表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/56

第050話 極振りヒーラー、水の神殿1

神殿の扉が背後で静かに閉じた瞬間、外の世界の気配がすっと遠ざかった。


「……空気、冷たいね」


ステラが小さく息を吐く。

白い息が、ほんの一瞬だけ宙に浮かんで消えた。

神殿の内部は、外観以上に静謐だった。

天井は高く、淡い青の光を放つ結晶が一定間隔で埋め込まれている。

壁や床は白い石で統一されているが、ところどころに水が流れる溝が彫られており、さらさらと小川のような音が響いていた。


「音が反響してる……ちょっと幻想的だね」


ヒマワリが周囲を見回しながら言う。


「うん。敵が出てきそうなのに、なんだか落ち着く」


ステラは杖を胸元で抱え、きょろきょろと視線を動かす。

緊張はしているが、巨大魚の体内にいたときのような不安感はない。


「まずは、構造把握かな」


ヒマワリが地図ウィンドウを開く。


「……やっぱり未踏エリア扱いだね。マップ、真っ白」

「え、真っ白?どういうこと?」


ステラが不思議そうに首を傾げる。


「ダンジョンって、最初から地図が表示されるわけじゃないんだ。歩いた場所から少しずつ地図が埋まっていくタイプもあるんだよ」

「へぇ……そうなんだ。じゃあ、歩きながら地図を作っていく感じ?」

「そうそう。だから、慎重に行こう」

「わかった!」


二人は並んで、第一層の奥へと足を進めた。

最初に現れたのは、広い回廊だった。

左右に分岐があり、中央には浅い水路が走っている。


「分かれ道だね」


ヒマワリが立ち止まり、ステラを振り返る。


「どっちに行く?右と左、ステラはどっちがいいと思う?」

「えっと……」


ステラは両方の通路を見比べる。

ヒマワリが床に刻まれた模様に目を落としているのに気づいた。


「……右の方、何かあるの?」

「足跡がある。誰かが通った跡だね」


よく見ると、水に濡れた床に、かすかな足跡のような跡が残っている。


「あ、ほんとだ。じゃあ、誰か先に入ってるってこと?」

「そうだね。でも、このダンジョン、1パーティーしか入れないはずだから……」


ヒマワリが少し考える。

「おそらく、私たちより前に入った人がいて、もう出て行ったんだと思う」

「なるほど……じゃあ、右は探索済みかもしれないんだね」

「可能性は高いかな。どうする?」


ステラは少し考えてから、左の通路を指差した。


「じゃあ、左に行ってみよう!誰も行ってない方が、なんか楽しそう」

「了解。じゃあ、左で」


二人は左の通路を選び、歩き始めた。

通路を進むにつれ、床の水位が少しずつ上がっていく。

足首、くるぶし、やがてふくらはぎの下あたりまで。


「だんだん深くなってきたね」

「でも、泳ぐほどじゃないかな」


ステラがローブの裾を持ち上げながら言う。


「……あれ?」


しばらく進んだところで、ステラが足を止めた。


「どうしたの?」

「今、床……ちょっと揺れなかった?」


ヒマワリも足元に意識を集中する。


「……うん。微妙に、水の流れが変わった気がする」


次の瞬間。

通路の奥から、水音が強まった。


「来るよ」


ヒマワリが短く告げる。

水面が盛り上がり、人型に近い形を取る。

透き通った水の身体を持つ魔物――《ウォーター・スピリット》だ。


「数は……三体!」


ステラは即座に杖を掲げる。


「《プロテス》」

「ありがとう!」


ステラがプロテスをかけると同時に、ヒマワリは地面を蹴り、《加速》を発動させて一気に距離を詰める。


「《サンダーラッシュ》!」


雷を纏った三連撃が、水の身体を切り裂く。

電撃が水を通じて広がり、ダメージが表示される。


「雷、効いてる!」

「じゃあ、続けて!」


ステラが詠唱する。


「《フェニクス・フレア》!」


不死鳥の炎が水精に叩き込まれ、蒸気が激しく立ち上る。

一体が光の粒となって消えた。


「残り二体!」


ヒマワリは《ストームスタンス》を発動させ、風と雷を纏う。


「《ウィンドスラッシュ》!」


風を纏った斬撃が、残りの水精を切り裂く。

ステラも《ヒール》を連打し、バリアを維持しながら支援する。


「《サンダーラッシュ》!」


最後の水精が、光の粒となって消えた。


「……ふぅ」

「連携、いい感じだね」


戦闘後、水位がすっと下がった。


「倒すと水が引くんだ……」

「この神殿、水と連動してるっぽいね」


ヒマワリは周囲を見渡す。


「進行に応じて、環境が変わるタイプか」

「分かりやすくて助かるかも」


ステラは前向きだ。

さらに奥へ進むと、円形の広間に出た。

中央には、大きな石像が立っている。

