第046話 極振りヒーラー、巨大魚ダンジョンの探索1
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どうぞお楽しみに!
目を開けた瞬間、まず思った。
――あ、これ、前よりは落ち着いてる。
真っ暗で、ぬるっとしていて、空気が生臭いのは相変わらずだけど。
心臓がバクバクして、頭が真っ白になる感じはなかった。
「……うん、生きてるね」
ステラはそう呟いてから、ゆっくりと立ち上がった。
足元は柔らかく、少し弾力がある。
踏みしめるたびに、ぐにゅっと沈む感触が伝わってくる。
以前なら「気持ち悪い!」と叫んでいたはずなのに、今は――
「まあ、こういう場所もあるよね」
自分でも意外なほど、冷静だった。
フルグラウスとの死闘を経験したせいか、多少の異常事態では動じなくなっている。
「成長してるね、ステラ」
隣で剣を構えたままのヒマワリが、くすっと笑う。
「前なら、泣いてたと思う」
「……それは否定しない」
ステラが苦笑いを浮かべる。
視界に浮かぶ文字が、状況をはっきりさせる。
【エリア:巨大魚体内】
「やっぱり、お腹の中かぁ」
「しかも、普通に探索エリアになってるね。運営、こういうの好きだよね」
ヒマワリが呆れたように肩を竦める。
周囲を見渡す。
壁は赤黒く、脈のような線が走っている。
天井も床も、微妙に上下していて、生き物の呼吸が感じられる。
「……これ、ずっと動いてるよね」
「うん。体の中だから、動くのは当たり前か」
ヒマワリは壁に手を当て、タイミングを測るように目を細めた。
「止まることはなさそう。慣れるしかないかな」
「だよねぇ……とりあえず、出口を探そう」
「うん。多分、奥に進めば何かあるはず」
二人は慎重に歩き始めた。
少し進んだ先で、問題が起きた。
さっきまで開いていた通路が、ゆっくりと閉じ始めたのだ。
「……あ」
「塞がるね」
肉壁が寄り合わさり、完全に道を塞ぐ。
まるで生き物の器官が動くように、自然な動きで閉鎖された。
「うーん…戻るしかないかぁ」
「うん。無理に触ると、ダメージ受けるタイプだと思う」
別の道へ進むと、今度は床がじわっと沈む。
「うわっ……これ、長く立ってるとダメそう」
「うん、戻ろ」
判断は早い。
二人は自然と息を合わせて動いていた。
「……なんていうか」
「ん?」
「ここ、意地悪っていうより、落ち着きがない感じするね」
ステラはそう表現した。
「常に体調が変わってる感じっていうか……生き物の中だから、状態が一定じゃないんだね」
「的確だね」
ヒマワリは感心したように頷く。
「つまり、急がないほうがいい」
「うん。待てば通れる道も、ありそう」
少し立ち止まって観察すると、水が満ちたり引いたりする通路が見えた。
「今はダメだけど……」
「引いたら行けそうだね。タイミングを見計らえば通れる」
そうやって少しずつ、進める範囲を広げていく。
探索は地味だったけれど、不思議と楽しかった。
パズルを解いているような感覚で、二人は協力しながら進んでいく。
しばらく進んだところで、遠くから「カン」という乾いた音が聞こえた。
「……武器の音?」
「弓っぽいね」
ヒマワリが耳を澄ます。
さらにもう一音。
今度は、少し焦った呼吸音が混じっている。
「プレイヤー、だ」
「一人かな。戦闘してるみたい」
二人は顔を見合わせる。
「……どうする?」
「助けられそうなら、助けたい」
ステラの答えは早かった。
「無茶はしないけど、見捨てる理由もないし」
「うん。それでいこう」
ヒマワリも頷き、二人は音のする方へと駆け出した。
音のする方へ進むと、少し広い空間に出た。
そこにいたのは、小柄な少女だった。
白と紅を基調とした軽装の巫女服。
体の動きを邪魔しないよう、軽く調整されている。
頭には獣の耳――ケモミミ装備が揺れている。
短弓を構え、矢を放っているが――敵の数が多い。
《スライム・アビス》
粘液状のモンスターが、じわじわと距離を詰めていた。
一体、二体、三体――少なくとも五体はいる。
少女は冷静に矢を放ち続けているが、弓の攻撃だけでは削りきれていない。
スライムの再生速度が速く、倒すより先に回復されてしまっている。
「……ちょっと多いね」
「それに、スライム系は物理攻撃に強い。弓じゃ厳しいかも」
ヒマワリが状況を分析する。
「助けに入るよ。ステラ、準備いい?」
「うん!」
「行くよ!《加速》!」
ヒマワリは一気に空間へと飛び込んだ。
「《サンダーラッシュ》!」
雷を纏った三連撃が、一体のスライムを瞬時に斬り裂く。
電撃がスライムの粘液を貫き、光の粒となって消えた。
「っ!?」
少女が驚いて振り向く。
「大丈夫!援護するよ!」
ヒマワリが叫ぶ。
だが――残りのスライムが、少女の背後へ回り込もうとする。
「ヒマワリちゃん、右!」
「見えてる!《跳躍》!」
ヒマワリは大きく跳び上がり、空中から《ウィンドスラッシュ》を放つ。
風を纏った斬撃が、背後に回り込もうとしたスライムを切り裂いた。
その間に、ステラは落ち着いて詠唱した。
「《ヒール》!」
光が少女を包み、削られたHPが回復する。
「……!?」
少女が一瞬、驚いた顔をした。
「そのまま攻撃続けて!私が回復するから!」
ステラが叫ぶ。
少女は一瞬だけ躊躇したが――すぐに弓を構え直した。
「……了解です」
矢が次々と放たれ、スライムの動きを牽制する。
ヒマワリは地面に着地すると同時に、《加速》を発動させた。
「《ソニック・ブレイク》!」
素早い二連撃が、三体目のスライムを切り裂く。
残りは二体。
だが――スライムが体を膨張させ、爆発しようとする。
「危ない!」
少女が叫ぶ。
「《ヒール》!」
ステラは自分自身にも回復魔法をかけ、《リストア・ヴェール》のバリアを展開する。
ドンッ!
