第049話 極振りヒーラー、束の間の休息と新たなダンジョン
ティアの姿が見えなくなると、ステラは大きなため息と共に、再び砂浜にぺたんと座り込んだ。
「ふえぇ……。緊張の糸が切れたら、急に足が重くなってきちゃった……」
「あはは、そうだよね。一日中あの生臭い魚の中にいて、最後に水泳だもん。体力より気力が限界かも」
ヒマワリが苦笑いしながら、自分の腕を軽く回す。彼女の装備も所々汚れており、激戦の跡を物語っていた。
「そろそろ、休める場所を探そうか」
ヒマワリが周囲を見回す。
「うん。さすがに疲れたし……」
ステラも同意する。
月明かりがあるとはいえ、湖畔は開けすぎていて、もし強力なアクティブモンスターがリスポーンすれば、今の二人には対処する余裕がない。
二人は重い腰を上げ、湖から少し離れた岩陰を探して歩き始めた。
幸い、少し進んだ先の斜面に、蔦に覆われた古びた廃屋を見つけた。
「あそこなら、魔物の目も雨風もしのげそうだね」
「行ってみよう」
廃屋は木造で、屋根の一部が崩れかけているが、中は意外と広かった。
埃が積もり、壁には長い年月を感じさせる蔦が這っているが、幸い先客のモンスターはいないようだ。
「ここで休もう」
ヒマワリが荷物を下ろす。
「じゃあ、ご飯作るね。今日は疲れたし、しっかり食べよう」
ヒマワリが手際よく食材を取り出し、少し遅めの夕食の準備を始める。
「火、出すよ――《ファイアボルト》!」
ヒマワリが指先から放った小さな炎が、ヒマワリが組んだ薪に飛び火し、心地よい熱源となる
野菜を刻み、パンを温める香りが部屋に広がる。
メインディッシュは、ステラが湖で釣り上げた立派な魚だ。
やがて、香ばしく焼き上がった魚のハーブ添えと、温かいスープ、パンが完成した。
「できた!」
「わぁ、美味しそう……! いただきます!」
二人は料理を分け合い、廃屋の静寂の中で口にした。
「美味しい……ヒマワリちゃん、料理上手だね」
「ありがとう。ステラが釣った魚がなかったら、これは作れなかったよ」
「えへへ……DEX0でも、なんとか釣れて良かった」
食事を終えた後、ステラがふと思いついたように言った。
「ねえ、私もデザート作ってみたい」
「デザート?ステラ、《料理Ⅰ》覚えたばかりだよね?」
「うん。だから、簡単なものでいいんだけど……」
ステラは残った食材から、果物と砂糖を取り出した。
「フルーツコンポートなら作れるかな……」
ステラは慎重に果物を切り、鍋に砂糖と一緒に投入した。
だが、火加減を調整しようと鍋に手をかざした瞬間――
「あれ……? なんか、急に温度が……?」
「ステラ、火が強すぎるよ! 鍋が赤くなってる!」
「えっ……あ、本当だ! 待って待って!」
慌てて火を弱めるが、既に焦げ臭い匂いが漂っている。
「……失敗しちゃった」
ステラがしょんぼりと肩を落とす。
「イベント中で料理補正があるとはいえ、DEX0で《料理Ⅰ》は難しいんじゃない?」
ヒマワリが苦笑いを浮かべる。
「料理は生産スキルに分類されてるからね。
器用さが必要な作業は、どうしてもステータスに左右されるんだよ」
「そっか……残念」
「でも、挑戦する姿勢はいいと思うよ」
ヒマワリが優しく微笑む。
「次は、もっと簡単なものから試して、レベルを上げようかな」
「うん。スキルレベルを上げるとDEX0でも成功率が上がっていくからね」
ステラが元気を取り戻す。
二人は食器を片付けた。
「明日は、探索中心にしたいね」
ヒマワリが窓の外の月を見ながら呟く。
「うん。戦いばかりだったから、のんびりしたいな。宝石探しながら、景色も楽しみたいし」
