第004話 極振りヒーラー、初めての戦利品
草原の丘を少し登った先、風が通り抜ける見晴らしのいい場所に腰を下ろす。
遠くには、花咲きの草原が穏やかに揺れ、どこまでも青空が続いていた。
「……ふぅ、やっと一息つけた……」
戦闘を終えた直後のステラは、HPこそ全快だったが、MPはほぼ空っぽ。
ゲームの仕様上、戦闘中でなければMPはゆっくりと時間経過で回復する。
その間に、レベルアップして獲得したステータスポイントが5あることを思い出した。
「うーん、どうしよう……」
手にしたポイントをどう振り分けるか。悩ましい。
もしVITに振れば、打たれ強くなって、スライムの攻撃で一気にHPを削られる心配が減るかもしれない。
AGIに振れば、もう少し素早く動けるようになるだろうか。
だが、頭に浮かんだのは、HPがゼロになる直前のあの恐怖だ。
それから、せっかく覚えた《ヒール》も回復力が足りなければ意味がない。
「……やっぱり、全部WISに振っちゃおう」
ステラは意を決し、5ポイントをすべてWISに振り分けた。
――瞬間、胸の奥がほんのりと熱くなり、身体の奥に小さな光が宿った気がした。
「……これで、ヒールの回復量も、きっと増えたはず」
少しだけ満足そうに微笑んで、ステラは空を仰いだ。
だが、ポーションが尽きた今、このまま次の戦闘に挑むのは不安だ。
「やっぱりポーションがないと不安だから一回町に戻ろうかな……」
そうつぶやくと、ステラは立ち上がり、再び杖を手に取った。
少し風が強くなり、草の海が波のように揺れる。
丘を少し下ると、草むらが濃くなり、空気がじっとりと重たくなる。
スライムが多く現れるエリアのようだが――どこか、雰囲気が違った。
「……なんだか、静かすぎる?」
ざわ、と草の陰が動く。
その奥から、どろりと黒い塊が姿を現した。
──現れたのは、スライムに似た姿をしているが、体表が黒く濁った個体。
その眼は、まるで小さな炎を宿しているかのように赤く輝いていた。
「ブラックスライム」と呼ばれる、序盤では少し強めの敵だ。
ブラックスライムがぷるんと体を震わせ、弾丸のように跳ねてくる。
ステラはとっさに杖を構え、先端で粘液の塊を弾いた。
だがAGIゼロの身体では避けきれず、軌道の変わった塊が腹部に直撃する。
「うっ……!」
HPバーが一気に減る。たった一撃でHPが三分の一まで削られた。
それでも、今のステラには頼れるスキルがある。
「《ヒール》!」
杖の先から、先ほどよりも強く、そして温かい光が溢れ、ステラの身体を包み込む。
削れたHPが、みるみるうちにほぼ全快まで戻っていく。
まるで、温泉に浸かっているかのような、不思議な心地よさだった。
「よし、これなら……!」
ブラックスライムが再び跳ねる。
ステラは杖を振るい、光をまとわせた先端で受け止めた。
粘液が弾け、光の粒が舞う。その光に触れたスライムが一瞬、動きを止めた。
「……光が効いてる?」
回復魔法の光が、ブラックスライムの濁った体を構成する“負のエネルギー”に干渉しているのだと、ステラは直感的に気づく。
ステラは攻撃と回復を織り交ぜながら、光の杖で反撃を続けた。
何度も跳ね飛ばされそうになりながらも、諦めない。
そして――最後の一撃、杖の光がスライムの核を貫いた。
光の粒となってスライムが弾け飛ぶ。
一瞬、あたりに静寂が戻り、レベルが上がったことを告げるシステム音だけが響いた。
戦闘で得た経験値が思ったより多かったらしく、ステラのレベルは2も上がっていた。
「……勝った……?」
胸の鼓動が少しずつ落ち着いていく中、足元に淡い光が残っているのに気づいた。
しゃがみ込んで拾い上げると、それは小さな銀の指輪だった。
内側には淡い青の宝石が埋め込まれ、触れると微かな温もりが伝わる。
《ドロップアイテム:蒼流の指輪》
ステータスウィンドウが自動で開き、説明文が表示される。
《蒼流の指輪》
装備効果:戦闘中でもMPがゆるやかに回復する。
――“癒しの流れ”を宿した指輪。
「……戦闘中でも、MPが回復するの……?」
思わず声が漏れた。
それは、今のステラにとって致命的だった弱点――《ヒール》を連発できない問題を解決する装備だ。
「すごい……これ、まさに今の私にぴったり……!」
ステラは指輪を指にはめ、嬉しそうに笑った。
新たに灯った青い光が、そっと彼女の行く先を照らしていた。
迷うことなく、ステラは手に入れた10ポイントをすべてWISに振る。
――これで、ヒールの回復量はさらに増したはずだ。
「……よし」
ステラは深く息を吐き出した。
もうポーションの心配をする必要はない。
今の自分なら、この世界でやっていける。
そう確信できた。
「……よし、今日はここまでかな」
そうつぶやくと、ステラは杖を握り直し、足元の小道を辿って町へ戻ることにした。
歩くたびに風が髪を揺らし、指輪の青い光が微かに光る。
「……よし、町に戻ろう」
町の門をくぐると、見慣れた建物や人々の姿が広がっていた。
人の往来に紛れながら、ステラはログアウトポイントに向かう。
「……よし、これで安全に休める」
小さなログアウトポイントに立ち、深呼吸を一つ。
青い指輪が指先で温かく輝き、今日の戦いを静かに見守ってくれる。
「……お疲れさま、ステラ」
呟くように自分に言い聞かせて、ステラはログアウト操作を行った。
目の前の光が少しずつ淡くなり、やがて完全に消えると、現実世界の自室の床に立っている自分がそこにあった。
ステラはリアルラックがちょっぴり高いらしいですw
次は11/18に投稿予定です。