爆発の衝撃がバリアを叩くが、ダメージは通らない。
「今だ!《サンダーラッシュ》!」
ヒマワリが残りの二体に雷の三連撃を叩き込む。
一体、また一体と、スライムが消えていく。
最後の一体が、少女へと飛びかかろうとした。
「《ヒール》!」
ステラが少女のHPを回復し、少女は落ち着いて矢を番える。
「――」
矢が放たれ、最後のスライムの核を貫いた。
スライムが光の粒となって消えた。
静寂。
「……助かりました」
少女は弓を下ろし、深く息を吐いた。
近くで見ると、かなり小柄だ。身長は148センチほどだろうか。
華奢な体つきだが、目つきは鋭く、周囲を一瞬で確認している。
「無事で良かった」
ステラが笑顔で近づく。
「無茶は……しない方がいいです」
「うん、反省中」
ヒマワリが苦笑する。
少女はステラに視線を向けた。
「回復職、ですよね」
「うん。最近、慣れてきたところ」
ステラが笑顔で答える。
嘘ではなかった――始めたばかりの頃に比べれば、確実に成長している。
少女は少しだけ考えるように間を置いてから言った。
「……あなたたちの連携、悪くなかったです。判断も、的確でした」
「ありがとう」
「ティアです。ソロで来てました」
「私はステラ。こっちはヒマワリちゃん」
「よろしくね」
ティアは周囲を見回し、静かに言った。
「ここ、進める場所が一定じゃないです」
「うん、私たちもそれ感じてた」
ステラが頷く。
「だから、一人だと判断が遅れる。選択肢を見落とす可能性も高い」
ティアは少しだけ視線を下げてから、続けた。
「それに……弓だけでは、このエリアの敵に対処しきれません」
「確かに。スライム系は物理攻撃に耐性あるしね」
ヒマワリが同意する。
「……あなたたちは、剣士と回復職。近接戦闘と回復に特化している」
ティアが二人を見つめる。
「私は遠距離攻撃と索敵が得意です。役割が重ならない」
少しだけ、視線が揺れる。
「……一緒に行くのは、どうでしょう。合理的な判断、だと思います」
ティアが提案する。
警戒心が強いのか、表情はあまり変わらないが、声には少しだけ期待が滲んでいた。
「いいよ!」
ステラは、弾けるような笑顔で即答した。
そこに迷いや、見ず知らずの他人に背中を預けることへの警戒心は一切ない。
もしティアが「共闘のフリをして背後から刺す」とか「レアアイテムを横取りする」といった野心を持っていたとしても、今のステラを見れば、あまりの無防備さに毒気を抜かれてしまうだろう。
それほどまでに、ステラの承諾は純粋で、一点の曇りもなかった。
「私たちも、人数が多い方が助かるし。それに、索敵できる人がいると心強い」
「……ありがとうございます」
ティアが小さく頷く。
「勘違いしないでください。一緒に行くのは"効率的"だからです」
「わかってる、わかってる」
ヒマワリがくすりと笑う。
こうして、三人は合流した。
「じゃあ、改めて探索しよう。出口を探さないと」
「はい。この先、まだ進めそうな通路があります」
ティアが前方を指差す。
「じゃあ、行こう」
三人は再び歩き始めた。
出口はまだ見えない。
でも――探索は、少し楽になりそうだった。
巨大生物の中がダンジョンだった、こういう設定よくありますよね。
次は2/22 21時投稿予定
お楽しみに!




