかけられちゃって」


ヒマワリがステラの隣に着地する。

直後、八人のプレイヤーたちが追いついてきた。


「逃げ――あれ? もう一人いるのか?」

プレイヤーたちが足を止める。

そして、ステラの姿をよく見て――顔色を変えた。


「……え、その装備……青い光ってる……!」

「ユニーク装備……? 間違いない、第一回イベント三位のステラだ!」

「や、やべぇ……!」


八人のプレイヤーたちが、一斉に後ずさる。

ヒマワリがにっこりと笑った。


「あ、気づいちゃった?」

「え、えっと……ヒマワリちゃん、わざと……?」


ステラが困惑した表情でヒマワリを見る。

ヒマワリは小さく頷いた。


「撤退だ! 逃げるぞ!」

「待て待て、こっちは八人だ! いけるかもしれない!」

「無理無理! あいつ、一人で数百人倒したんだぞ!?」


プレイヤーたちが慌てて踵を返す。

しかし――ヒマワリは、それを許さなかった。


「逃がさないよー」


ヒマワリが《蜃気楼》を発動させる。三体の虚像が現れ、四人のヒマワリが敵を囲んだ。


「な、何!? 分身!?」

「どれが本物だ!?」


さらに、ヒマワリは《陽炎》を展開する。周囲の空気が揺らぎ、視界が歪んだ。


「く、景色が……!」

「まともに狙えない!」


混乱する敵の中を、ヒマワリは縦横無尽に駆け抜ける。


「《サンダーラッシュ》!」


三連撃が先頭の剣士を貫き、光の粒子となって消える。


「こっちだよ!」


虚像が別の剣士の前に現れ、注意を引く。その隙に、本物のヒマワリが背後から斬りかかった。


「《ストームスタンス》!」


風と雷を纏い、圧倒的な速度で次々と敵を斬り伏せていく。


「くそ、速すぎる!」

「魔法で――」


魔法使いが詠唱を始めるが、その背後からステラの声が響いた。


「《フェニックス・フレア》!」


不死鳥の炎が放たれ、魔法使いたちを包み込む。

高いWISによる強力な魔法攻撃。三人の魔法使いが一瞬で戦闘不能に陥った。


「ひ、ひぃっ!」

「もう無理だ!」


残った弓使いたちが矢を放つが、陽炎で揺らぐ視界では狙いが定まらない。

そして、虚像に紛れたヒマワリの速度には追いつけない。

数秒後、八人全員が光の粒子となって消えていった。


「……ふぅ」


ヒマワリが剣を鞘に納める。

ステラが駆け寄ってきた。


「ヒマワリちゃん、大丈夫!?」

「うん、全然! むしろ楽勝だったよ」


ヒマワリが笑顔で答える。

地面を見ると、八人分の宝石が散らばっていた。


「わぁ……こんなに……」

「やったね、ステラ! これで目標達成どころか、かなり余裕ができたよ!」


ヒマワリが宝石を拾い集める。

ステラも手伝いながら、少し申し訳なさそうに呟いた。


「でも……私、ほとんど何もしてないよ?」

「何言ってるの? ステラがいるだけで、相手が逃げたくなるんだから、十分すぎる戦力だよ」

「そ、そういうものなのかな……」

「そういうものだよ! それに、最後の魔法、すごくかっこよかったよ!」


ヒマワリが満面の笑みで言う。

ステラも、少し照れくさそうに笑った。


「ありがとう、ヒマワリちゃん」

「どういたしまして! じゃあ、そろそろ戻ろっか」

「うん!」


二人の冒険は、確かな成果とともに、次のステージへと進んでいく。

――イベント終了まで、残された時間は、もう多くはなかった。


次は3/5 21時投稿予定

お楽しみに!

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