水を抱えた女神の像で、足元から清らかな水が湧き出していた。


「……きれい」


ステラが思わず呟く。


「触ると何か起きそうだね」

「うん。でも、いきなり触るのはやめとこう」


ヒマワリは周囲の壁に目を向ける。


「……四方向に小道がある」

「全部調べる感じかな」


二人は頷き合い、まずは一番近い通路へと向かった。

そこには、床一面に薄く水が張られ、一定間隔で石柱が立っていた。


「足場、少ないね」

「落ちても即死はなさそうだけど……」


ステラが水を覗き込む。


「……なんか、吸い込まれそうな流れしてない?」

「……確かに」


水面が、中心へ向かって微妙に渦を巻いている。


「端を通ろう」

「了解」


ヒマワリは《跳躍》で軽やかに石柱を渡り、ステラも慎重に続く。

途中、水の流れが強まるが、踏み外すことなく渡り切った。


「ステラ、大丈夫だった?」

「ちょっとヒヤッとしたけど、大丈夫」


通路を抜けた先、小さな空間の隅に、何かが光っているのが見えた。


「あ、あれ……宝箱?」


ステラが駆け寄る。

小さな宝箱が一つ、静かに佇んでいた。


「やった!戦利品だ!」

「中身は……」


ヒマワリが蓋を開ける。

中には、青い宝石が埋め込まれたアクセサリーが入っていた。


「水耐性のアクセサリーだ」


ステラが嬉しそうに笑う。

他の通路も調べ、同様に小規模な戦闘や環境変化を乗り越えていく。

神殿は静かだが、確実に試されている感覚があった。


「なんというか……」

「うん?」

「敵より、地形の方が印象に残るね」

「分かる。戦ってるっていうより、観察して進んでる感じ」


ステラは笑う。


「でも、こういうの嫌いじゃない」

「私も」


最後に残った通路を進むと、広い空間へと出た。

そこは中央に浅い水路が走る広めのホールで、奥へ続く道が暗く広がっていた。

二人が足を踏み入れた瞬間、床がわずかに沈んだ。


「え?」


ステラが声を上げた、その直後――

広間の中央に設置された噴水のような構造物から、水が静かに湧き上がり始めた。


「スイッチ、踏んだみたいだね」

「今のが!?」


水は床の溝を伝い、広間全体へと流れていく。だが水位は膝にも届かない程度で、危険というほどではない。

――その時だった。

水面が、不自然に揺らいだ。


「……ヒマワリちゃん?」

「来るよ」


水の中から、ぬるりとした影が浮かび上がる。

丸みを帯びた胴体に、何本もの触手。だが、その姿は完全には見えない。水が、意図的に輪郭を隠しているかのようだった。


「……あれ、何?」


「さあ。見た目だけじゃ、判断つかないね」

名前の分からない"何か"が、ゆっくりと動き出す。

次の瞬間、水が渦を巻いた。


「うわっ、吸い込まれる!?」


ステラの足元の水流が強まり、体が前に引かれる。

ヒマワリはすぐさまステラの腕を掴み、踏ん張った。


「落ち着いて!引き寄せる動きがメインみたい!」


敵は直接攻撃してこない。

代わりに、水流で二人の体勢を崩そうとしている。


「こういうの、どうすればいいの!?」

「無理に近づかない。流れを切る!」


ヒマワリは近くの柱の影に回り込み、《加速》で水流が弱まる位置を瞬時に見極める。

ステラも必死に真似をし、柱にしがみついた。

しばらくすると、水の渦は収まり、影は再び水中へと沈んでいった。


「……い、いなくなった?」

「一時的に引いた、かな。たぶん倒す対象じゃなくて、無理に抵抗すると、逆に飲み込まれるタイプなんだと思う」

「え、じゃあさっきの戦い、意味あったの?」

「意味はあるよ」


ヒマワリは床の溝を見る。

水の流れが変わり、別の通路へと水が導かれていた。


「仕掛け解除、ってやつ」

「へえ……」


ステラは感心したように息を漏らす。


「なんか、ゲームっぽいね」

「今さら?」


二人は笑い合い、先へ進む。

広間の奥、これまで水に隠されていた場所に、白い石で造られた階段が姿を現していた。

ゆるやかに上へと伸び、その先は淡い光に包まれていて、先が見えない。


「……階段だ」

「二層、かな」

「多分ね」


ヒマワリは剣を下ろし、息を整える。


「第一層、制覇って感じかな」

「うん。今のところ、危ないところはなかったね」


ステラは階段を見上げる。


「上、どんなところなんだろ」

「水の神殿だし……もっと水、かも」


二人は顔を見合わせ、苦笑した。


「よし、行こう。次は2階だね」

「うん、行こう!」


二人はもう一度、顔を見合わせて頷き合うと、迷いのない足取りで段を上り始めた。


次は2/26 21時投稿予定

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