「そうだね。じゃあ……今日も私が先に寝てもいい?」
「うん、いいよ。ヒマワリちゃんは今日一番動いてたし。
もし変なのが来たら、私の『不死鳥の炎』で全員キャンプファイヤーの薪にしちゃうから」
「頼もしいけど……あんまり物騒な火遊びはしないでね。じゃあ、おやすみ」
ヒマワリが床に横になり、ステラは入口近くに座って外を警戒する。
数時間後、二人は見張りを交代し、静かに夜を過ごした――。
――翌朝。
朝日が廃屋の隙間から差し込み、二人を照らす。
「……ん……朝だ」
ステラがゆっくりと目を覚ますと、すでにヒマワリが装備の点検を終えていた。
「おはよう、ステラ。調子はどう?」
「おはよう、ヒマワリちゃん。MPも体力もバッチリだよ!」
二人は簡単な朝食を済ませ、爽やかな朝の空気の中へ踏み出した。
森を抜け、光り輝く草原を歩き
――やがて、今まで足を踏み入れたことのない開けた場所へと出た。
「この辺り、まだ探索してないね」
ヒマワリが周囲を見回す。
その時――ヒマワリの表情が変わった。
「……ステラ、気をつけて」
「え?」
「誰かいる。私たちを狙ってる」
ヒマワリが小さく呟く。
ステラも警戒して周囲を見渡すが、動くものは見えない。だが、ヒマワリの判断を疑う理由はない。
「ステラを狙うなんて、無謀だね」
ヒマワリが冷たく笑う。
その瞬間――茂みから三人のプレイヤーが飛び出してきた。
「今だ!ヒーラーを先に潰せ!」
三人が剣を抜き、ステラへと突進してくる。
だが、彼らは致命的な勘違いをしていた。ステラは「守られるだけの回復職」ではないことを。
「《不死鳥》!」
ステラが杖を高く掲げると、魔力が爆発する。
「《フェニクス・フレア》!」
轟音と共に、巨大な不死鳥の形をした焔が三人を飲み込んだ。
「うわああああっ!?」
三人のHPが一気に削られ、光の粒となって消えていった。
「……宝石、持ってなかったね」
ステラが少し残念そうに呟く。
「まあ、襲ってきた時点で自業自得だよ」
ヒマワリが肩を竦める。
「さて、探索を続けよう」
ヒマワリが事もなげに言い、再び歩き始めた。
しばらく進むと――森の奥に、異様な建造物が見えてきた。
純白の石造りの神殿。
入口には清らかな水が流れ、周囲には青白い光を放つ幻想的な植物が生い茂っている。
「あれ……神殿かな?」
ステラが目を輝かせる。
「『水の神殿』って感じだね。さっきの巨大魚といい、このエリアは水属性がテーマなのかな」
二人は慎重に神殿へと近づいた。
入口の巨大な扉の中央には、深海のような青い宝石が埋め込まれている。
ステラが扉に触れると、空中に光の文字が踊った。
『水の神殿へようこそ。試練を乗り越えし者に、祝福を』
文字が浮かび上がり、重厚な音を立てて、扉がゆっくりと開く。
「ダンジョン扱いみたいだね」
ヒマワリが剣を抜く。
「じゃあ、準備しよう」
ステラが杖を掲げる。
「《プロテス》!」
光が二人を包み込み、VITが上昇する。
「《ヒール》!《再生の祝炎》!」
さらにステラ自身に回復魔法をかけ、《リストア・ヴェール》のバリアを展開する。
《再生の祝炎》の温かな炎が全身を包み込み、時間経過でHPが回復する効果が付与される。
「準備OK」
「じゃあ、行こう。この先に何があるか楽しみだね」
二人は青白い光に満ちた神殿の中へと足を踏み入れた。床を流れる水のせせらぎと、古代の静寂。
水の神殿――そこには、どんな未知の試練が待ち受けているのだろうか。
二人の冒険は、さらなる深淵へと続いていく。
魚の次は水の神殿・・・もう少しだけ水関係が続きます(笑)
次は2/25 21時投稿予定
お楽しみに!




