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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第046話 極振りヒーラー、巨大魚ダンジョンの探索1

【お知らせ】

第2回イベントクライマックスのため、

期間限定で毎日投稿します!


期間:第2回イベント終了まで(約2週間)

どうぞお楽しみに!

目を開けた瞬間、まず思った。


――あ、これ、前よりは落ち着いてる。

真っ暗で、ぬるっとしていて、空気が生臭いのは相変わらずだけど。

心臓がバクバクして、頭が真っ白になる感じはなかった。


「……うん、生きてるね」


ステラはそう呟いてから、ゆっくりと立ち上がった。

足元は柔らかく、少し弾力がある。

踏みしめるたびに、ぐにゅっと沈む感触が伝わってくる。

以前なら「気持ち悪い!」と叫んでいたはずなのに、今は――


「まあ、こういう場所もあるよね」


自分でも意外なほど、冷静だった。

フルグラウスとの死闘を経験したせいか、多少の異常事態では動じなくなっている。


「成長してるね、ステラ」


隣で剣を構えたままのヒマワリが、くすっと笑う。


「前なら、泣いてたと思う」

「……それは否定しない」


ステラが苦笑いを浮かべる。

視界に浮かぶ文字が、状況をはっきりさせる。


【エリア:巨大魚アビス・グラトニー体内】


「やっぱり、お腹の中かぁ」

「しかも、普通に探索エリアになってるね。運営、こういうの好きだよね」


ヒマワリが呆れたように肩を竦める。

周囲を見渡す。

壁は赤黒く、脈のような線が走っている。

天井も床も、微妙に上下していて、生き物の呼吸が感じられる。


「……これ、ずっと動いてるよね」

「うん。体の中だから、動くのは当たり前か」


ヒマワリは壁に手を当て、タイミングを測るように目を細めた。


「止まることはなさそう。慣れるしかないかな」

「だよねぇ……とりあえず、出口を探そう」

「うん。多分、奥に進めば何かあるはず」


二人は慎重に歩き始めた。

少し進んだ先で、問題が起きた。

さっきまで開いていた通路が、ゆっくりと閉じ始めたのだ。


「……あ」

「塞がるね」


肉壁が寄り合わさり、完全に道を塞ぐ。

まるで生き物の器官が動くように、自然な動きで閉鎖された。


「うーん…戻るしかないかぁ」

「うん。無理に触ると、ダメージ受けるタイプだと思う」


別の道へ進むと、今度は床がじわっと沈む。


「うわっ……これ、長く立ってるとダメそう」

「うん、戻ろ」


判断は早い。

二人は自然と息を合わせて動いていた。


「……なんていうか」

「ん?」

「ここ、意地悪っていうより、落ち着きがない感じするね」


ステラはそう表現した。


「常に体調が変わってる感じっていうか……生き物の中だから、状態が一定じゃないんだね」

「的確だね」


ヒマワリは感心したように頷く。


「つまり、急がないほうがいい」

「うん。待てば通れる道も、ありそう」


少し立ち止まって観察すると、水が満ちたり引いたりする通路が見えた。


「今はダメだけど……」

「引いたら行けそうだね。タイミングを見計らえば通れる」


そうやって少しずつ、進める範囲を広げていく。

探索は地味だったけれど、不思議と楽しかった。

パズルを解いているような感覚で、二人は協力しながら進んでいく。

しばらく進んだところで、遠くから「カン」という乾いた音が聞こえた。


「……武器の音?」

「弓っぽいね」


ヒマワリが耳を澄ます。

さらにもう一音。

今度は、少し焦った呼吸音が混じっている。


「プレイヤー、だ」

「一人かな。戦闘してるみたい」


二人は顔を見合わせる。


「……どうする?」

「助けられそうなら、助けたい」


ステラの答えは早かった。


「無茶はしないけど、見捨てる理由もないし」

「うん。それでいこう」


ヒマワリも頷き、二人は音のする方へと駆け出した。


音のする方へ進むと、少し広い空間に出た。


そこにいたのは、小柄な少女だった。


白と紅を基調とした軽装の巫女服。

体の動きを邪魔しないよう、軽く調整されている。

頭には獣の耳――ケモミミ装備が揺れている。


短弓を構え、矢を放っているが――敵の数が多い。


《スライム・アビス》


粘液状のモンスターが、じわじわと距離を詰めていた。

一体、二体、三体――少なくとも五体はいる。


少女は冷静に矢を放ち続けているが、弓の攻撃だけでは削りきれていない。

スライムの再生速度が速く、倒すより先に回復されてしまっている。


「……ちょっと多いね」

「それに、スライム系は物理攻撃に強い。弓じゃ厳しいかも」



ヒマワリが状況を分析する。


「助けに入るよ。ステラ、準備いい?」

「うん!」

「行くよ!《加速》!」


ヒマワリは一気に空間へと飛び込んだ。


「《サンダーラッシュ》!」


雷を纏った三連撃が、一体のスライムを瞬時に斬り裂く。

電撃がスライムの粘液を貫き、光の粒となって消えた。


「っ!?」


少女が驚いて振り向く。


「大丈夫!援護するよ!」


ヒマワリが叫ぶ。


だが――残りのスライムが、少女の背後へ回り込もうとする。


「ヒマワリちゃん、右!」

「見えてる!《跳躍》!」


ヒマワリは大きく跳び上がり、空中から《ウィンドスラッシュ》を放つ。

風を纏った斬撃が、背後に回り込もうとしたスライムを切り裂いた。

その間に、ステラは落ち着いて詠唱した。


「《ヒール》!」


光が少女を包み、削られたHPが回復する。


「……!?」


少女が一瞬、驚いた顔をした。


「そのまま攻撃続けて!私が回復するから!」

ステラが叫ぶ。

少女は一瞬だけ躊躇したが――すぐに弓を構え直した。


「……了解です」

矢が次々と放たれ、スライムの動きを牽制する。


ヒマワリは地面に着地すると同時に、《加速》を発動させた。


「《ソニック・ブレイク》!」


素早い二連撃が、三体目のスライムを切り裂く。

残りは二体。


だが――スライムが体を膨張させ、爆発しようとする。


「危ない!」


少女が叫ぶ。


「《ヒール》!」


ステラは自分自身にも回復魔法をかけ、《リストア・ヴェール》のバリアを展開する。


ドンッ!

爆発の衝撃がバリアを叩くが、ダメージは通らない。


「今だ!《サンダーラッシュ》!」


ヒマワリが残りの二体に雷の三連撃を叩き込む。

一体、また一体と、スライムが消えていく。

最後の一体が、少女へと飛びかかろうとした。


「《ヒール》!」


ステラが少女のHPを回復し、少女は落ち着いて矢を番える。


「――」


矢が放たれ、最後のスライムの核を貫いた。

スライムが光の粒となって消えた。

静寂。


「……助かりました」


少女は弓を下ろし、深く息を吐いた。

近くで見ると、かなり小柄だ。身長は148センチほどだろうか。

華奢な体つきだが、目つきは鋭く、周囲を一瞬で確認している。


「無事で良かった」


ステラが笑顔で近づく。


「無茶は……しない方がいいです」

「うん、反省中」


ヒマワリが苦笑する。

少女はステラに視線を向けた。


「回復職、ですよね」

「うん。最近、慣れてきたところ」


ステラが笑顔で答える。

嘘ではなかった――始めたばかりの頃に比べれば、確実に成長している。

少女は少しだけ考えるように間を置いてから言った。


「……あなたたちの連携、悪くなかったです。判断も、的確でした」

「ありがとう」

「ティアです。ソロで来てました」

「私はステラ。こっちはヒマワリちゃん」

「よろしくね」


ティアは周囲を見回し、静かに言った。


「ここ、進める場所が一定じゃないです」

「うん、私たちもそれ感じてた」


ステラが頷く。


「だから、一人だと判断が遅れる。選択肢を見落とす可能性も高い」


ティアは少しだけ視線を下げてから、続けた。


「それに……弓だけでは、このエリアの敵に対処しきれません」

「確かに。スライム系は物理攻撃に耐性あるしね」


ヒマワリが同意する。


「……あなたたちは、剣士と回復職。近接戦闘と回復に特化している」


ティアが二人を見つめる。


「私は遠距離攻撃と索敵が得意です。役割が重ならない」


少しだけ、視線が揺れる。


「……一緒に行くのは、どうでしょう。合理的な判断、だと思います」


ティアが提案する。


警戒心が強いのか、表情はあまり変わらないが、声には少しだけ期待が滲んでいた。



「いいよ!」

ステラは、弾けるような笑顔で即答した。

そこに迷いや、見ず知らずの他人に背中を預けることへの警戒心は一切ない。

もしティアが「共闘のフリをして背後から刺す」とか「レアアイテムを横取りする」といった野心を持っていたとしても、今のステラを見れば、あまりの無防備さに毒気を抜かれてしまうだろう。

それほどまでに、ステラの承諾は純粋で、一点の曇りもなかった。


「私たちも、人数が多い方が助かるし。それに、索敵できる人がいると心強い」

「……ありがとうございます」


ティアが小さく頷く。


「勘違いしないでください。一緒に行くのは"効率的"だからです」

「わかってる、わかってる」


ヒマワリがくすりと笑う。

こうして、三人は合流した。


「じゃあ、改めて探索しよう。出口を探さないと」

「はい。この先、まだ進めそうな通路があります」


ティアが前方を指差す。


「じゃあ、行こう」


三人は再び歩き始めた。

出口はまだ見えない。

でも――探索は、少し楽になりそうだった。


巨大生物の中がダンジョンだった、こういう設定よくありますよね。


次は2/22 21時投稿予定

お楽しみに!


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